先輩のだけ市販ですから
バレンタインデーが終わる5分前に書いたやつ。清書して1000文字丁度になるようにしました。
某小人さんの換算と異なるのでサイトにアップするやつよりちょっとだけ文字増やしてます。
「……先輩のだけ市販ですから」
そう言って綺麗にラッピングされたチョコレートを俺に手渡した後輩女子は傍から去って行った。あまり広くない音楽室を縦横無尽に歩き回り、俺以外の男子部員に次々と「手作りチョコです!」と言いながら手渡していく。
後輩女子はラッピングには気を使わないようで、コンビニのビニール袋の中にサランラップとアルミホイルで包んだチョコレートを入れて、一つ一つ出して配っていく。
他の部員と俺で、手の中にあるチョコレートに差が出る。後輩女子が「はいはい」と渡していく手際は手裏剣を的に投げつけていく忍者のようにも見えるし、自転車に乗りながら新聞を家のポストに投げ込んでいく新聞配達員にも見えた。
それくらいの勢いで配られたチョコレートを、男子部員は全員、苦い顔して見ている。
「なあ、なんでそんな嬉しくなさそうなんだ?」
一番近いところにいた一つ下の後輩男子に話を聞いてみる。
「あ、先輩って去年はもらわなかったんでしたっけ」
「ああ。インフルエンザで休んでたんだよ」
去年、後輩女子が一年の頃も、今日と同じように荒ぶっていたはずだ。
後輩女子はいつもいつも「みんな好き」と男子にアプローチしているような気が多い女子だ。
誰かの誕生日には手作りのクッキーやらロールケーキやらお菓子を。こうしたバレンタインデーには手作りチョコを上げていた。
「そういや、誕生日の時もたまたま風邪だったりしたから、一度ももらってないわ」
改めて考えると残念だ。俺も手作りお菓子をもらいたい。手作りが良いのは何よりもその作った人の気持ちがこもってるところだろうし。
そう思ったからこそ、チョコレートが市販のものだったのはけっこうショックだった。気の多い彼女にとって全員同じくらい好きならば、俺だけ義理ということになる。自分だけ差がつけられている事実を見るのは気持ち良くない。俺に恨みでもあるのか。
「それでいいと思いますよ」
「なんでだよ。手作りのほうがいいに決まって――」
後輩男子が持つチョコレートを見て、言葉に詰まる。
円の形が崩れた少し黒が濃いチョコレート。
「彼女に悪気はないんですけど。形も味も微妙なんですよ」
みんな、彼女に悪いと思って食べるしかない、と苦笑いして後輩は口にチョコレートを入れた。とても苦そうな顔だった。
『先輩のだけ市販ですよ』
彼女の言葉を思い浮かべた時、後輩女子がこっちを見ているのに気付いた。その頬は心なしか赤かった。
チョコ美味しいですよね。