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意味が分らなかった。白瀬直巳の大切な人?地底人とか金星人とか言われた方がまだしもリアリティがある。
「それって、何かの冗談か?」
とりあえず訊いてみる。あるいは哲平には理解が難しい高度な謎かけとかだろうか。禅問答みたいな。
「私は冗談は言わないわ」
「だよな」
即座に同意してしまう。そもそもそんな可愛らしい冗談を言うような奴なら、「大切な人」発言に驚くこともない。
哲平は改めて考えてみた。直巳に誰かそういう相手がいるとすると。
「まさか……」
恐ろしい可能性に突き当たる。
今年、哲平(と直巳の)中学からは、哲平の他に三人が武成に入学している。そしてそいつらと直巳の間に接点はない。おそらく一言も喋ったことすらないはずだ(直巳にはそういう相手は珍しくない。むしろそれが普通だ)。
つまり、この学校で直巳のことを知っている四人のうち、三人は確実に当てはまらないことになる。と、いうことは。
「お前の大切な人って」
恐る恐る尋ねる哲平に、直巳はきっぱりと頷いてみせた。
「お」
「あの子」