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「だだだ、痛い痛い痛い、悪かったゴメンナサイ!!」
直巳の腕を掴んでいたはずが、逆にこちらが手首を極められていた。関節を捻るというより、てこの要領でつぼを攻める技で、これがまた恐ろしく痛い。直巳は合気道の有段者なのだ。
「違うわよ」
「な、何が?」
苦痛から解放されて、手首をさする哲平に直巳は淡々と説明した。
「武成は男子校じゃないわ。少なくとも、今年度の募集要項には『男子のみ』という規定は無かった。なくしてもらったから」
「いやなくしてもらったって、そんな……」
言葉を素直に受け取るなら、直巳が自分の意思でこの伝統ある名門進学校を共学に変えてしまった、ということだ。
そんなことできるわけがない──とも言い切れない、白瀬直巳に関しては。
名門とはいえしょせんは私立校である。経営陣さえ承諾すれば、変更は可能だろう。白瀬家の財力と影響力を考えるなら、それも決して難しい話ではないような気がしてきた。
だがそれでも大きな問題が残る。
「なんだって、わざわざそんなことを」
武成が県下有数の(というかトップの)進学校であることは事実だが、優秀な学校なら他にもある。
それに極端なことを言えば、直巳の頭脳を以てするなら、別に高校など行かずとも独学で東大にだって入れるだろう。
哲平の疑問に対し、直巳は実に奇妙な反応を示した。
「…………」
頬を赤らめ、おもてを伏せる。それはまるで恥じらう乙女のようで。
既にして哲平の理解能力を超え気味だったが、続いた言葉はもはや脳に投げ込まれた爆弾だった。
「大切な人が、この学校に通うことになったから」