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「ちょっと来いっ」
哲平は直巳の腕を掴んで校庭の隅へと引っ張った。いっそ外に出た方がいいのかもしれないが、女子の手を引いて男の群れの中を逆行するのもかなり勇気がいる。
とりあえず目立たない場所まで来ると、周囲からの視線を遮るようにして直巳の前に立った。
「なんでお前がこんなとこにいるんだよ?」
荒っぽく責めるような口調になってしまうのを止められない。これでも抑えているのだ。本当なら怒鳴りつけたいところだった。
「いけない?」
しかし直巳は涼しい顔だ。一七五センチある哲平と正対しても、横幅はともかく高さではそれほど見劣りしない身体は、古代の女神の石像さながらに小揺るぎもしていない。
「あ……当り前だろうがっ。馬鹿かお前!」
その冷静な態度に哲平はかえってかっとなった。相手が女子であることへの気遣いも忘れ、細っこい前腕を力任せに握り締める。
「何考えてんだよ、ここは男子校だ、だだだだだ」
興奮のあまりに語尾がおかしくなってしまった、わけではなかった。