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手が虚しく空気を掴む──どうせそんなことだろうと思った。
全く。つまらない冗談だ。小学生レベル。
ため息をつきたい気分で見上げれば、ミサトは愛らしい顔に「してやったり」というような表情を浮かべて、はいなかった。
「いつまでそうやって座り込んでるのさ。きみにはガッツってものがないのかい?」
そしてむしろ哀れみ、蔑むように。
「本当に、タマなしなんだね」
「──誰が」
哲平は跳ねるようにして立ち上がった。小枝一本ほどの至近から、ミサトを睨み下ろす。
「俺は、暴力は嫌いだ。ましてお前みたいなのに手出すつもりは毛頭ない。だけどな」
ちらりと横目で窺うと、直巳に即時武力介入の気配はない。哲平は改めてミサトの方に向き直った。
「だからって、何やっても言っても許されると思うな」
威して恐れ入らせようとか、そんなつまらないことを考えてるわけではない。ただこのまま大人しく引っ込んでいたのではいかになんでも男が廃る。
ミサトも退かない。その瞳はあくまでも生意気だ。
なのに綺麗なのが、一層癪に障った。
けれどここら辺りが潮時か。
哲平は距離を開けようとした。するとまるで機を計っていたように。
「うん」
ミサトは力を込めて頷いた。
「認める。きみは本当のオトコだ。だからぼくもちゃんと自己紹介しよう。名前は花之舞実咲人、花が舞い、実り咲く人……オトコの中のオトコだよ」
セーラー服の良く似合うとびきりの美少年(?)は、惚れ惚れするような男前な笑みを浮かべて言った。
(vol.2に続く)