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色白でほどよく引き締まった太ももに、哲平の目は吸い付けられる。が、それはほんの一瞬のことで終わった。
「ぐがっ」
強いて文字にするならそうなるだろう。哲平の口が異音を発した。
「だめよ、ミサト。そんなはしたないことをしては」
穏やかにたしなめる言葉が振動となって直に伝わる。
それもそのはず、直巳の身体が蛇のように哲平に絡みついていた。
左腕は上方から巻き付いて首を極め、同じく右腕は哲平の右手首を取って、自身の胴を支点に曲がってはいけない方向へ肘を伸ばす。プロレスで言うところのドラゴンスリーパーに似た体勢だ。
気が遠くなりそうなほどに痛い。なのに身をもがかせることすらできない。
そしてさらに恐ろしいのが、これでも直巳は十分に手加減をしているという事実だった。なにせまだ首の骨が折れていないのだから。
「冗談だよ、直巳。ぼくがお風呂以外で全部を見せるのは、直巳だけなんだから」
端からするとかなりアレげな発言だったが、直巳にとっては安心できるものだったらしく。殺人半歩手前の拘束が緩む。
どうにか目だけ動かして見ると、ミサトはもうスカートの裾から手を下ろしていた。
哲平はほっと息を吐きながら、しかしいささか残念な想いも拭い切れず──ひぎっ。
直巳は人の心を読むスキルも身に付けているらしい。
自力での脱出は完全に不可能、といって他からの助けも望めず、もはや哲平にとっての救いは気を失うことだけかと思われた。
「だけどね、直巳」
しかし女神はそこにいた。
「直巳もそんなことしたらダメ」
見た目通りの可愛らしい口調、なのにやけに力強い響き。
哲平は感動の余りに震えそうになる。
言動は少しばかりおかしくても、やはりこの子はれっきとした女の子なのだ。美少女ではあるがサイボーグみたいにハードな直巳とは違う。真の優しさを持っている。そして優しさは時として強さに勝る。
その証拠に、直己は気後れしているようだった。今なら力尽くでも振りほどけそうだ。
だが哲平はミサトに任せることにした。直巳はミサトのことをとても大事にしているらしい。その心からの言葉が伝われば、直巳も少しは女の子らしくなってくれるのではないか?
そして動揺を隠せない様子の直巳にミサトは言った。
「かよわい女の子をいじめるなんて、オトコとして見過ごせないよっ」