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タイムパラレル  作者: 結倉芯太
2章
26/28

2-5 凛の自己紹介


「とりあえず、ここが職員室だ。昨日教えてもらっただろ、先生達のいる部屋だ。俺はひと足先に教室に行ってるから、後は先生の言う事に従えばいい」

「はい」

「じゃあ、また後でな」

 職員室に入る凛を見送る。

 ――これでようやく少しは落ち着けるはずだ。

 玖狼は軽く息を吐く。そして、久しぶりに感じる校舎の風景を楽しみながら、教室へと歩を進める。

「よう、玖狼」

「よう」

 教室の扉を開けた玖狼に声を掛けてきたのは春日井(かすがい)将貴(まさき)だった。玖狼の友人であり、部活も同じ剣道部。快活な性格である将貴はクラスでも部活動でもムードメイカーのポジションを担っている。

 玖狼はそんな友人と短い挨拶を交わすと、窓際の席に着く。その後を追うように将貴も玖狼の前の席に座る。

「なぁなぁ、知ってるか? 今日さ、なんか転校生が来るらしいぜ。しかも外人でめちゃくちゃ美人だってよ!」

 ――ああ、知ってるよ。ただし、凛は父親が日本人のハーフだよ。

 玖狼は心の中で答える。もちろん実際に口に出す言葉は別のモノだ。

「へぇ、そうなのか?」

「でよぉ、なんかウチのクラスらしいぜ! うわっ、なんかスッゲーテンション上がんねぇ?」

「上がんないよ」

 ――テンションなんて上がるどころか、心の内は不安でオーバーフローしそうだよ。

「マジかよ? 普通じゃねぇな、相変わらず」

「普通だよ。――っていうか、普通ってなんだよ。お前みたいに浮かれまくることかよ」

「いやいやいや、そうじゃねぇって。普通可愛い子が転入してくるって聞いたらよ、まず聞き返すだろう? どんな子だ? 外見は? 性格は? 髪型や顔どんなだ? なんて聞くのが普通じゃねぇか」

 まぁ、確かに一般的な男子高校生であれば、そういう色恋話にはしるのが普通だろう。

 玖狼は先ほど将貴が言った質問の全てを答えることができるくらいに、その転校生の情報を知っている。だが、それでは将貴に勘繰られるに違いない。ここは知らないふりをして話を合わせておく事にする。

「で? どんな感じの子なんだ?」

「お? やっと聞く気になったのか? しょうがねぇなぁ、聞いて驚くなよ!」

 そんな玖狼の思惑を他所に、将貴は平手を合わせると、大仰に話を始めた。

「瞳はエメラルドのような蒼い色してるみたいだぜ。可愛らしい大きな瞳に長い睫毛(まつげ)なんてあったら、それはもうぜってぇ反則だよな」

 ――正解。

「髪は茶髪。でも染めたような感じはなくってさ、多分地毛だな。この二点からおそらく転校生は外人か、ハーフだろ!」

 ――これも正解。

 噂だけでここまで正確に予想できるとは凄い友人である。玖狼は素直に感心してしまう。

「それなのによ、礼節を重んじるような落ち着いた雰囲気を醸し出した、まるで『大和撫子』のような清楚な美少女だっていうじゃねぇか! 日本人でもないのに、このギャップは本気(まじ)でヤバイよなっ!」

「へぇ、そりゃ凄いな」

 ――驚いた。これも大体合ってる。というか、将貴、お前いつ何処で凛を見たんだよ。本当に噂だけでこれだけ正確な話が出来るのか?

 玖狼は少しだけ将貴を疑いの眼差しで見てしまう。

「お前、本当に妄想だけで話をしているのか?」

 玖狼は少しカマをかけてみた。

「? そりゃそうだろ。可愛い転校生の妄想なんて、普通するだろ! 興味が無い振りをしている奴も内心では絶対興味津々だぜ。お前こそ何言ってんだ?」

「……ははっ、そうだよな」

 ――普通はするのか? 玖狼は疑問を抱きながらも当たり障りのない返事をする。

「はーい、皆、サッサと席に着けー。ホームルーム始めるぞー」

 玖狼が返事をしたタイミングで、担任の有村(ありむら)(いわお)が教室に入ってくる。名前とは裏腹に、線は細く、髪はサラサラのストレートヘアーを耳のあたりまで伸ばした、一般にイケメン先生と呼ばれる類の先生だ。女子生徒からの熱いアタックも、数回目撃されている。

「よーし、全員席に着いたな」

 教壇の机に両手を付き、周りを見渡すようにして有村が言う。

(……おい、こころなしか(げん)ちゃんの声がうきうきしてねぇか?)

(そうか? いつもと変わんないように見えるけどな)

 玖狼の前の席、将貴が小声で話しかけてくる。

「さて最初にもうお前らも知っているとは思うが、今日は転校生を紹介するぞ。まぁ、大人の先生から見てもびっくりするくらい別嬪(べっぴん)さんだから、特に男子は犯罪行為にはしらないように注意するように」

 ちょっと洒落じゃすまなくなりそうな内容で、有村が注意を促す。その言葉にクラスメート達は騒めく。確かに教師がびっくりするくらいの別嬪だと言うのだから、期待しない理由(わけ)がない。特に男子のテンションは急上昇しただろう。

「おい、お前ら静かにしろ。桜城さん、入ってきなさい」

「はい」

 有村に呼ばれると、扉を開け、凛が教室に入ってくる。

(やっぱり、俺の想像通りじゃねぇか! 見たかよ、玖狼)

(ああ、そうだな)

 将貴が背筋を丸め、小さくガッツポーズをする。

 教室に入ってきた凛は、足取りはゆっくりと穏やかに、少し俯きがちだがはっきりとわかる、蒼い大きな瞳には、少し緊張の色が見える。トコトコと教壇の上まで来ると、いきなり鞄を置き、正座をする。

「っ!」

 玖狼は勿論、クラス全体が凛のその行動に硬直した。

 凛は正座したまま、両手をゆっくりと丁寧に前に添え、深々と(こうべ)を垂れる。その姿が土下座であるにも関わらず、綺麗に見えるのだから、本当に不思議だ。

「桜城凛と申します。皆様、何卒(なにとぞ)よろしくお願い致します」

 ――やっちまった。

 玖狼は右手で顔を覆い隠しながら、項垂(うなだ)れる。礼儀作法がしっかりしているとは思っていたが、こいつはいきすぎだ。

「お、桜城さん、立って! 立ちなさい」

「はい」

 慌てて有村が凛を注意する。そんな先生を余所に、何食わぬ顔で凛は立ち上がる。

「えー、桜城さんは今まで学校に通わず、自宅学習をされていたそうだ。この度ご両親の御仕事の都合により、この学校に編入してきました。皆仲良くするように。席は湊の後ろの席だ。湊、面倒を見てやれよ」

「……はい」

 有村は凛が玖狼の家から通っている事を知っている。おそらく、そういった事情を含め、玖狼の近くに席を用意したのだろう。このままでは、いずれ同居の件も皆にバレるだろう。少しは平穏なひと時を満喫したかったが、それも叶わないようだ。

「それと、皆よく聞いとけよ。最近、この辺りで通り魔事件が多発している。学校は始まったばかりでいうのもなんだが、日が暮れる前になるべく早く帰るように」

 その話は玖狼もテレビで知っていた。最近出没する通り魔。狙いは老若男女問わないらしい。共通点は襲われた人達が、皆、貴金属を身に付けていたという事。そして、それらが全て壊されていたという事。今のところ死者や重傷者は出ていないが、少なくとも怪我を負った人間は出ている。

「もちろん、今日は部活動も中止だ。始業式が終わったら、さっさと家に帰るように。以上」

(まじかよ、今日は部活休みか! おい、今日の放課後さ、どっか行かないか?)

(おいおい、「早く帰れ」って言われたろ? 俺、今日は姉さんに早く帰るように釘さされてんだよ)

 玖狼と将貴の間で密談が交わされる。

(でもよ、こんなに早く帰れる機会なんて滅多にないぜ。それに、日が暮れる前に帰れりゃいいんだよ。お前のトコの姉ちゃんもそれくらいなら許してくれるだろう? どうだ、桜城さんも誘ってさ)

 確かに静香も学校が終わったら直ぐに帰ってくるように言われたが、部活があることを想定しての発言だろう。そういえば、将貴とは夏休み前からしばらくご無沙汰していた。

(分かった。でも夕方前には帰るからな)

 少しくらいなら大丈夫だろう。凛だってこれから先、放課後に遊びの誘いを受ける事はきっとあるだろう。いい機会だ。そう思い、玖狼は了承したのだった。それを聞いた将貴がホームルームの間、だらしない顔で終始浮かれていたのは言うまでもなかった。




どうも結倉です。

多少間延びした感じも否めませんがそろそろ物語は加速(?)していく予定です。

いい加減、序盤の盛り上がりに欠ける展開は反省すべきですね……


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