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タイムパラレル  作者: 結倉芯太
1章
14/28

1-12 開始


「それでは行ってきやす」

 真夜中の屋敷の玄関口、網傘をかぶり、風呂敷を背中に抱えた才蔵と太一が玖狼を見る。

「あぁ、頼むよ。そっちは厳しい状況になると思うし、無理だと判断したら引き返してください。絶対に無茶だけはしてはいけないからね」

 キツネ顔と童顔の青年に注意を促す。横では灯の蝋燭を持った密が、才蔵達に付いて行く忍達に指示を出している。普段玖狼に憎まれ口しか言わない密だが、今は群れをまとめ上げる主のように頼もしく、大人びたように見えた。

 そんな事を思っていると、玖狼の背後から凛がひょこっと顔を出す。申し訳なさそうに眉をひそめている。

「才蔵殿、太一殿、私の事情でこのような危ないお仕事をさせてしまい申し訳ありません。何卒、何卒無事に帰って来て下さい」

 二人は憂色を漂わせている姫に対し、笑顔を返す。

「兄貴、姫様に心配してもらったねぇ」

「おう、こりゃ絶対生きてかえらねぇとな。そいじゃ、時間もないことですし、俺達は行きますぜ」

「俺らも準備が整い次第、中継地点で待ってるからなぁ。きちっと情報持って帰ってこいよ!」

 昌虎が言うと、二人は頷き網傘を深々とかぶり直すと、颯爽と二人は御付の忍と共に夜の世界へと駆けて行った。

 闇に溶けていく二人を見送り、屋敷に入る。昌虎達は準備の為、各々の部屋へ戻る。玖狼と凛、密は玖狼の部屋で囲炉裏いろりを囲むようにして座った。

「それで私達はあいつらが諜報活動をしている間に何をすればいいのだ?」

 密が屋敷の従者から出された茶を啜りながら言う。

「あぁ、もし仮に俺の狙い通りに植村家の侵攻を阻止できたとする。そうすれば、植村は次にどんな手を打ってくると思うか?」

「うむ、そうだなぁ……」

 密は手の平に顎を乗せて考え出すが、体術以外はからっきしの忍である彼女は、相手が大人しく引き下がってくれると思っていたようだ。しばらく同じポーズのまま固まっていたが、最後には頭をくしゃくしゃと掻き乱して「わからん」と一言呟いた。

「じゃ凛はわかるか?」

 聞かれた栗色の髪をした女の子は、両手で持って呑んでいた湯のみを膝の上に置く。

「そうですね、考えられるのは私の拉致もしくは暗殺、といったところでしょうか」

 密が目を吊り上げ驚く。

「俺もそれが心配だ。俺達の計画が成功すれば、植村は凛を攫うもしくは暗殺しようとしてくる可能性がある。だってそうだろ? 元々は凛と幸隆さんが結婚して、春日家が甲斐の象徴になってしまうのを防ぐのが植村家の目的だろ」

「そうか、そうだったな。だから植村は姫様を奪い、変わりに自分が甲斐の象徴となるために兵を挙げた」

「計画が失敗した場合は、何者かの手によって私を攫うか暗殺することによって春日家がこの地方の象徴になることを妨げようとする可能性があります」

「そういう事、でも幸隆さんや屋敷の警護をする人達の殆どは、今回の合戦で甲ヶ崎峡まで出陣してしまうよね。そして春日侵攻が失敗した場合、凛に差し向けられる部隊は――――」

 玖狼が続きを喋る前に密が口を挟む。

「忍者か?」

 流石に同業者である密は察しが早かった。

 そう、植村家としては春日侵攻が不可能となった場合、凛の拉致、もしくは暗殺といった行動を起こすタイミングとしては、警護の者も城主も出払った時が最も都合が良い。そして、玖狼の計画の成功は時間的に考えても合戦の始まるギリギリまで分からない。だから植村家が侵攻失敗した場合に、恐ろしく残酷な手札を即刻その場で切るのは明白だ。その時にその手札となるのは、短時間で素早く距離を稼ぐことができ、気配なく忍び寄り任務を実行する部隊。まさしく密の言ったそれだった。

「となると出てくるのは『蛇』か……」

「蛇?」

「ああ、私達にも『赤鷹』と言う忍集団がいるが、植村にも『蛇頭だとう』、まぁ通称『蛇』と呼ばれる忍集団がいてな。姫様に近づいてくるのは絶対に奴ら以外に考えられない!」

 湯のみを持つ密の手が震えている。それが怒りからくるものなのか、それとも別の何かなのか玖狼には分からなかったが、とにもかくにも相手の出方が大体分かっているので、そうなった場合、出来るだけその情報が欲しい。

「その、『蛇』の実力は?」

「『赤鷹』と同等かそれ以上、奴らは個別に四つの集団に分かれていてな、まぁ集団あたり五、六人忍がいて、それぞれ癖のある者が頭をやっている。頭の実力は私と差異はない」

「その集団の中でどこの奴らが来ると思う?」

「分からない、正直実力的には何処も同じだろう。しかし実行部隊は一つだ。二つは他国の諜報活動で忙しく、もう一つはこの春日との戦による情報収集部隊だ。だから実行部隊は四つの集団の中の一つだろう」

「雪村はこの屋敷に残すことは可能なんだろう?」

「ああ、雪村は貴様と同じ姫の警護が任務だからな」

「私からも殿にお願いしておきましょう」

 玖狼は手元の湯のみを口に持っていき、会話で渇いた口に茶を含ませた。お茶は丁度飲みやすい温度になっており、とてもおいしかった。

 安堵した。

 雪村が凛の側にいることで、自分はある程度自由に動ける。自分が動き回れる事を考えれば、五、六人程度の忍を相手にするのは容易い。

 しかも襲撃部隊には、雪村を相手にする自分以上の実力者が必要だ。護衛の者も含めれば、玖狼が戻ってくる間くらいは凛を守りきれるだろう。

 どうにか考えが纏まり、対策も実行できる目処もたったことで安心した。そう感じると、自分の身体にどっと疲れが押し寄せてきた。

 ひどく眠い。三日後、少なくともここが戦場になる事は多分間違いない。ならば、少しでも休み万全の状態で奴等を迎え撃ってやろう。

 玖狼は密と凛に「おやすみ」と一言いうと、部屋に戻り布団に潜り込んだ。




どうも結倉です。

明日も更新予定です。

もう少しだけお付き合いお願いします。

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