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世界のカケラ  作者: viseo
王宮編
96/171

白い鳥 13

 ――下手なこと、言ってなかったろうか。

 何とか間に合って、姫君方と集団移動した本宮の舞踏会のホール。

 壁際に泳いで一息つく。


 目の前に大きく広がる緋色の階段。その周囲では、話題の姫君を中心に幾つもの輪が出来ていて、三者三様の動きで人々を魅了する。 

 ――仰々しく向かえた親に挨拶をして、その艶姿と身分をたっぷりと見せ付けて、そのまま去る姫君。

 ――親元の横に残り、顔と名と愛嬌を振りまく姫君。

 ――逆に身分不詳のまま、男達の興味を引きつける姫君。

 それぞれがそれぞれに、今夜の為に様々な工夫を凝らし、演出を重ねている。

 そんな中でも、ぎこちなく初々しく壁の花になった姫君に紛れれば、――私の今日の仕事も半分終ったも同然だ。


 ――それにしても。

 と、胸に広がる苦い思い。

 先程の不審な男の正体も気になったけれども、今湧き上がる不安は、稼動してしまった魔石に、自分がテッラ人だと不審がられるような発言が記録されていないか、だ。

 花火について、ありきたりの話しかしていないはずだけど……。

 そう思っても、じわりじわりと不安が迫る。

 

 光沢のある濃紺のドレスに金色の帯。対比も鮮やかなドレスの下で、今なお稼動し続ける魔石が暖かい。

 何度注意深く思い出しても、勿論答えなんて出ない。……なら、考えるだけ無駄ってことだ。

 ――この程度で音を上げていたら、明日の式典や大舞踏会なんてこなせるわけが無いし。

 そう無理やり気持ちを切り替えて、きらめくホールに目をやると、――目の前に赤い果実の載った、小さなカクテルが差し出された。


 あ。……いつの間に。

 顔が映るまで磨き上げられたグラスが、きらりと光る。

「よろしければお飲みになりませんか? 一番強くないカクテルを頂いてきました。」

 同じく、いつもより少しだけ緊張した顔で、それでもにこりとエルザが笑う。

 一瞬迷った後、それでも差し出された繊細なグラスを受け取った。

「ありがとう。――さっきは驚かせて、ごめん」

 付き添いとは言え、エルザはまったく詳細を知らないわけで。

 少し含みを持って謝れば、エルザはふるふると驚いたように首を振った。


「いいえ。姫様にもお考えがあると思いましたから――。でも今度何かあった時には、私を前に出させて下さいね。私にも、それなりの……心得はあるんですよ?」

 周りの耳目を気にして控えめに、それでも小さく拳を握って主張するエルザに、思わず胸が温かくなって笑みが浮かぶ。

 魔術も剣術も習得していない貴族令嬢のエルザが、十数キロの子供を右と左に抱えて走り回っていた私よりも強いとは思えない。けど、その気持ちがほっこりと嬉しい。

 エルザのおかげで肩の力が少し抜けて、グラスを傾けながら、まわりをぐるりと見渡す。

 すると時を同じくして、同じく壁の花の――新参者の姫君たちも、ようやっと場に馴染んできたところに見えた。


 ――そろそろ私も囮らしく、会場を一周くらいした方が良いかな。

 悪目立ちせず、尚且つ、人目にそれなりに触れるようにするって案外難しいもんだ。

 ”白い鳥”としては、壁の花よろしく、ずっとここに立ってる訳にもいかない。


 本当は、不審者あぶり出しの為に、ホールの中央で一曲披露。その後、隅っこに移動……と言う計画もあったんだけどね。

 元々ダンスやらないって筈だったのに、ある日、案外やらせてみたら出来るんじゃないかと、灰色狼が言い出して、何故か夜色魔術師も便乗。

 ハイウエスト締め付けて、右へ左へ、はい、ターン。顔は右に、手は左に。……って、んな器用なこと出来るかっ!

 結果、簡単なステップを覚えるので精一杯。

 もちろん社交界デビューのお嬢様が入念に練習する”乙女のワルツ”なんて踊れるわけもないわけで。

 足を踏まれまくった二人が、諦めて匙を投げたくらいの、華麗な腕前だったりする。

 

 出来ないものは出来ないし、仕方ないさ。……じゃ、適当にあたりをつけて、ぐるりとしますか。

 グラスをボーイに渡しながらそう思っていると、ふいに――少女独特の、甲高い声に呼び止められた。

「もしかして――…そちらにいらっしゃるのは、エルザじゃありません?」

「――…え?……あ。」


 エルザの戸惑った声に、視線をやれば、こちらにまったく気がつきもせず、素早くエルザを取り囲んだ三つの異なるシルエット。

「そうですわよね!――珍しい。貴女がファミアから出てくるなんて。」

「本当に。」

「ね、もしかして。今宵はシグルス様もいらしているのでは無くて?」

「まぁっ!でしたらお二人とも、今夜こそきちんと紹介して頂きましょうよ!」

「今度こそ逃がしませんわよ、エルザ!」

 うわ。と、絶句した私の前で、矢継ぎ早に質問する、かしまし娘s。


 何だ、君達は。

 眠れる森の美女に出てきた、三人組の魔女か。

 突込みどころ満載の三色のお嬢様方は、どうやらエルザの顔見知り、かつ、シグルスの熱心なファンらしい。

 エルザが口を開く暇すら与えずに、ぴーちくぱーちく凄まじい。

 ハイティーンの少女達が、自分の要望と願望と妄想をごちゃ混ぜにして詰め寄るのを、エルザは何か事情があるのか、四苦八苦しながら断っている。


 どこの世界にも、こういう子っているんだ。

 少しあっけに取られながら、夢中でまくし立てる少女達に近づき、扇を小さく音を立てて広げる。

 う~ん。そこまで締め上げた胸元で、息も切らさず、ノンブレスでまくし立てれるのは、若さかね。

 それでも、流石に上流階級の生まれか。

「あら。――何ですの?」

 その小さな合図を拾って、リーダー格であろう少女が、ようやくこちらに振り向いた。

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