白い鳥 11
最初に感じたのは、強い光とあちらこちらで上がる歓声。
そして体で感じる、低い重低音。
その聞き覚えのある音に、振り向いて夜空を見上げれば、一気に盛り上がる音楽と共に”光の華”が咲く。
定刻通りに始まった今夜のメインイベントに、エルザの感激したような声が上がった。
「うわぁ……っ。」
……しょぼい。
ドーーン!ドーーンと次々と空気を震わす音と共に、夜空に咲いたのは大輪の花……ではなく、微妙にねじれた平面花火。そしてその周りを少し遅れて、色のついた照明弾のような光が、ドンドンドンと炸裂する。
綺麗ですねぇ!と、目を輝かせるエルザの横で、思わず何とも言えず、空を見上げた。
ひとつ重低音がする度にテラスからも、お嬢様方の美しい歓声が、音楽に乗ってに流れてくる。
あー……、うん。
人の感動に水をさすつもりは無いけれど、これは~……駄目だ。
何というか、日本人の心には響かない。
生演奏の音楽が、花火の打ち上げと共に盛り上がる――そのテクニックには感心すれど、空に舞うのは、ドドドドッ!と、上がる色つき照明弾や、ねじれまくった複雑な平面花火ばかり。
スターマインとはいかなくても、もう少し頑張れないもんか。
遊園地の花火ですらもっとゴージャスだぞ。
――そう思ってると、いきなりその花火の跡に空に漂っていた多量の黒煙が、スッと左右に引っ張られるようにして、消えた。
「!?」
え? 何?何、今の!?
目を見開く私の前で、また音楽に合わせて、幾つもの平面的な花火と、照明弾が打ち上げられ、そして風もないのに、左右へと引っ張られるようにして消えて行く。
凄い!
「……へぇ~~~。おっもしろいねぇ」
思わずつぶやいた私に、エルザはビックリしたような顔で振り向く。
「え!?綺麗じゃなくて、面白いんですか?」
「うん。ほら、あの煙、どうやって消えてるんだろう。」
夜空を探してみても、もうどこにもあの煙はない。
それでも二度三度と、花火が打ち上げられると、段々と花火後方の星空が見えなくなっている事に気がついた。
「光の華ではなくて、煙……ですか?」
「うん。最終的に煙を後ろに流しているんだとは分かるんだけど、どうやってるんだろう。」
指で指し示しながら、煙の動きを推測すると、言われてみれば……。と、素直に小さく小首をかしげるエルザの髪飾りがちゃらりと揺れる。
ううっ。マジで可愛いぞ!
ちょっとウキウキしながら、夜の庭園の小高い丘の上で、エルザと二人で語り合う。
何か不覚にも、立場も忘れて、初々しい年下の彼女と初めて花火デートをする男の気持ちになってきた。
「風の魔法……ですかねぇ?それにしても、あんなに綺麗な光を上空で形にするなんて、どんな火炎魔法なんでしょう。」
「魔法――なの?普通に火薬じゃないのかな。」
「火薬ですか!?だって色がついてますよ?」
「いやいや、だって火の魔法ならもっと綺麗に上げられそうじゃない? さっきから丸とか四角とかの形が、少しねじれているし、普通に火薬だと思うよ。」
しきりに首をかしげて驚くエルザに、魔石や鉱石を火薬に混ぜると色が変わる物があると説明する。
「高価な魔石を砕くんですか?」
あーー……。なるほど。
私たちが炭の代わりにダイヤモンド燃やして、暖を取らないのと一緒で、こちらでは鉱石は基本高価なものだった。
「まぁ、もしかしたら違うかもしれないけど、それでも作れるはずだよ。」
その瞬間、私たちがいる暗闇よりもっと後方。より一層深い闇から、乾いた音が聞こえた。
パン、パン、パン。
「いやぁ――お見事。お見事。」
暗闇から聞こえたのは、楽しそうな、歌うような男の声。
「誰!?」
この庭園に、――男!?