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世界のカケラ  作者: viseo
王宮編
66/171

再会の白亜城 14

 銀の粉をまぶした様な光り輝く長い髪に、柔らかな紫水晶の瞳。

 内側から輝くような真珠のごとく決め細やかな白い肌。たおやかな立ち姿。

 いつも穏やかな笑みを浮かべた、国一番の美姫。

 前国王の慈しんだ、掌中の珠の妹姫レイラ。


 騎士達の憧れの象徴でもあり、国民からも絶大な人気があった姫は、国外からの降るような縁談を断り、生来病弱だった事を理由に一人の貴族の元へと嫁いだ。

 それは前国王の幼馴染でもあり、幼少より憧れを抱いていたユーン筆頭公爵。

 二人は仲むつまじく、周囲に祝福されながら、やがて一人の姫を授かりましたとさ。



 ……物語ならばここで「おしまい」。綺麗に終わる。

 よくあるベタなストーリーながらも、ハッピーエンド。子供が喜びそうな話だとすら思う。

 けれども現実は違ったらしい。

 生来病弱だったのが原因なのか。レイラ姫には、シルヴィア出産ののちには懐妊の兆しはまったく無く、ただ無常に月日が流れた。

 王族には過去に女王の例もあるし、労働階級では良くある話ながらも、王家に近しい大貴族に正式な嫡男がいないのは異例中の異例。


 男子優先のこの封建社会で、筆頭公爵のような大貴族に正式な嫡男がいないことは、屋台骨を揺るがす大問題だ。

 しかし相手は、王家より降嫁された、国民にも絶大な人気を持つレイラ姫。

 一人も子供を産んでいない石女ならともかく、嫡男を生む可能性もまだ残っている。


 結果、ユーン公爵は様々な思惑から側室を持つ事も出来ず、姫が降嫁して10年、シルヴィア7歳のみぎりに正式に総領姫として公爵家の継承権第一位を獲得。

 レイラ姫に男子が生まれるまでの条件付で、シルヴィアは異例の筆頭公爵家の跡継ぎとなった。


「事件はその2年後に起きた。丁度今の時期。当時王族並みに守られていたはずのシルヴィアが、花祭りの席で突如誘拐された。」

 フォリアの張りのある声が、静かに部屋に響く。

「花祭りって言うと、春に行われる?」

 レジデに教わった記憶が正しければ、花祭りは確かこの国だけでなく、中央大陸各国で行われる芽吹きの春を祝う一番大きなお祭り…だった気がする。

 クリスマスの様に世界各国で祝われるけれど、ちょっと面白いのが開催される日付が違う。南の国から北の国に向かって、桜前線の様に北上していくお祭りだ。


「ああ。各国、国を挙げての大イベントだからな。幼いシルヴィアも、大人しくしていられなかったんだろう。…だが、深窓の姫君の冒険の代償は、これ以上無いほど高くついた。」

 国中浮かれて何日間もお祭り騒ぎ。

 それなのに、自分は堅苦しい席でお人形さんの様に座っているばかり。

 銀色の髪の小さな女の子が、そんな状況に嫌気がさして、大人の目を盗んで抜け出した。


 ―そんな脳裏に浮かんだ情景に、小さくため息をつく。

 元の世界だったらば、もしくはこちらの世界でも平民だったなら問題にならなかったその行為。

 けれども、善からぬ事を企む大人には、むき出しの大金が転がっているようなものだろう。

 実際、小さな銀の姫君は、黒い毒牙に絡め取られてしまった。

 

「死亡した犯人が光の教団の信者だったこと。誘拐の手引きをした人間が、ついぞ見つからなかったこと。…あの誘拐事件は未だに謎が多い。――結局、手を尽くして見つかったシルヴィアは、その一件で光を永久に失った。」

 フォリアは長い指先を目元に持っていき、一文字の線を引く。

 その仕草に、当時の事件の冷酷さを垣間見て、何とも言えない暗澹たる気持ちになる。

 しかもまた、光の教団?

 ちらちらと見え隠れする、その不気味な存在。

 以前、フォリアが音石の中で「シルヴィアは光の教団に詳しい」と言っていたけれど、まさかこんな繋がりがあるだなんて。


 いくら大人の目を盗んだとは言え、国を挙げてのお祭りの場で、小さな姫君が抜け出せる程度のゆるい警備体制しかとっていない訳がない。

 どうやら当日、警備の目がそむくような、子どもが抜け出せる隙が出来るような、小さな事件があったらしい。

 そしてそれは、公爵家の人間の手引きが無くてはならない物だった。


「つまり当時の公爵家の中に、光の教団の隠れ信者がいたか、もしくはクリストファレスに通じている人間がいたかの、どちらかだ。」

 そう続けるフォリアの皮肉気な顔。

 こちらの世情に詳しくない私には、その意味は分からない。

 けれども、クリストファレスのスパイを疑われていた私。

 そして緋の間の会議にいなかった、ユーン公爵家の人間。

 それは何を指し示しているのだろう。


 何だか、そのもやもやした気持ちを晴らしたくて、深く考えずに口に出す。

「でも待って下さい。私が治療してもらえたように、シルヴィアの目だって魔法で治す事はできなかったんですか?」

 耳に入ったその言葉は、そのまま、すとんと心の中におさまる。


 そうだ。ずっと不思議に思っていた。

 仮死状態だった私が回復できるなら、どうして王族に近しいシルヴィアの目の治療が出来なかったんだろう。

 あの、治療に必要な精霊の力を最大限に引き出す設計の、豪華な病室。

 事件が起こったのが王都ならば、すぐに治療は出来なかったのだろうか。

 不思議に思う私に、隣から低いヴァリトンボイスが答える。


「トーコ。治療魔法は万能では無いんです。特に時間を戻すような大きな魔法治療は、患者の体力や様々な要因が複雑に絡み合っているんです。

 例えば、トーコの肩の怪我を治療魔法で治せなかったのも、それに当たります」

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