表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界のカケラ  作者: viseo
王宮編
58/171

再会の白亜城 6

「アルテイユ騎士団シグルス・フォンフト。シルヴァンティエ殿が後見に名乗りを上げられている、アーラ嬢をお連れしました。」

 シグルスの声と共に、ゆっくりと深く下げていた頭を上げる。

 ここはファンデール王国城内の一画。緋の間と呼ばれる、質疑応答をするのに適した会議用の部屋。

 高く空間を取った天井に、繊細なシャンデリア。淡いクリーム色の壁紙の上に、細かい木彫細工の板張り装飾がなされ、かっちりとした硬質な空気を品良く和らげている。

 部屋の中央には背凭れの高い、年代を思わせる木の椅子がひとつ、ぽつんと置かれ、後方には飴色の長椅子が前後に並ぶ。

 ベール越しに見た正面には、緩やかな弧をかいた長机が左右に二つ。

 やんわりと私を取り囲むように置かれたそれには、国議貴族院を代表した、何らかの権力者達が座っている。

 こちらの様子を伺う男達の、年齢、服装、その表情は多種多様。

 けれども決して穏やかなものだけでは無いことは確かだ。


 有り体に言えば、ここは一種の法廷であり、被疑者は私だ。


 人間、度が過ぎる緊張にさらされると、自己防衛本能が働くらしい。

 それともベール一枚の結界のお陰なのかな。

 まるで世界が、磨りガラスの向こうの世界の様に感じる。

 言い換えれば、ある種、現実感が無いとも言えるかも知れない。

 至極冷静な自分が、もう一人の自分が見下ろす。そんな不思議な感覚すらしていた。


 千差万別の視線を受けながら、用意された中央の椅子に座る。

 それと同時に、一際細い、進行役とおぼしき男性が手にした鐘を一度鳴らし、シグルスに問うた。

「御苦労。それでは審議を再開するにあたって、アルテイユ騎士団長シグルス。この少女が、シルヴァンティエ様が後見に名乗りを上げられている少女、アーラである事を騎士団の紋章にかけて、誓えますか。」

 緋の間と言うだけあって、進行役が身にまとう緋色の長着には何か意味があるのだろう。

 そう思ってみれば、部屋のあちこちに掛かっているタペストリーも、みな同じ緋色だ。

 けれども、縁に金の刺繍がなされた豪華なそれらも、今の私には血の色にすら見えた。


「私がアルテイユ騎士団長の名にかけて誓えるのは、この少女がシルヴァンティエ様と一緒に館に居住していた事、そして不慮の事故に遭った事のみ。それ以外を明証するものではありません。」

「ふむ。つまりはこの少女が、アーラ嬢では無いとでも。」

 進行役の声に、ざわりと会場が揺れる。

 後ろに控えているシグルスの顔を見ることは出来ないけれど、あの、いつもの殆ど表情を見せない顔をしている事だけは、容易に想像が出来る。

「可能性を申し上げているだけです。」

 案の定、冷静な声。

 もしここでアーラじゃないと証明されたら、無罪放免になるのだろうかと、そんな甘い考えが脳裏に浮かんで消える。

 でも希望は希望だ。

 下手をすれば、王族にも等しい人間を謀った犯罪人にされても困る。

 取りあえず、今優先すべきはシルヴィアとの合流。それさえ出来れば、また新たな戦略も考えられるだろうし、彼女が何故こんな事を言い出したかの真意も分かるはず。


 けれども。

 私のそんな考えを一蹴する様に、シグルスの良く通る声が、部屋に響く。

「シルヴァンティエ様がこの場にお越しになれない以上、この少女がアーラ嬢であると言う、明言は避けさせて頂きます。」

 ―― シルヴィアが、来れない? 

 こんな大事になっているのに、当の本人が来ないなんて事はあるのだろうか。

 何だか途方も無く、嫌な気分だ。

 どこか人事の様に感じていた、私を守る見えない結界に、ぱりんとひびが入る。

 身分のせい?それとも何か原因があるの?

 どんどん連鎖する小さな不安を押さえつけようとしても、完全には押さえ込めない。

 動揺はぴきぴきと、私を守る結界に無数の亀裂を走らせる。

 今、彼女はどうしているの?

 そんな中、進行役の男が一つ鐘を鳴らした。

「少女、汝に問う。そなたの名前は。」

「…アーラと申します。」

 女性言葉で必要最小限のことを答えると、また小さく、ざわりと会場が揺れた。


「しかし記憶を無くしているそうではないか。その状態での信憑性は如何なるものか。」

「随分と御しやすそうな小娘だの。」

「下の名前は覚えていないのか。それとも、そんなものは無いほどの下賎な出なのでは。」

「とは言え、扱いを間違えれば、厄介な事にもなりかねませんよ。」

「いやはや、困った事をしでかして下さった。」


 ひそやかに聞こえる声は、意味不明なものもあれど、その殆どが想定範囲内だ。

「そもそも、本当に記憶が無いのか。この少女がアーラ嬢なのか」

 先程鐘を鳴らした男が、もう一度鐘を鳴らす。

「その皆様の疑問を晴らす為、元王宮付医師、ラルシュ・フラスグーンにご足労願いました。」

 聞き覚えのある名前に、一度強く目をつぶる。

 シルヴィアの事よりも、今、私がこの局面を乗り切らなくては。

 大丈夫。

 そう自分に言い聞かせ、ラルシュの立ち上がる音と共に目を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ