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世界のカケラ  作者: viseo
王宮編
53/171

再会の白亜城 1

 次の日、予告どおりにシグルスの館を後にした。

 それも超、早朝に。

 春に近づいたとは言え、まだまだ厚い雲の向こうで朝日すら出ていない時間。

 腹の中にたまった怒りと憤りがひとしきり落ち着くまで、中々寝付けなかった私には、結構辛い時間だ。ぐぅ。

 ひっそりと出立した私に同行するのはアルテイユ騎士団の人間6名、そしてありがたいことにエルザも一緒だ。


「お辛くなったら、直ぐに言って下さいね。」

 少し広めの馬車の椅子を外し、床にクッションを敷きつめてくれたお陰で、体を斜めに寄りかからせる事が出来るのは嬉しい。

 以前フォリアとひっそりと乗った馬車よりも、よほど高級なものだったけれども、視線が低くなった事で受ける印象は大分違う。

 馬車と言うよりは、洋風牛車?

 上等な、おままごとハウスが移動している感じだ。

「ありがとう。でも大丈夫。」

 同じく昨夜突然命じられて、早朝出立したにもかかわらず、目の前のエルザはきちんと身なりを整えた上で、にこにこ座っている。

 う~ん、流石。女子力、高ぇ。

「昨夜に兄が出立を命じたので、寝台付の馬車を用意できなかったんです。でもこれはこれでちょっと面白いですね。」

 子どもが新しい遊びを見つけたように、いたずらっぽく目を輝かせる。

 確かに。私もこんな場合じゃなかったら、もっと楽しめたと思う。

 以前フォリアと乗った馬車なんて暗かった上に、リバウンドのせいで後半記憶ないしね。


「王宮までの道中は長いんですか?」

 冷気が入らないようにと、ぴっちりと閉められた馬車の中では外の様子は良く分からない。

 こっそり窓を開けて外を見ようとも、護衛の人とか馬しか見えないので、楽しみにしていた外の景色は早々に断念した。

 膝立ちで窓を開けようとも、右へ左へと揺さぶられて、体勢を維持するもの辛いし。

 そんな中で、いつ着くのかと緊張する私に、エルザは安心して下さいと微笑む。

「今日は王宮までは参りませんわ。今夜は王都の館に泊まり、明日の登城に備えるんです。」

 あ。そうなんだ。

 エルザの発言に、ちょっと気が抜ける。

 いきなり王宮に馬車が着けられる訳ではないんだ。

「王都の館って事は、王都にも家があるの?」

「ええ。そこそこの領地を持つ中堅貴族以上は、大抵王都に自分の館を構えていますよ。馬車で一日で戻れない領地をお持ちの方もいらっしゃいますし、何より王宮での晩餐会や舞踏会が終わった後に、領地まで帰るのは大変ですわ。」

 へ~。

 江戸時代の参勤交代とは、少し意味が違うらしい。登城するのに細々必要だから、王都に館を構えているだけに聞こえる。

 出張先のセカンドハウスみたいなものかも知れない。

「ですから兄は一足先に王都に向かっているはずです。馬車だと丸一日かかりますけれど、兄だけなら早いですし。」

 朝から灰色狼の姿が見えないと思っていたら、そういう訳だったのか。

 思わずほっとして、少し肩から力が抜ける。

「お兄さんと仲良いんですね。」

 シグルス自体には思うことは多いけれど、エルザの声に含まれた情愛を微笑ましくも感じる。

 けれども、その私の口調に何か感じたのか

「…もしかして、アーラ様は兄が苦手ですか?」

 小首を傾げて聞いてきた。

「エルザのお兄さんを悪く言うつもりはあまりありませんが・・・得意ではないです。」

 昨日の今日だけに、思わず素直に答えてしまう。

 つーか、正直苦手だ。

 そうは言っても、衣食住なし崩しにお世話になっている身。

 身内を悪く言われて、流石に気を悪くしたかな?と思いながらエルザを見ると、何故か我が意を得たりとばかりに大きく頷く姿があった。


「嬉しいです。王都では兄は結構人気があるので分かってもらえないんですが、傍若無人と言いますか、目的のためには手段を選ばない所があるんですわ。」

 あ~。人気、あるんだ。

 見てくれも頭も悪くなくて、出世頭のお貴族様がもてない訳が無いのかもしれない。

 …でもねえ。

「何と言うか、絡め手で来る所とか、今それ言うの!?みたいな感じが油断ならないというか……。」

「そう!そうなんです。分かっていただけますかっ。」

 皆まで言わせず、力説するエルザ。軽くこぶしまで握っている。

「昔兄に遊びに連れて行ってもらった裏の森で、帰りたくないと、よく駄々をこねたんです。そうしたらある日、自分で帰って来られるなら帰って来いと、置いていかれたんです。猟銃一丁と共に。」

「…りょ、猟銃?」

「えぇ。館の裏の森は、時々狼が出ますの。滅多に無い事とは言え、子どもですもの。怖くて怖くて。」

 そりゃぁ怖いだろう。

 しかもエルザが猟銃を使えるとは思えない。それが子供時分ならなおさらだ。

「けれども、直ぐに戻ってきてくれたんですよね?」

「それが、兄は赤いリボンを木々につけて、館への帰り道の誘導をしておいたんです。それを見つけながら、泣きながら一人で帰りました。何度も転んで泥だらけで。夕日に照らされた館を見つけるまで、兄はちらとも顔を出しませんでしたわ。」

 猟銃一丁と放置って、兄ちゃん、結構スパルタだな。

 一歩間違えれば事故にあいかねない。

「実は後になって、森の中に家人が何人も隠れていて、館以外に向かわないようにしていた事も、兄が木の上から猟銃片手に見守ってくれていた事も知ったんです。それでも、幼な心に随分恨みましたわ。」

 …な、何と言うか、あんまり昔から性格変わってないのね。シグルス。

 用意周到な所とか、実力行使に出る所とか、子ども時分の話にしては結構えぐいぞ。

 やや引き気味の私に、エルザは悪戯っぽい顔で、でも。と続ける。

「その後に熱を出した私の横で、兄はラルシュ先生に散々叱られましたので、おあいこですね。」

 くすくすと笑いながら話す姿に、当時の情景が脳裏に浮かぶ。

 可愛い妹を森に連れ出し、我がままを言われ困る姿や、まだ若いラルシュに怒られ憮然とした姿。

 エルザもさぞかし可愛い女の子だったろう。

 何だかそうやって聞くと、微笑ましいとも言える。


「ですのでアーラ様にも何か失礼な事を言いましたら、是非ガツン!と言ってやって下さいね。」

 小さな手でこぶしを握り、そこまで言ってから、少し心配になったらしい。

「でも、アーラ様が不安がっていらっしゃるので、王都まで同行するようにと言ったのも兄なんです。…優しい所もあるんですよ?」

 小さくフォローを入れるエルザ。

 あーあーあー。何ですか。この可愛い子は。

 これでは、あのシグルスも可愛がらずにはいられなかったろう。

 そう。シグルスだって鬼じゃない。

 きちんと話してみれば、意外と良い人なのかもしれない。エルザが言う通り、優しい所もあるのだろう。

 けれども。とも思う。

 私がテッラ人である以上、その「もしも」には意味は無いのだ。

 彼が王宮の人間である以上、私とは相容れない。

 

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