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世界のカケラ  作者: viseo
流浪編
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星降る時の館 4

「じゃぁ、魔王がいてお姫様をさらって、異世界から勇者を呼び出すんだー!みたいな王道パターンじゃないわけね」

 思わずつぶやいた呟きに、レジデがマオウとふきだす。

「や、だってここまでなんか魔法とか王道異世界だから、もういっそそんな感じなのかと…。」

 段々声が小さくなる。

 なんだか無性に恥ずかしい。

 二人の間にあった緊張感が、いつの間にか吹き飛ばされる。

「トーコの世界には魔法が無いんですね。――そして多分私のような獣人族もいないのでしょう」

 相変わらず丁寧な言葉遣いだけど、まだ微妙に声が笑ってる。

 そりゃー可愛い猫のヌイグルミだと思ってたのが、いきなり立ち上がったら腰もぬかすわよ。

 まぁ、でも取りあえず、自分が何故ここにいるのかが分かっただけでも、地に足が着いた感じで、ずっと落ち着ける。


「こっちの世界だと魔法で仮死状態の傷も直せるんですか?」

 今更ながら、自分と車の傷がすっぱり治ってしまったことが気になった。

 もしかして死んでも、復活の呪文とかで、生き返られる世界なのかな?

 そして王様に死んでしまうとは情けない!とか言われたり?

「いいえ。魔法というのはそこまで万能じゃありません。トーコが助かったのはこの館だからです。」

 長くなりますからと促されて、先ほどのソファーに座る。

 すると、大雑把な説明になりますがと前置きしてから猫の先生は、この世界の魔法について話始めた。


「こちらの世界には、火水風土の四大魔法と、四大魔法を補助する役割の、時魔法の五つの魔法があります。基本的に魔法は自然から逸脱したことは、出来ません。」

 例えば、と腰につけたポシェットのような皮袋から小さな平べったい石を取り出して、右手の指輪とぶつける。

 すると、指輪の上で小さな火の玉が揺らめいた。

「小さい火種にいる火精に頼んで、自在に火力を変える事は出来ますが、何も無い空中に火の玉を出すことは、基本的には、出来ません。」

 小さくなにか唱えるごとに、その火は色々な形にダンスする。

 こちらからは良く見えないが、小さく何か文様の書いてあるおはじきの様な石は、魔法加工をしてある火打石らしい。

 あれ、オイル要らずのライターになりそう。

 究極のエコ商品。


「他にも農作物の為に土を改善したり、山に道を作ったり等魔法は人々の生活に無くてはならないものですが、このように万能ではないです。――たとえば軽く指を切ってしまった場合、放っておいても治りますが、そこに時魔法を使うと治りが早くなります。」

 い、意外としょぼい?

 魔法って言うのはもっと劇的に病気が治ったり、竜とか倒しちゃったりするものじゃないの?

「瞬時で治しきっちゃうことって、出来ないんですか?」

「出来ますよ。それは魔術師のさじ加減ですね。局地的に時間を進める感覚でしょうか。」

 どんな感覚だか全くわからないけど、なんとなーく言いたい事はわかる。

「逆に言えば通常だったら自己回復能力で治せない怪我……そうですね、腱や筋を切ってしまった場合の治療は、時間を逆行させて元の状態に戻すので、かなり大掛かりになります。何人も魔術師がついたり、治療院の様に魔方陣をあらかじめ組み込んでおいた場所で治療をします。」

 つまり死んでたのが生き返る~とか、腕を切られても、その場で魔法一つで戻ってるとか、そういうスペシャルなことはないのね。

 放っておけば死んでしまう怪我でも、医療施設の整っている所で手術すれば助かることがあるのと、同じ感覚なのかな。


「そして今トーコがいる時の館は、時間をコントロールするという意味では、世界で一番重厚な結界が張られています。王室付きの治療院でしか使えないような治療魔法を、トーコに使うことが出来たは、この館だからです。」

 話しながら羊皮紙の上に、筆記体のような文字をぐるりと円状に書き始める。

 そして古びた皮紐を羊皮紙の中央に置くと、先ほどの文字を指でなぞるように一周した。

 するとセピア色の文字がとろりと溶けるように中央に集まり、皮紐の下で淡く消える。

 残されたのは、先ほどの飴色に古ぼけた柔らかな皮紐でなく、まだ硬いなめしたばかりの皮紐。


 すごいぞ!これ。

 壊したものだけでなく、アンチエイジングとかそっちに活用できないものだろうか。

 思わず拍手すると、ちょっと新しくし過ぎました、と笑って皮紐をポーチに戻した。――どうやらポーチの口を閉めていた皮紐らしい。

「この館の結界内だと結界の外よりも、ずっと簡単に物質の状態をコントロールできるのですが、それでもトーコの状態はかなり悪かったので……実はまだ治療は終わっていません。」

 医者の脅しも怖いが、魔術師の脅しもちょと怖い。


「自覚症状は無いんですが、もしかして副作用で老けるとか、あとから凄い痛みが出るとかですか。」

 なまじ痛みの記憶が生々しくある分、それは勘弁して欲しい。思い出して、ぶるりと体を震わせる。

「いやいや、そんなことはありませんよ」

 目をまん丸に見開いて、慌てて否定してくれる。ほっとしたのも束の間、

「ただこの館を出ると死ぬだけです。」


 ……それ、軟禁とか監禁って言いません?

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