新たな路 3
いつの間にか、無意識に掃き続けていたらしい。
思ったよりも大きくなってしまった落ち葉の山に、ハピナー達がもぐりこんで遊び始める。
中に入っては、ぴょこりと顔を出して、ばさばさと散らばしている二匹が、その都度、嬉しそうにぴーぃぴーぃと鳴く。
「こらこら。せっかく集めたんだよ?」
そんな私の気持ちは知らぬとばかりに、嬉しそうにきらきらした目で見上げられれば、強くは咎められない。
――ううっ、可愛いなぁ。もう。
そう思いながらも、いたずらっ子の青いリボンをつけたハピナーの名を呼べば、抱きつくように飛んできて、首筋をくるくると回りだした。
「わわっ!――エーフ?!」
その勢いとくすぐったさに、思わず落ち葉の上に尻餅をつくと、今度は赤いリボンをつけたハピナーが、私の上に飛んで落ち葉を舞い落とし始める。
「ちょっ、アルも!」
なんか……二匹とも、浮かれてる!?
もしかして、大好きなリンゴでも見つけたのだろうか。
シグルスが連れて来てくれたハピナーは、シルヴィアの古塔にいた二匹で、リンゴの蜂蜜がけを食べさせてしまったからか、リンゴに特に目が無い。
まるで結婚式のライスシャワーのように降りしきる落ち葉の、その向こうから差し込んでいた秋の日差し。
――それが、ふと、さえぎられた。
「まさか、こんな所にいるとはな」
あまりの衝撃に、息が止まる。
はらはらと舞い散る落ち葉のカーテン。
その向こうの影は、逆光で見えない。――けれど。
ど、して――…。
「探しましたよ」
心臓が大きく跳ねたのも、耳に届いた声も、幻なのだろうか。
はらりはらりと、ハピナー達が遊んでいた最後の落ち葉が、大地へと落ちきる。
落ち葉の中でへたり込む私と、いつの間にか傍に来ていた二頭の馬。
そして忘れることなんて出来ない――二人の、姿。
なんで。
なんで、ここが――。
「シルヴィアの枕の下にあった折鶴を見て、確信したんです」
優しく微笑む琥珀の瞳と、相変わらずの豊かなヴァリトンボイス。そして、
「ここは一番最初に調べたんだがな――。あまりに完璧に痕跡が残っていなかったから、流石に騙された」
今考えれば、かえって盲点だったな。――そう話す、どこか皮肉ったいつもの口調。
白昼夢にも程がある。
――ダイオキシンには、幻覚作用もあったっけ……?
まだ火をつけてもいないのに、馬鹿なことを思いながら呆然とへたり込む私の前で、二人は慣れた動きで馬から降りて私の手を取り、立ち上がらせる。
その手の暖かさがどうしても信じられなくて。
どうして――。と、掠れた声で呟いた。
呆然とした私の問いかけに、いたずらが成功した子どものように、二人は小さくちらと笑う。
「どうして。の先は?」
「………。」
「どうしてここに居るのか。どうして探したのか。――それとも、どうして放っておいてくれないのか――…でしょうか」
穏やかなレジデの声に、茫然自失のまま、ゆるゆると首を振る。
どうして、ここが分かったの。
どうして、探しに来てくれたの。
そして何より、どうして……身勝手な私の行動を、二人は怒らないの。
――そんな幾つもの答えが、胸の内でぶつかり合う。
すると、考えたことが顔に出ていたのか。
「貴方が何を考えて行動を起こしたのか。思い当たることが多すぎて――、咎めることなど出来ませんよ」
そう、労わるように微笑むレジデに、
「お前が無事で――、良かった」
と、私の髪の中にくしゃりと手を入れるフォリア。
そんな二人の視線に耐え切れなくて。
思わず俯いた私を撫でる、彼の指先は優しかった。




