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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
168/171

新たな路 2

 一切外部との接触を断ち、国王陛下が指定したこの土地から出ないこと。

 シルヴィアの付き人として、話し相手になること。

 光気が抜けたカケラを安全に処分すること。


 これが、私が与えられた、『記憶のあるテッラ人』としての新たな使命だ。

 あの時、クリストファレスから脱出する船の中。

 消え去ろうとしていた私を、ただひとり見越した陛下は、シグルスを使って一つの書簡を私に下さったのだ。

 先手を打たれたことに、正直驚いたけれど、そこに書かれていた新たな使命に、否やは無い。

 魔術大国ファンデールとは言え、時の館の処遇には、ずっと頭を悩ませていた陛下だからこそ。

 カケラを研究して新たな技術を得ることも、異世界エネルギーの光気を利用することも諦めて、――千載一遇のチャンスとして、私に大量のカケラの処分を求めたのだ。


 勿論これが諸外国や国議貴族院に知られたら、荒れに荒れるのだと思う。

 どんなに言葉を尽くしても、事実だけ見れば、『記憶のあるテッラ人を閉じ込め監視し、自国が不利になる新たなエネルギー源を捨てさせている』とも取れるし、もしくは、『魔術大国だからこそ、この新たなエネルギーを活用するべきだ』

 ――立場が違えば、そんな解釈も出来る。


 けれど、カケラの処分は私自身も望んだこと。

 そこに誰の意見も欲しくない。

 もう二度と、異世界のエネルギーの為に道具にされる命も、悲しい思いをする異邦人も、あってはならない。

 あんな思いは私たちだけで十分だ。

 ――切にそう思った。



 そうして、ひっそりと旅は始まった。

 シルヴィアの身体は、移動魔法陣を耐えられないから、この地に来るには、陸路から来るしかなくて。

 王宮を抜け出してからシグルス達に守られて、此処にたどり着くまで半年も掛かった。


 そして、それから二年の間。

 私の上司でもあり、監視員でもある彼とは――、二度ほど唇を合わせた。

 ……シグルスのことは、嫌いではない。

 自分に厳しいさまも、意外に情に深いところも、今の私は知っている。

 一度目は初めての冬。

 ようやく着いたこの地で、私は酷く高い熱を出し……、気がつけば男が看病してくれていた、その時。

 二度目も大して変わらない。

 ねぎらいと、同情から横滑りしたような、そんな感情とタイミング。


 私は彼に好意を持っている。

 ――それは確かだし、そして彼も同じだろう。

 長い時間一緒にいれば、情も湧く。

 シルヴィアが意識を取り戻していない時期は、話し相手はたまに来る彼しかいない。

 時に手料理を振る舞い、いつの頃からか政治の話もする。

 そうなると、会えれば素直に嬉しいし、一人の時間が寂しくないと言ったら嘘だよ。

 

 そして――正直、陛下はそれを望んでいるのだろう。

 私が産む子は強い光気をもつ可能性が高い以上――、下手な所で、その血を繋げさせる訳にはいかない。

 陛下がそう考えるのは、当然のこと。

 ――それは私も彼も分かっている。

 実際。亡命した神子姫を妻にして、最後まで守りきった彼の叔父のように、シグルスは、私の傍に置いておくには安心な人材だ。

 非常な優秀な護り手でもあり、――逆に私が害をなすならば、冷静にその剣を振るえる非情さを持つ。

 ここで私が唯一触れ合える男性は、彼ひとりだけだし、このままシグルスの手を取ることが、一番自然なのだと私も……頭では分かっているよ。


 けれども、一線を引いて向かい合う私たちには――お互いの後ろに、その心を強く占めている人間がいることも、よく見えていて。

 あの初めての冬。寝込んだ私の看病の為に、一度だけ派遣された彼女は、その年月だけ綺麗になっていた。

 相変わらず優しく献身的で、努力家で。

 そして秘めたる恋心は、彼女を少女から美しい女性に変えていた。

 シグルスが頑なに受け入れる気が無いことで、深く傷ついている彼女には、シグルスの本当の気持ちは見えない。

 ――好きだからこそ、踏み込めない。

 ――大切すぎるから、距離をとり続ける。

 それは私にも覚えのある感情だ。


 最前線で指揮を取る事もある兄に近しい自分より、自分の認めた男の手元で幸せになって貰いたい。

 そんな相手を無視した傲慢さも、歳の離れた義妹への『親代わり』という強い呪縛も、覚えがありすぎて、諌めることなんて出来やしない。



 二年は長い。

 決して今後……会えないと分かっているなら、なおさらだ。

 けれど。それでも二人と会ったこの館で。

 ――私が二人を思い出にしきれる日までは、まだ時間が必要だった。

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