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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
164/171

ロアの祝祭 13

 クリストファレスから抜け出すのは、思いの外、難儀した。

 複数の小国を短期間に征服した、北の巨大軍事国家クリストファレス。

 その恨みはあまりに根深い。

 今までは、それを精霊と宗教で抑え込んで無理矢理まとめていたのを、私とレジデが一気に壊したのだ。

 そのタガが外れた各地で、暴動が次々勃発――既にランプも無い教会にはなす術もなく、暴動は瞬く間に拡散拡大していった。


 勿論、ここまではシグルス達も読んでいて、様々な用意はしてあったらしい。

 けど、敵対する国に持ち込むには、幾らなんでも限界がある。

 物々しい私兵が街を歩き、街道は難民であふれ、――最後には大きな暴動によって、陸路が塞がれた。

 もはやこれは暴動では済まない……一国を揺るがす内乱だ。

 組織の伝を使って潜伏していた私たちも、流石にこの流れに否応なしに緊張が高まった。


 けど、それでも暴動があったお陰で、幾つかの良かった点もあった。

 まずはシグルス、その後、華麗な美女姿のフィーナとも無事合流できた。

 こうなると、指名手配のほうは殆ど心配することは無くて。

 なんせフォリアは『ネル』として何度もクリストファレスに足場を作ってあったし、更に目尻に大きな傷があるザンバラ髪の私は、暴動から逃げる少年難民にしか見えない。

 『異国の細身の男』も、『黒目黒髪の乙女』も、『赤い髪の脱走兵』もいない。

 『隣国の貴族剣士』も居なければ、あとはレジデを隠すだけ。

 炭粉で、まっくろ黒猫になった彼をつれた一行は、絨毯の行商の馬車に乗り、ファンデールとは反対の港を目指す。

 ――そうして船を使ってファンデール王城に入れたのは、半月も経ってからの夜になってからだった。


* * *


 夜になってはいたけれど、事情が事情。

 私たちは直ぐに陛下の前に通された。

 白い鳥として報告することも、猟犬として、そして最重要人物として報告することも、それぞれ沢山あったけれど、陛下は「それは後日で良い」と一蹴し、かわりに私的な謁見を私達として下さった。

 その内容は、労いの言葉だった――。


 人払いをした小さな個室で。陛下自らの説明によると、現在は『ファンデール王宮は隣国の内乱を警戒して厳戒態勢中』と言う体裁をとり、それを利用してフォリアの弟であるユーン新公爵周辺の動きを固めているらしい。


「お前達の今後は、公的には難しい立場になることは明白。

 だが、戦争を忌避出来た功績は大きい。

 特にレジデ・スタウトには、最大限の援助を約束しよう。」


 お前たちの最も危惧していたことは此れだろうからな。

 ソファすら小さな謁見室に変えてしまう、フェルディナント二世の言葉に、私たちは深く頭を垂れ、胸の内で安堵の溜息をつく。

 レジデはこの国にして見れば、即刻首を刎ねられてもおかしくは無い、重犯罪者だ。

 けれども、私が誘拐されたあと。調べられたレジデの家から出て来たのは、複雑怪奇な暗号文と、巧妙に隠された小さな鍵。

 それはフォリアと学生時代に作った暗号で、解読された最終的な隠し場所から出て来たのは、国王に当てた手紙と――ユーン家の新公爵ユリウスの、クリストファレス帝国との癒着の詳細な証拠だった。


 最終的な隠し場所が、私がエルザの部屋に置いていた勉強の資料の中――つまりはシグルスの家だったのも考慮されたらしい。

 光の教団の最も深い所にいた『レジデール』を、簡単に信じることなど出来ない。

 けれども、『レジデ・スタウト』はファンデール魔術学院所属の魔術師であり、時の館の担当者。そこを光の教団とユリウス新公爵に脅されていただけ。と、別人格として処理するつもりだと陛下は仰って下さった。


「無論、ユリウスは今後真逆の説を唱えるであろう。レジデ・スタウトが光の教団幹部レジデールであり、全ての犯人である――そう逃げるしか、もうあれには道が残されていないからな。しかし我としても隣国で火種を抱えた状態で、筆頭公爵家を一斉に粛清には出来ぬ」

 ここからは、目に見えない政治の戦いだ。


 けれど、レジデ本人が生きて戻ってきたとなれば、どこまでクリストファレスと光の教団の魔の手が国内に巣食っているか、詳細に調べることが出来る。

 そしてフォリアがいれば、『筆頭公爵家の陛下への反逆』ではなく、ファンデール王国の貴族なら誰でも知っている、筆頭公爵家のお家騒動としてユリウス新公爵を失脚させることも出来る。


 あの時、クリストファレスから抜け出したフォリア自身が、密書ではなく本国へ戻った理由は、これを陛下に奏上する為だったのだと、後に知る。

 一昼夜荒れた国境付近へと馬を走らせ、船に乗り、そうして陛下にフォリアが奏上してくれたお陰で――、レジデは国議貴族院の裁判にかけられる事無く、陛下との謁見は、ひっそりと終了した。


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