信ずるもの 18
分かっていた、本当は。
私が二人に強く惹かれている事も……、この気持ちが決して誰も幸せにしない、成就しない気持ちだと言うことも。
二人への気持ちは、異世界の生活での不安と、恐怖と、生への執着と。
複雑に絡み合いすぎて、個別に向き合えないぐらい、渾然一体となって私を揺さぶる。
――この気持ちが、恋愛感情なのか。
――私は誰を好きなのか。
そんな事を浮き彫りにして何になる。
教団に管理されて生きてきたレジデ。
スパイを狩るための猟犬であるフォリア。
恋愛は、私達の間に最も持ってきてはいけない『猛毒』でしかない。
異端である私達に、未来は無いのだ。
大切に思ってもらっているだけで、充分じゃないか。
だから自分の感情を、分からないふりをしていた。
認めるわけには、いけなかったから……。
二人と肌を重ねた今ですら、自制が効かない恋愛感情なんていらないと、心の底からそう思う。
……そう思うのに、それでも目を閉じれば、別の情景が見えてくる。
紫の宝玉が埋め込まれた、机の上の、白い仮面。
あっけなく流れた麻衣子の血。
帰れない、元の世界。
二度と会えない、大切な人たち。
隠しきれない恐怖と、深い絶望と。
それらに追い立てられるように、身体が、気持ちが、彼らを求める。
傍にいて。
キスして。
抱きしめて。
そして、すべてを忘れさせて――。
死にたい。
消えたい。
そして、死にたくない――。
矛盾した考えが空転し、虚空に消える。
身体と、気持ちと、考えが。
すべてが自分を裏切って、それぞれが好き勝手に動き出し、制御出来ない。
そうして全てを忘れて、一度でも気持ちを重ねてしまったら――?
後に待つのは、地獄だ。
子を成す道具として、二人以外の男と性交、出産しろと言うなら、耐えられる。
この地に囚われ続けられるのだって、今更だ。
けれども、二人に抱かれたら私は崩壊する。
彼らの死を受け入れられるほど、私はそんなに強くない……。
私たちは分かっている。
私たちに未来は無いと。
だから一歩離れて、見つめあう。
許される時まで。
ほどなく訪れる……、それぞれの、別れの時まで。
私も。 レジデも。 フォリアも。
愛していると口に出せるほど――…。
私たちは、子供じゃない。




