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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
146/171

信ずるもの 13

 澄み切った雪国の空に、鳥の声が天高く響く。

 まだ寒さが残る空を見上げれば、春が来たことを喜ぶ、小さな渡り鳥たちの姿が見えた。

「いよいよ悲願の春が来ますね。――この国にも。この神殿にも。」

「………。」

 私の視線の先を追いながら、シャムールの穏やかな声が庭に響く。

 白亜の神々の像が見守るこの庭は、大神殿の裏にある、司祭長のプライベートガーデン。

 雪に閉ざされたこの国にも、こうして随所に春を感じる場所が増えてきた。

 一日一日と、運命のロアの祝祭が近づいてきているのだ。


「………。」

 ずっと無言の私に気にした様子も無く、庭散策を付き合わせていた男は、渡り鳥たちの姿に、思い出したように本題を語りだす。

「レジデールとのお勤め、無事お済になられたようですね。体調は如何ですか?」

「………っ。」

 流石に昨日の今日で何を言っていいか分からず、長い沈黙の後、「最悪以外の何があるの。」と、吐き捨てるようにして答えた。

 

「あんな……。あんな方法を取るだなんて、しかも立会いがあるなんて、――聞いていませんでした。」

 押し殺した私の声に、白亜の神々よりも美しい微笑が返される。

「リルファより報告を受けております。男の立会いを厭うたそうですね。」

「当たり前でしょう!」

 思わず睨みつければ、満足そうに微笑む。

「想い人のウィンス卿を先にしても良かったのですが、しかし見届け人達の安全もあります。今回は特別にレジデールを先に宛がわさせて頂きました。無事、閨でのお勤めが済みほっとしておりますよ。」

 ――如何でしたか?レジデールは。

 最後のその一言に、思わず立場も忘れて男に噛み付く。

「……この下種っ」

 最も本人の外見から遠い侮辱の言葉に、微笑んでいたシャムールが、ついと私に手を伸ばした。


「分かっていただけるとは思ってはいませんが――、私達も苦心しているのですよ。姫。」

「つっ!」

 おとがいをギリギリと持たれ、吐息がかかるほど近く、顔を覗き込まれる。 

「私は阿呆は嫌いです。姫に先代のように白痴になられては困るのですよ。」

「……。」

 私の痛みにゆがむ顔を気にもせず、男は微笑みを絶やさない。

「本来ならばロアの祝祭の後に、姫には子を成して頂く予定でした。シルヴァンティエ姫の感情を、無意味に逆撫でする必要は無いですしね。――しかし、術者との時間をあわせる必要が出てきた今、最優先事項はそちらです。」

「………。」

「今宵はウィンス卿に手配致しましょう。やはり交配は交互が望ましい。」

 その意味に、かっと顔に血が上る。


 そんな私を見て、くすりと笑うシャムールが更に信じられない一言を落とす。

「本来は、三人同時と言うのが最も効率が良いのですが。最長でも、ひと月ふた月程度続けていれば、子を成さなくとも月の物は来ると思われますし。」

 ようやく放された顎が、ずきりずきり痛む。

「……ほんと、最低。」

 憎まれ口を返すのが精一杯の私の横で、不意に空気を震わせる音が響いた。


 ドン!ドン!

 低い振動と、飛び立つ鳥。

 青空にうっすらと、煙がたなびく。

 ――え?

「ああ。ロアの祝祭の前の予行練習が始まりましたか。」

 驚き空を見上げたまま固まる私の前で、もう二度、三度と、鈍い光の照明弾が幾つか上がった。

 これ、もしかして――。


「怖がることはありません。大神殿の裏にある庭で、行っているんです。」

「――…。」

「そうですね。彼は世界を股に掛ける男。神子姫の交代があったことを伝えていただく為にも、近い内にご紹介しましょう。」

 安心させるように話すシャムールの声が遠く聞こえる。

 運動会に上がる、小さな花火のような煙を、呆然と見つめる。


 あの壁の向こうにいる男は、きっとひょうひょうとした表情で、異国風の衣装を纏っているに違いない……。


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