信ずるもの 10
流石に事件を起こした主犯のレジデ。
面会は可能だといわれても、私と会わせる為の部屋の用意などで、湯浴みをするくらいの時間は待たされた。
「わざわざ部屋を用意しなくても、レジデの所に連れて行ってくれれば良いのに。」
湯冷めしないようにと、しっかりと着込んだ服が、足元に絡まってうっとおしい。
今までの倍の兵士達に囲まれながら、夜の帳が下りた大神殿の中をさわさわと大名行列のように移動する。
――アリの子一匹、逃がす気はないみたいね。
ようやく現れた扉の前に、決して少なくは無い兵士が立っているのに、げんなりしつつも、彼ら達が見守る中、扉を開ける。
すると通された小部屋の正面、装飾された大扉が恭しく開かれた。
落ち着いた調度と、抑えられた照明。
逸る気持ちを抑えて通された部屋に、緊張の面持ちで青年姿のままのレジデが見えた。
「レジデ!」
思わず駆け寄り、彼が口を開く前に、身体の無事を確認する。
顔、腕、身体、脚。
若干のやつれや、顔色の悪さはあるけれど――…腕の部分は、包帯を巻いている感じも、強く怪我をしている感じもしない。
無事、治療を受けられたみたいだ。
「――…良かった。」
思わず肩から力が抜けた私に、硬い表情が緩んで、ぎこちなくも暖かな笑顔を一瞬見せる。
「私は大丈夫です。心配を……おかけしました。」
医療魔法は優秀だけれども、かけられた方は、凄い倦怠感と疲労感がある筈だ。
座る所を探そうとしたところで、ふと小さく鐘の音が響いた。
誰――…?
音のした方を見ると、何故だか女官でも兵士でもない、人間が立っているのに気がついた。
不審に思ってから、ふと、この信者の男に既視感を感じる。
「あなたは――…、」
そうだ、たしか口頭試問で見た、大司祭の一人の。
「蒼の司祭?」
思わず呟いた言葉に、相手は口角を上げた。
「覚えて下さりましたか。光栄で御座います。」
何でこの人がここに?
不審に思う私に、先ほど鳴らした小さな鐘を示しながら、ゆっくりと一礼する。
「今宵は、シャムール司祭長に代わりまして、第一大司祭であります私が、立会いを勤めさせて頂きます。」
「立会い――ですか?」
レジデとの面会に、大司祭が監視するとは随分と仰々しい。
何だか――…とてつもなく、嫌な予感がするのは、気のせい?
ごくりと喉が鳴った。
「本来でしたら、ロアの祝祭で神子姫さまの御披露目をしてからの、大切なお役目ではありますが――、今回は、術者との時間を合わせていく加減が御座います。」
術者と時間を合わせる?
つまり今から、また何か魔法陣の上に立つって事?
笑んだままの大司祭。
少し薄暗い部屋で、横に立つ硬い顔のままのレジデ。
ぞくりとした。
足元から這い上がる、嫌な予感に慌てて部屋を見渡せば、リルファ以外のお付の女官が平伏して去っていく。
そして、いつのまにか退かされた衝立の向こう。
部屋の奥にあるのは――…小さな部屋ほどもある大きな、寝台。
ねぇ。ちょっと待って。
まさか。
……術者と時間を合わせるって、まさか。
「神子姫様に置かれましては、卑しい獣人族との契りにさぞ業腹ではございましょうが、これもお勤めと思し召しまして、精一杯励まれますよう、重ねてお願い申し上げます。」
これ以上無い程、目を見開いて絶句する私の前に、同じ衣装を身に着けた――リルファを含む、五人の老若男女が入ってくる。
「立会いの五聖人でございます。ご不安に思われることは何一つ御座いません。どうぞお心を安らかに、お役目に励まれ下さい。」
嘘でしょ……。




