信ずるもの 8
ストレスで生理がとまった。
色が白くなって、やつれた。
東洋人の顔立ちの私が、彼らから少女だと言われることに、ずっと嫌悪感があった。
けれども、ある日ふと思う。
――印象の違いは、痩せてやつれただけでなるものか?
誰にも確かめれない、いっかな晴れない疑問。
それは此方で麻衣子をはじめて見た瞬間、胸の中で膨れ上がり、彼女が私を見て驚いた口元で確信した。
だって……若い。
確かにあの時、彼女はそう言った。
「そうでしょう?レジデ」
荒く息をつき、床に崩れたレジデの頭を、そっと近寄り膝に乗せる。
傷ついた彼を抱き寄せるようにかき抱いて、耳元に落とした言葉。
痺れ薬で苦しみながらも、頑迷に抵抗を続けていた瞳の力が、戸惑ったように揺れる。
そうして苦しそうに、でもついに、諦めたように微かに頷いた。
「私は生死をさまよった。一命は取り留めたけれど、それの最後の治療をしたのは彼らよ。」
シャムールが小さく息を飲む。
冬枯れの荒れた川で、死に掛けた。
緋色の間でも証明されたように、それは本当だ。
そしてそれの最後の治療――傷跡の治療をしたのは、レジデとフォリアだ。
「レジデール。……それは本当ですか。」
「――…俺と、フォリアで治療をかけた。……細工を施したのは、…その時だ。」
意識を失わせないために、本当に弱い痺れ薬だったのか、何とか口だけはまわるようになってきたレジデが、それでも苦しそうに話す。
「……相変わらず小賢しいですね。レジデール。」
小さな舌打ちが部屋に響く。
「二人の術者と時を合わせる必要性を持たせておく事で、自分の助命を考えたのですか。」
「……そ、うだ。」
本当は、半分違う。
私の時間が遡り始めたのは、多分もう少し前。
時の館での治療が、完全に身体に馴染む前に外に出て、リバウンドをうけた。多分、あの時だと思う。
けれども、それは必要の無い情報だ。
暫く思案気な表情をしていたシャムールが、何人かに指示をしてフォリアの容態を確認させる。
元々、政略の駒に使えるフォリアは、この場で殺す気は無かったのだろう。
脈を取った兵士の報告を聞いて、小さく頷いた。
「しかし考えようによっては、光気を持つレジデールと、筆頭公爵家の血を引くウィンス卿。――悪くは無い、取り合わせとも言えましょう。」
先ほどの能面の生成のような顔ではなく、いつもの、あの人間離れした美しい微笑みを浮かべ、シャムールはレジデと私の傍に近寄る。
「小賢しいお前も、まさか鍵の一つであるウィンス卿が、この地に訪ねてくるとは思わなかった、そういう事ですかね。」
「―――。」
答えぬレジデに、答えを見たのか。
満足したかのように、辺りを見回し、玲瓏たる声を張り上げる。
「レジデールと、ウィンス卿の手当てを急げ!!神子姫様のお身体をお戻しするまで、決して二人の命を損なわぬように!」
多くの信徒と兵士に彼らと引き剥がされる。
こうして私は、この地に完全に、――繋がれた。