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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
133/171

アランタトルの檻 26

 あの日から、五日間の時が過ぎた。

 

 シャムール・ギザエットとの交渉が上手くいって、フォリアの住環境と少しの安全を確保出来た日の夜。一晩だけ、ひっそりと泣き通した。


 こちらの世界に残る事は出来ない。

 誰かの人生を犠牲にして、この世界で生きていくことは出来ない。

 ……それは分かっている。

 けれども、離別への思い。

 知ってしまったそれぞれの立場と、やるせなさ。

 元の世界へ無事戻れるかと言う、死への恐怖。

 それらが綯い交ぜになって、胸をふさいで、苦しくて、……はち切れそうな思いを抱え、これが最後だと涙を流した。


 レジデを信用していないわけじゃない。

 けれども、施された治療魔法はどうなるのか、あの崖の途中に戻されるのか、元の時間軸に戻れるのかーーそんな事は、彼にだって分からないのだ。

 もしかしたら、帰ると言うこと自体が、目隠しをしたまま幹線道路を横切るような、命綱をつけずに綱渡りをするような、――…そんな先の無い、無謀な賭けなのかもしれない。


 無理矢理、押さえつけていた不安は一度溢れ出てしまえば止まらなくて。

 生々しいリバウンドの記憶と、生死の境をさまよったシグルスの館での記憶。それらが、身体を引き裂いて、痛切に自分勝手な叫びを上げる。


『このまま、この世界にいれば良いじゃない!』

『このままクリストファレスで、生きていく未来だってあるでしょう!?』


 離れたくないという思いと、荒れ狂う恐怖心に身を引き裂かれながらも、それでも元の世界に戻らないという選択は無いのだと、寝台に顔を埋めて慟哭する。

 そうして、胸の内が、空っぽになるまで、泣いて泣いて。

 朝日が滲み出した部屋で、ふと、いない人の声が聞こえた気がした。

  

『ねぇ、トーコ。もしトーコのオカアサンが生きていたら、何度でもトーコを助けるためにその身を投げ出すのではないでしょうか。――…それこそ、一片の迷いも無く。』


 いつの日か伝えられた言葉に、ぼんやりと、あの日に通った抜け道のある壁を見る。


 ああ。そうか。


 枯れはてたと思った涙が、暖かさをもって、ぽろりと零れ落ちる。 

 本来ならば、幾度と無く失われていた筈の私の命。

 けれども、麻衣子とテッラに帰ることで、戦火で失われるはずの命が……、次へと繋がるのか。


 フォリアとミクラム嬢に、赤子が生まれるかもしれない。

 レジデのような、悲しい育ちをする子が、いなくなるかもしれない。

 光気を補充できなくなったクリストファレスで、治療魔法によって、助かる命が増えるかもしれない。


 例え、この命がここで終わるのだとしても、私の選んだ道の先で――…命が紡がれる。

 新しい、命になる。

 

 ならば、何も怖がることは無い。

 私の命が果てたとしても、二度と彼らに会えなくても――…。


 この世界へ来れて、良かった。

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