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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
131/171

アランタトルの檻 24

 その昔、自由を欲したレジデールが一番最初にした事は、時の館に新たに入ってくるカケラから、光気をいち早く消失させる細工だった。

 光気が消えたカケラをいくら集めても、害は無い。

 更に、認識すらされてない光気が消えたところで、魔術学院にばれて騒がれることはないし、教団の監視員も、時の館にまでは入ることが出来ないのも幸いした。


「――…つまり時の館にあるカケラは、光気が抜けた残骸ばかりなのか?」

「そうです。水を入れた桶に、ナイフで穴を開けたようなもの。転送の魔法陣に細工を施したので、どんなに新たなカケラを館に集めても、光気は霧散していきます。」

 もう既に、レジデールが細工をする前とは比べ物にならないくらい、館の光気は散じていると言う。

 しかし、時の館にあるカケラに、必要なエネルギーが無いと分かれば、教団が次にするのは『召還』だ。


「ですから先手を打って、召還ができないような数々の小細工も、時の館やカケラに施す必要がありました。」

「随分徹底しているな。――……危険を冒して星屑のランプを壊しても、新たなカケラから、ランプを作られてしまえば、意味は無いと言うわけか。」

「はい。逆を言えば、星屑のランプを壊した時点で、大量の光気を用意できなければ、二度と星屑のランプを作ることは出来なくなります。」


 そうして、長い時間をかけながらも、段々と揃う準備。

 そこで、レジデールは、はたと気がつく。

 ――写真からイメージをつけて、新たなカケラを召還することは、出来てしまうのだろうかと。

「一人が思いついたということは、必ず誰かが思いつきます。」

 そうして思いつく限りの、複雑な召還を試し、成功したものは、今後は成功しないように、入念に館の結界を書き換えた。

「そして、ようやく……すべての準備が整いました。――トーコを召還したのは、その最後の試験召還でした。」


 レジデールの長年の計画の、本当に最後の最後で、突如現れた瀕死のテッラ人。

 さぞかし、驚いたろう。

 そして、――…邪魔に思ったろう。

 必死に光気を散らしてきたのに、よりにもよって、光気の塊のようなテッラ人が現れたのだ。

 それなのに――…、何故レジデールは、私を助けたんだろうか。


「………。」

 何故見殺しにしなかったのかと、聞くに聞けなくて逡巡する私の横で、レジデールはフォリアに改めて向かい直り、私に話したのと同じ、王宮の牢屋の話をした後、こう言った。

「だからお願いです。どうか五日後のドサクサにまぎれて、必ず逃げて下さい。」

「………完全に自由が利かない俺に、言うセリフか?」

 不審そうに、小さく片眉を上げるフォリアに、レジデールの呆れたような声が返る。

「まさか、あなたは自分がトーコを助けに来て、そのまま捕らわれたと……私に信じろというんですか?」

「……。」

「第一、簡単に捕まるような、そんな可愛げのある人間ではないでしょう?」

 あなたのことだ。最低でも、自分とトーコが逃げ出す算段はつけてあるはずです。

 そう苦笑したような声に、静かにそれを見守っていたフォリアが、本当に小さく、片方の口角を上げる。


 それって、つまり……。

「もしかして、フォリアは、わざと……捕まったの?」

 血の滲む口角や、痛々しい殴打の跡。

 ここまでの傷を覚悟して、わざと捕まったというの!?

 信じられない思いでフォリアを見れば、どきりとするくらい優しい目をした男が、その長い腕を伸ばして、私の髪を一筋梳いた。

「あのまま、廃人のようなお前を、そのままにはして置けまい。」


 お前の意識を繋ぐ一つのカケラとなるなら、それでよかった。

 そう言って頬に労わるように置かれた手の暖かさに、どう返答して良いかわからなくて、視線を落とす。

 ああ、もうっ……。

「何で……。」 

 こんな危険を顧みず、怪我までして。

 言葉をなくした私に、

「もう少し、早く捕まる予定だったんだがな。……守護の呪が発動したせいで、余裕がなくなって、あまり手加減出来ずに、暴れたのは俺のミスだ。」

 お前が気にすることでは無い。

 そう言って、少しばつが悪そうに苦笑する。


「手の内を明かせとは言いません。信用も無いでしょう。けれども私の話を聞いて欲しかった。そして願わくば、――…五日間は静観して下さい。貴方も、貴方の後ろの組織にも。」

「――…お前の話は分かった。信じる信じないは別として、トーコを帰す日には同席させろ。」

「帰郷に反対は……、しないのですね。」

 その問いに、フォリアは小さく肩をすくめて、天を仰ぐ。

「あんな姿を見せられて、か? ――今更、反対も無いだろう。」

 その言葉に、レジデールは一瞬、痛みを堪えるような顔をした後、凛とした表情で、フォリアと向き合う。

「構いませんが、危険ですよ。」


「今さらだ。――少なくとも、自分の目で見届けさせろ。トーコの進む道も……、お前の覚悟も。」

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