表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
122/171

アランタトルの檻 15

「……あ、あの後すぐ、レジデールが神子姫さまのお首元の痣に、気がつきました。」

 そこでシャムール・ギザエットに報告された、二人の神子姫の不思議なやり取り。

 聞き覚えの無い、異国の歌や言葉。

 そして先代の神子姫の唐突な乱心。

 私に発動した守りの呪。

 二人はテッラ人なのではと、動揺混乱する信者たちを、一括で収めるシャムール・ギザエットの声。


 狂信者ではありながらも、元々は知性の高いリルファの説明は、分かりやすく、淀みない。

 その場で矢継ぎ早にされた情報交換の様子や、その説明に動揺する信者達の様子などが、目に浮かぶようだ。


「また、手練の不審者の情報については、あまり話が出ませんでした。ただ打ち合いの最中、男の手の甲に、突然発動した守護の紋章があった事から、姫様をお守り申し上げたのは、あの不審者であろうとの見解が……。」

「守護の紋章?」

 つまり、あれはフォリアが守ってくれたものだったの?

 思わぬ関係性に目を見開く。


「他には?」

「申し訳ありません。その後、姫さまと此方の部屋に戻ってまいりましたので……、それ以上のことは……。ただ、不審者を殺せとの声が多い中、最終的にレジデールの反対意見が採用されたことは聞いております。」

「――反対……したの?」

「はい。レジデールは侵入者を、高貴な姫君の気に入りの異母弟であり、姫さまの思い人で在らせられる可能性が高いと指摘致しましたので、捨て置けないと……。」


 私の……思い人?

 何だそれは。

 リルファの説明に、思わず思考が止まる。

 けれども、不可解な事柄は、脳裏で切って捨てるに限る――と、意識の隅に追いやる。

 どちらにしろ、私の手にはあまる事ばかりだ。

 けれども、一つだけ確認は出来た。

「……つまり、フォリアは生きているのね。」

「はい。安易に害するのは得策ではありますまいと、現在は神殿の最奥で身柄を拘束しております。――姫さまに危険が及ぶことは、ございません。」


 情報の正確性はさておき、フォリアは拘束されている。

 そして麻衣子との日本語のやり取りが、――ひいてはテッラ人だということが、シャムール・ギザエットに、ばれた。

 ――…どう出来る?

 今の私に、どう動くことが出来る……?

 

 静かに沈黙が下りた部屋。

 深く思考の海に沈む私に、おずおずと、ためらいがちに若い女の声がかかった。

「姫さまは、本当に、神代の……落ち人で在らせられるのでしょうか。」

「………?」

 ――落ち人?

 その声に、思考の海に沈んでいた意識が浮上する。

 無言のまま、声の方に視線をやれば、

「!……お、お許し下さいませ。出過ぎた真似を申しましたっ。」

 と、慌てたように、リルファを初めとする一同が、深く叩頭する。


 日々晒されていた、心酔しきった信者達の濡れた瞳。

 けれども今の彼女の瞳には、そして後ろで控える信者たちには、その上に明らかに畏敬の色が――鮮やかに乗る。

 ……そう、か。

 思わずおかしくなって、くすりと笑う。

 魔法を使う、精霊のいるこの異世界で、天空世界と思われているテッラ――地球。

 彼らは指先一つで、私が運命を変えられるとでも思っているのだろうか。

 テッラ人、落ち人、天空人。……アラン・タトル。これを上手く、使えるか?


「どう思うの。」

 にこりと笑ったまま、中年に差し掛かった豊麗なリルファの白い腕を取れば、百戦錬磨の筈の彼女は、呑まれたように息を飲む。

「そ、れは。」

「――あなた達。下がりなさい。」

 笑んだまま、後ろに視線を一つ。


 すると熱い視線でこちらを見守っていた信者たちは、一片の逡巡すら見せず、恭順の意を示すかのように平伏し、静かに下がる。

「ねぇ、リルファ。」

「………っ」

「貴女が仕えているのは、誰?」

「そ、れは……。」

「天空におわします神々?司祭長?皇帝?――それとも、誰?」

 にこりと笑う私に、小さく震える女官長。 


「今更、どこに逃げる気も無いわ。……けれども今夜は一人にして。」

 また白痴の私が欲しい訳ではないのでしょう?と、はんなりと笑ってみせる。

 以前なら、決して私を一人にしようとしなかったリルファが、その声に挫けたように平伏し、静かに退出する。


 静かにひっそり生きる事も出来ない。

 忘我の淵に立つことも許されない。


 ならば。

 逃げるなと言うならば。

 血反吐を吐いてでも、足掻けるところまで足掻いてやろう。

 もしこの世に神様がいるなら、それはきっと悪魔のように見えるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ