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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
119/171

アランタトルの檻 12

 代償行為。自己否定、無価値感。

 心理学者や精神科医ならば、私の通ってきた道を、千の言葉、万の言葉で表すのだろう。

 けれども、きっかけがどうであれ……、大きな声で泣いて、怒って、笑って――全身で駆け寄る子どもたちが、私は何より好きだった。

 それは、忘却や虚実の生活とは無縁の、暖かな思い出だ……。


 ――里わの灯影も 森の色も

 ……――。

 ――田中の小道を 辿る人も

 ……――。


 深く俯いた私の耳に、幻想の歌声が、二番を紡ぎはじめる。

 冷たいガラス窓に身体を預け、暖かな記憶にたゆう私の耳朶を、優しくくすぐる声。

 ふらりと、身体が動いた。


 ――蛙の鳴く音も

 ――鐘の音も


 本当に聞こえるはずが無い、美しく、懐かしい故郷の歌。

 けれども、私の知らない二番は、脳裏からではなく……、耳から聞こえる。

 その不可思議な幻聴に、御伽噺の姫君が決して糸車から逃れることができなかったように、無意識に風上を、その歌声の主を求め、足を進める。


 私の行動を諌めようとした、数少ない女性たちを、どうやってかわしたかも覚えていない。

 次第に大きくなる歌声だけをもとめ、いつしか私は走り、――ひとつの扉を解き放つ。

「――…!!……、…!――。」

 そこは、私の部屋と鏡の世界のように、全く同じ作りの部屋。

 部屋の窓辺に立つ、驚いた表情の信者の女達の姿。

 そして、私と同じ白いローブ、女性の背中と、黒い髪。

 ――さながら霞める

 窓辺に立つ、もう一人の私が、歌いながら――ふと身体を震わせ、ゆっくりと振り向く。


「おぼろ、月夜。」

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