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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
116/171

アランタトルの檻 9

「それでは、光の道をお進み下さい。」

 並んだ蝋燭が示す道は、先ほどまで祭壇があった筈の場所をもぐり、暗闇へと進む。

 問答無用で進まされた階段で――…一人じゃない、大勢の息遣いを感じて、思わず立ちすくんだ。

 滑走路の誘導等のように置かれた、床の小さなロウソクたち。

 その光が届かない先、確かに、何か――誰か、いる。


「――参らせられませ。」

 少し後をついてくる、シャムール・ギザエットの声に、冷たいものが混じる。

 けれども、姿が見えない暗闇の中、息遣いだけが聞こえると言うのは、恐怖でしかない。

 時々何かが、きらりと光るのは、獰猛な動物の瞳なのだろうか。

 恐怖心を誤魔化して、無理やり足を進めれば、先ほど渡された重い塊が、ふわりと光を纏いだした。


「――あ……。」

 手元がどんどん明るくなり、その姿を現したのは、神子姫たちが持つ星屑のランプ。

 一抱えほどあるそれは、ガラスで作った三角錐を放射状に束ねた、優美な姿。

 中には光る白い砂。

 金平糖を鋭利にしたようなガラスの中で、いつしか白い砂は、踊るように、嵐のように、渦巻き、光を増しながら、輝き始める。

 気がつけば、暗闇の中、あちらこちらに捧げられた星屑のランプが、ゆっくりと同じように輝きだしていた。


「素晴らしい!それが新たな乙女か!」

 ――誰?

 しゃがれて割れた、男の声。

 暗闇を退けるようにして、星屑のランプを声の主の方に、とっさに突き出す。

 けれどもそうする迄も無く、明かりを増した星屑のランプたちが『会場内』を照らし出し、暗闇は吸い取られるようにして、四方へと散る。

 私が立つ『光の道』の左右には、いつしか漆黒のドレスや式典服に身を包んだ、王侯貴族たちが立ち並び、道の先、壇上に鎮座するのは一人の男。

 炯炯とした瞳が向けられる。


「素晴らしい。話を聞いた時は半信半疑であったが、比類なき、このかぐわしい光気!確かに次世代の神子姫として、申し分無い。」 

 壇上の玉座から、猛禽類のような鋭い目つきをした老人が、乗り出すようにこちらを見る。

 頭上には、見たことも無いほど大きな宝玉が乗る、大きな王冠。

 この老人が。

 これが、皇帝なのか。

 北の軍事国家の主、ケイガル・ドーア・スタルヒン・クリストファレス。


 恐ろしい人。

 心の底からそう思う。

 視線一つに含ませた、尋常ではない程の力。

 そのあまりの威圧感に立ちすくむ私を、付き添った信者たちに、無理やり皇帝の前に進められる。

「――漆黒の瞳と髪か。」

 ガリガリに筋張った腕、落ち窪んだ瞳。

 生命力あふれるフェルディナント二世と違い、この老爺から滲み出しているのは、生と野心への強烈な執着心なのだろうか。

 ごくりと小さく喉が鳴った。


「やはり噂通りファンデールのの、隠し子であろうな。」

 ……え?

 一人納得した風の老人の、その言葉の意味を反復して、ようやっと自分に、とんでもない疑惑がかけられていたのだと知る。

 フェルディナント二世の従兄妹姫の元に隠された、同じ黒髪、黒い瞳の少女。

 確かに、事情の知らない他国から見れば、アーラ姫の出自が国王の隠し子でも不思議では無い。


「ちがっ……!」

 血の気が引き、思わず否定しかけた私には目もくれず、恍惚とした表情で立ち上がる。

「国境付近に圧力をかけ、神子姫にしそこなった、こ憎たらしい銀の娘を王都へといぶり出したら、思わぬ宝玉が手に入った。皆の者!喜ばしい事ぞ!」

 盛大に湧く拍手と熱気。

「……っ!」

 神子姫にしそこなった、こ憎たらしい銀の娘……って、まさか。


 フェルディナント二世がいった言葉。

 ――確証は無いが、クリストファレスは焦って何かを『探して』いるように思うた。

 ――この状況下で、北の国境傍に住むシルヴィアを放って置くことは出来ぬ。

 本当にクリストファレスが探していた物は、シルヴィアだったのか!


「今、我が帝国に、星屑のランプを灯す、新たな乙女が誕生した!これでファンデール王国も我が手中に落ちたも同然!!」

 爛々と光る目が、私と、私の持つ星屑のランプを舐めるように見てから、その後ろに視線が泳ぐ。

「でかしたぞ!シャムール!」


「褒めて遣わそうぞ!レジデール!」


 ――レジデ……ール?

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