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世界のカケラ  作者: viseo
崩壊編
108/171

アランタトルの檻 1

 甘い甘い香りがする。

 とろりと溶けてしまいそうな程、馥郁たる香りが立ち込める。


 ゆらりゆらりと、ゆられながら、何も考えられない頭でふと思う。 

 どうして、私はここにいるのだろう?


 潮騒の音。

 目の前を真っ白に染める、白い雪。

 幾人もの人間が担ぐ輿が、くたりとした私を乗せ、額づく人々の合間をゆらりゆらりと進む。

 現実感がまるでない、不思議な風景。


 それをぼんやりと眺めていれば、ふと、ひとつの答えが心に浮かぶ。

 ――そうか。私はまた、異世界に飛ばされたんだ。

 いつの間にか握り締めていた、鋭利な破片が手を傷つけ、その一瞬の痛みと共に、ふわりと唇に笑みが上る。

 ――ああ、よかった。

 もう、だれも傷つけない。何も壊さない。

 ゆらりゆらりと、大好きだった人たちの顔が、浮かんでは消える。

 もう大丈夫。


 力を抜けば、とぷんと、甘い眠りに誘われる。

 何物も傷つけない、深い深い幸せな眠りの底。

 それでもどこかで、ちりちりとした思いが、私の眠りを妨げる。


 ここは幸せだけど、私は何か……強く強く、心配していなかっただろうか?

 甘い眠りを妨げるように、次々と湧き上がる強い焦りが、深い海の底に引きずりこまれた私の意識を、一瞬ぷかりと浮上させ――その何一つ考えられない大海原で、途方にくれる。


 ――どうして、私はここにいる?

 ――私が心配していたもの。それは何……。


 おぼれそうになって伸ばした手の先、片側だけ、幾重にも厳重に巻かれた見知らぬ白い包帯が目に入る。

 それに不思議に思えば、益々強くなる甘い香りが鼻腔をくすぐり――また泥濘とした眠りに、ずるりと引き込まれていく。

 

 神子―さま。……姫、さま。

 ――誰?

 まだ……お休み下さいませ――。…子姫さま。

 ――みこ、ひめ?

 ……――で、ございます。どうぞ、お気を楽に――。

 ――それ、……だぁれ?

 ―…もう間……で、ございます。お休みくださ……せ。


 ああ。そうか。

 繰り返されるそれに、得心がいって、はんなりと笑う。

 どうして、わからなかったんだろう。

 こんな簡単なことなのに。


 私が、神子姫なのに―― 

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