風鈴が呼び寄せる
薄暗い雰囲気の物語に挑戦してみました。あんまりホラーではない気がします。
なお、この作品は「なろうラジオ大賞7」に応募しています。
ふうらりいん。
夏の音がする。
昼下がり、縁側に座る私は、風に揺れる風鈴を無表情に眺める。
蝉の鳴き声がうるさいから、よく耳を澄まさないと聞こえないな、と思って、視覚的にも風鈴をしっかり捉えようとする。
ふうらりいん。
また鳴った。短冊の真っ白な和紙が北の方角へと流れる。
もうすぐ雨が降るようだ。
ふっ。と、蝋燭が消されるような音がして、にわかに肌寒くなって、辺りが薄暗くなる。思ったより早く積乱雲が来てしまったのかもしれない。
それにしては、そういえば、蝉の音が聞こえない。
ふうらりいん。
ねえ、またなったね。わたしたちのだいすきなおとが。
ねえ、またなったねえ。
またひとり、いなくなるかもしれないねえ。
またひとり、くわれてしまうかもしれないねえ。
ねえ。
ねえ。
ねえ。
私はじっと息を潜めた。知らない声だ。純粋な声色だけれど、どことなく禍々しい声色。
ねえ、あのにんげん、いいなあ。
いいなあ。
声はまだ聞こえていた。私は聞こえていないふりをする。
ねえ、あのにんげん、にくいなあ。
ねえ、いつもおとをきいていて、にくいなあ。
ねえ、いつもわたしたちのだいすきなおとをきいていて、にくいなあ。
ねえ、おいしそうだねえ。
ねえ、くってしまおうか。
ねえ、そうかもしれないねえ。
ねえ、はなしかけてみようか。
ねえ。
ねえ。
ねえ。
ねえ。
先ほどよりも近くで声がするような気がして、私は思わず身を縮めた。耳を塞ぐ、のだけれど。ねえ。ねえ。ねえ。
ねえ、 。
私は何も聞いていないから、
ふうらりいん。
蝉の声がうるさい。うだるような、溶けてしまいそうな暑さ。
私は戻ってきたのだ。
ふうらりいん。
また、肌寒くなって、私は思わず身震いする。見上げると空いっぱいに灰色の雲。今度こそ、雨が降ってきた。
夕立だ。
じゃばじゃばと、全てを洗い流すような雨音だけが聞こえる。
縁側から立ち上がると、夕立にしては随分と乱暴で大粒な水滴が、私の頬を穿った。私は笑ってそれを全身に浴びる。まるで夏みたいなことだから。暑いから、きっと風邪もひかない。
風鈴の音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
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