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秋の文芸2025

利害

作者: ブルキナファソ出身のピカソ
掲載日:2025/10/08

わたしとエトウと野崎とえいすけ

ひとつずつ思い出していこう。


エトウとわたしが付き合っていたときのことだ。

テストが近いから勉強しよう?ってどちらから言い出したのか忘れてしまったよ。


ビルのなかにある休憩スペースは思いのほか広くて、しかもガラス張りの窓からは他のビルやタワーなんか見えちゃったりして。


「エトウは成績いいもんね。わたしなんて全然ダメ」


「そうかな。オレもそんなにいいとは自分自身思わないよ」


エトウは世界史をノートにまとめている。年代と、覚えるべき語句と。


そこにはふたりしかいなかったわけではない。

わたしの親友の野崎もいた。なぜか分からないけどいた。


「野崎はミーコとは長いの?」


「うん、中学の頃から一緒。陸上部だった」


「へえ、ミーコ走るんだ」


「わたし足速いよ。ね、崎ちゃん」


「そだねー」


他愛ない会話、面倒くさい勉強。

ほとんどスマホしかいじってなかった。


「オレさ、喉乾いちゃった」


そう言ってエトウ、自販機へ向かう。


「てかエトウかっこよくね?」


「そりゃそうよ。彼氏だもん」


「性格は?」


「ふつーかな」


まだ数ヶ月しか経過してない。入学式で一目ぼれしました!とか告白されたのはささやかなる自慢。


「ふたりも飲むっしょ」


戻ってきたエトウは三本の缶を抱えている。

筋ばった腕に結露が垂れる。床に水が滴る。


「お、ありがと」


野崎が受け取る。エトウから手渡される。


「あ」


「ん?」


「あー、ウチがどっちももらっていい?」


「え何で」


エトウは困惑している。エトウに一本。野崎に二本。するとわたしはゼロになる。


「だってみっちゃん炭酸飲めないもん」


まじ?って顔つきのエトウと、まあそうだよねって頷き合うわたしたちと、窓からの景色は晴れていて空は青い。


「うわ、どうしよう」


「ウチがほかの飲み物買ってくる!」


走り出す野崎とその背中を目で追うエトウとわたし。


「ごめん、気づかなかった」


「いや。わたしも言ってなかったから」


「オレも昔飲めなかった。ファンタの缶は開けてから一日置いてた」


「それは長すぎしんさく」


「なにそれ」


「歴史ギャグ」


ファンタ一日で炭酸全部抜けるんだ?って不思議。


「ウチんちの近くで炭酸湧水出てくるとこ知ってる」


いつの間にかオレンジジュースがテーブルに置かれていて、野崎も会話にノリノリで混ざる。


「なにそれ、炭酸って自然にできるの?」


「エトウでも知らないことあるんだね、あはは」


「いやあるだろ」


素早くツッコむエトウに腹抱えて笑う野崎。


「みっちゃんはピリピリ嫌いなんだよね?」


「うん」


「へー。じゃあ火鍋とかもムリなの?」


「って思うじゃん?でも辛いのはみっちゃん平気なんだよ!ウケるでしょ」


「良かった、オレ火鍋好きだから」


「お、おぬしら相性バッチリじゃん」


「やめてよ崎ちゃんてば」


そんなお喋りを繰り広げていると日が傾いてくる。


未来を先取りすると、この日野崎は彼氏を欲しいと思った。

野崎的にはエトウはイケメンだけど身長が小さいから論外だったらしい。


なのでいったんエトウの友だちのえいすけと付き合った。

えいすけとエトウと野崎とわたしでデートに行ったこともある。


電車でショッピングモールに行ったんだっけね。


そして卒業するころにはエトウとわたしが別れて、そのときはまだ野崎とえいすけは続いていて。


成人式のときにまた四人で会うんだけど。

野崎は高校のときのクラスメートで、わたしたちも知ってる幡山と付き合ってその後結婚した。


幡山は毎朝遅刻の常習犯で。

冬の日なんか先生から「おい幡山、お前鼻くそついてるぞ」って公衆の面前で指摘されてた。


逆にあそこで先生が言わなかったらどうなってたと思う?


クラスメートがひそひそ鼻くその話題で盛り上がって、写真まで撮るやつが現れたんじゃないかな?


結局わたしがなにを言いたいのかって話だけど、野崎がわたしの炭酸飲めないの気づいてエトウにさりげなく教えてあげた勉強会。


野崎がオレンジジュース買ってきてくれたのは自然だった。わたしはオレンジジュースが好きだから。


だから野崎のこと大切だし、親友って思ってる。


じゃあ炭酸持ってきたエトウは嫌いだったかと聞かれたら、まじで好きだった。


エトウは気にしてた。


わたしの好き嫌い把握してなかったこと。

それと野崎に敵わないって思ったってあとから言われた。


わたしが崎ちゃんにあのときなんて言えば正解だったのか、って今でも考えることがある。


旦那とディズニーランド行った帰りとか、子どもたちをトイレに連れて行くときとか、社員旅行で上司にお酒をついでもらったときとか。


いつも思い出す。

あの日の勉強会。


きっとふたりは覚えてない。


でもわたしは覚えてるよ忘れないよ。


あのころ聞いた曲。

イヤホン片方ずつで聞いた曲の名前は覚えてないけどエトウが隣にいたのは覚えてる。

電車のにおいとか、席の温かさとか、すごい覚えてるよ。

エトウ髪型のセットに命かけてたね!触ると怒ったね!でも本気で怒ったことないね。本気で怒ってくれても良かったんだよ?


エトウはクラスメートから友だちになった直後に彼氏に昇華して再び友だちに戻った特別な存在。


なあエトウ、今何してる?





(了)

エトウはころしてやりたいくらい好きだった、不思議。もうなんでもないのに。そのくらい好きって思えた自分がいたなんて

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