表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/37

第21章

すべてが“前と同じ”だった。

靴の紐を結ぶ角度、空の明るさ、鳥の声――まるで再放送のように、ひとつひとつが記憶と重なっていく。


(……なんなの、これ)


確かな違和感。けれど何も起きない。


途中、小川の横を歩いていると、リコが元気よく手を振る。


「ナツー! おはよ!」


「……っ!」


まったく同じタイミング、同じ言い回し。

リコの笑顔が、不気味に感じられるほどだった。


(デジャヴじゃない。……これ、まさか)


それでも、恐る恐る校門をくぐる。


昨日は、ここで世界がひっくり返った。


……けれど今日は――


何も起きなかった。


「……通れた」


立ち止まって振り返っても、星の駅も列車もない。

ただの、いつもの校門。

背後から歩いてくる生徒たちが、不思議そうに菜月を追い越していく。


(……じゃあ、やっぱり、あれは夢……だったの?)


困惑のまま教室に入り、席に着く。

古文の授業が始まり、菜月も無理やり気を落ち着けようと教科書を開いた。


けれど――


その静けさは、すぐに破られた。


教室の窓の外を、サイレンを鳴らしたパトカーと救急車が何台も通り抜けていく。


(……え?)


何事かと振り返る生徒たち。

ざわつく教室。

だが、最も異様だったのはそのあとだった。


ガラリ。


授業中にもかかわらず、教頭が教室の扉を開けて入ってきた。


菜月だけでなく、生徒全員が固まる。


教頭は無言のまま、教壇に立つ古文の先生の耳元へと口を寄せ、何かを囁いた。


その瞬間、先生の顔色がさっと青ざめる。

目を見開いたまま、一歩身を引いた。


「……はい」


古文の先生が教壇を譲ると、教頭が前に出てきた。


「みなさん。落ち着いて聞いてください」


その声は妙に静かで、逆に恐怖をあおった。


菜月は背筋が冷えるのを感じた。

まるで、これから言われることが――自分の世界をまた壊すのだと直感していた。


「……警察署から、先ほど連絡がありました」


一拍、言葉を置く。


「……隣接する男子校の生徒、4人が、殺害されたとのことです」


教室が、一瞬で凍りついた。


「え……?」


「……うそでしょ……」


小さく漏れる声。どこかの席で椅子の軋む音。


そしてすぐに、全体がざわつき始めた。


「え、誰が?」「どこで?」「まじ?」「なんで……?」


「静かに!」


古文の先生が突然怒鳴った。

いつもは穏やかな先生の声が怒気を含み、教室が再び沈黙に包まれる。


教頭は冷静を保とうと努めながら、続けた。


「本日の授業はすべて中止となります。今後の安全確保のため、学校は1週間休校といたします」


「……!」


「なお、本日は先生方の付き添いのもと、集団下校とします」


言葉を選びながらも、その目は明らかに硬く緊張していた。


「犯人は……まだ逃走中とのことです。くれぐれも騒がず、落ち着いて行動してください」


その瞬間、菜月の中で“何か”が音を立ててひび割れた。


昨日とは、違う“何か”が――確かに動いている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ