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※カリクス視点

「リーシャ嬢とは、上手いこと話せたか?」

「父上……話しましたが、誰のせいだと」


父上に、恨みのこもった眼差しを向ける。俺がこんなに疲れてんのに、相変わらず元気だな。まさか、こんな事になるとは思わなかった。デート…か、会話を用意しておかないと。あいつとの、無駄な時間は作りたくない。


「そう気にするな。お互い、恨みを持っている訳でもないのだから」

「そうよ、カリクス。この機会に、リーちゃんの心を手に入れてみせなさい!」

「父上…母上…」


そんな無茶な。確かに、お互い恨みを持ってはいないと思うが、心を手に入れることは無理だろう。お互い嫌っているうちはな。今日も今日で、フェリシト公爵家に向かったのが無駄足になったのは、流石にストレスが溜まった。


「そんな顔しないの。世の中には、吊り橋効果というものもあるのだから、追い込まれたら、相思相愛になれるわよ」

「母上、本当にそれでいいと思いますか?」

「運命に縛られている世界の、恋愛なんてそんなものよ。」


母上の言うことは、一理ある。運命に縛られているこの国では、個人の感情など必要ない。何もしなくても、運命が赴くままに全てを決めてくれるからだ。運命的な出会いや、奇跡が起こるといったことも、結局は確定された人生の岐路において起こること。まぁ、そんな世界はつまらないけどな。


「でもね、カリクス。一つだけ母として言わせてもらうわ。」

「なんでしょうか」

「幸せになりなさい。誰にでも、幸せになる権利はあるとわたくしは思っているの。」


幼子に言い聞かせるかのような芯のある声で、母上がそう言った。母上と父上は、占術による結婚だった。最初は思うところがあったらしいが、今ではすっかり仲良し夫婦になっている。そんな両親への不満といえば少々、自由すぎるところだろう。


「もちろんです。母上」

「ええ」


俺の返事に、満足したように母上が微笑む。すると、一連の会話を見守っていた父上が口を開く。


「ビオラ、心配するな。カリクスも理解しておるだろう。」

「そうね」


ビオラというのは、ビオータという母の名前の愛称だ。俺は、良い家族の元で生まれてきたと思う。だからこそ、家族には迷惑をかけたくない。父上は教えてくれないが、手紙を受け取ったことには何か訳がある気がする。ここから先は、慎重に動かなければ。俺がヘマをして、妹に後継者としての重荷は背負わせたくないしな。


「おい、今いいか?両親とは別れた。少し話がしたい。」

「ほぉ、なんだ?」

「どうして、フェリシトとの婚約を推奨するんだ?」


こいつは突如、俺の中に出てきた。症状的にみると、別人格というものだと思うが、俺はそんな症状が出るほど、辛いことに出会った経験がない。突然話しかけてくることもあるし、急に表に出ることもある。よく分からないやつだ。ちなみに、こいつの名前はディル。初めて出てきたときにそう呼んでくれって頼まれた。


「ふむ、カリクスは婚約についてどう思ってるんだ?」

「質問に質問で返すな」


ディルの言葉に自然とため息が出る。俺の事はともかくとしても、フェリシトは俺との婚約は嫌だろう。人には幸せになる権利がある。その権利を害するのは、いくら神でも許されないことだ。


「運命で定められた婚約なんて意味ねぇよ。」

「だが、それがこの国の普通だ。」


その通りだ。だからいけないんだ。運命に縛られている生活なんて、自由じゃない。もっと楽に捉えた方が生きやすいのに。

俺がそう考えていると、ディルが疑問をなげかけてくる。


「カリクスは運命神のこと嫌いか?」

「別に、運命神のことは嫌いじゃない。」


運命神のことを嫌うのはおかしいだろう。好きって訳でもないが。一応、この国の根幹にあたるものだからな。


「甘いな。」

「なんのことだ?」


俺の答えを嘲笑うかのようにディルが笑う。こういう、たまにイラつくところは俺に似ている。


「ところで、カリクス、俺の事はいつまでも話さないつもりだ?」

「今のところはな。別に困ってるわけでもねぇし。変に心配させたくない」


最初は誰かに話そうかと思ったが、その時は国内が、荒れているときだったから結局話すのをやめてしまった。それからは、ディルという存在に慣れてしまい、今に繋がるというわけだ。


「信頼と受け取るよ。ありがとう。」

「お前は、何年俺の中にいると思っているんだ。」


長い付き合いにもなるし、こいつの性質はある程度分かっているつもりだ。今更、警戒することもない。ただ、たまに俺の思考を占拠するのだけはやめて欲しい。脳がバグを起こす。


「ははっ、リーシャ嬢とは仲良くやるんだよ?俺の大切だから。」

「なんでお前は、フェリシトを気に入っているんだ。俺の一部のくせに」


これが、一番の謎である。フェリシトのことを、ディルが気に入っている理由が分からない。今日だって、急に変わってきてはフェリシトに引かれていただろ。俺の姿で変なことをするな。


「そう、怒るなよ。変なことはしない」

「ふーん」


ディルが笑ってそう言う。余罪があるから信用出来ない発言だが、まぁひとまず置いておこう。それよりも、手紙の調査をしないとな。フェリシトは何も知らないようだったし、捜査は難航しそうだし、各所に説明もしなければいけない。本当に、父上はなんてものを受け取ったんだ……。

これからの事を考えると、ため息が出る。運命とやらを、ぶち壊すことが出来たら、爽快だな。

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