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「差出人不明の手紙とは、ルーラ公爵が書かれたたものじゃないんですか?」
「どうして俺が、息子と親友の娘が嫌がることをすると思ったのかな」
「それは…」
あなたの性格に問題があるからです!…とはさすがに言えない。
「……とにかく、ルーラ公爵が書かれたものじゃないのなら一体誰が?」
「差出人不明だと、最初から言っておる。」
「本当に、不明なんですか?」
「もちろん」
ルーラ公爵ってここまで、自由奔放な人なのか…。お父様から聞いたときは差出人不明と言っても、ルーラ公爵のいつものイタズラだと思ったが、本当に差出人不明の手紙を"公爵家"が受け取っているとは。
「なんで受け取ったのですか…」
「面白そうだった以外に理由がなかろう。」
「……………」
助けてカリクス、あんたの父親をどうにかして…。初めて宿敵に助けを求めた気がする。私じゃルーラ公爵を制御することが出来そうにない。そんな私の疲れた目に気づいたのか、ルーラ公爵がこう言ってくる。
「そんな顔をするな。ほれ、手紙を読んでみろ。俺の言ったことがわかるはずだ。」
そう言われ、渡された手紙を開く。手紙には、こう書いてあった。
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カリクス・ディア=ルーラ公爵令息と、リーシャ・ルア=フェリシト公爵令嬢
お互いを深く溺愛し、想いあっているお二人の婚約を推奨致します。
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公爵から渡されたものには、そう書いてあった。だけど、あまりにもこれは…
「これって、手紙なんですか?一言しか、書かれておりませんが」
宛先不明・差出人不明、しかも書いてあるのは一言だけ。とてもじゃないけど、手紙と呼ぶには難しい気がする。
それと、この字、どっかで見たような
「ああ、これは手紙だ。おかしいところも怪しいところも多いがな。」
そうなのか?いや家主が言うのだからそうなのだろう。まぁ、それはそれとして煮え切らない部分もある。知らないやつに、勝手に運命を弄ばれている気がしてしまう。
……ん?待てよ、宛先が書いていないのに、なんでルーラ公爵家宛だと分かったんだ?
「これには、宛先が書いてありませんが、どうして分かったんですか?ルーラ公爵家宛だと」
「ふむ、その事に関しては謎なんだ。」
「謎?」
私のその問いに、顔に一瞬影を落としてから、ルーラ公爵が答える。謎とはどういうことなのだろう。謎のまま、ルーラ公爵家に送ったってこと?それだと矛盾が生じる。
私が疑問に思っていると、苦笑しながらルーラ公爵が理由を話してくれた。
「執務室の机にな、置いてあったんだ。」
「は?」
「誰が置いたのかと、尋ねても使用人は置いていないと言うもんでな。不思議だろ?」
話してくれた内容に、私は唖然とする。
いきなり机に置いてあって、誰も置いていないと言うなんて…。それじゃあ、まるで
「「最初からここに置いてあったみたい」」
私とルーラ公爵の声がハモる。私がハッと顔を上げると、なんとも言えない表情をしたルーラ公爵と目が合った。
「言いたいことは分かる。俺も最初はそう思ったんだ。だけど、それは有り得ない。」
「執務室に勝手に入れるのが、ルーラ公爵だけだからですか?」
私がそう思って聞くと、ルーラ公爵は首を横に振った。違うのか。
「いや、勝手に入れるのは俺とカリクスだ。だが、カリクスがリーシャ嬢との婚約を望むと思うか?」
「いいえ、全く。」
「だろう?だから、有り得ないんだ。カリクスも憤っておったしな。」
ルーラ公爵の言葉に即答で答える。
カリクスが私との婚約を望むのは有り得ないだろう。それも、あんな怪文書を送ってまでやるのはない。私を間違えたとか言って、殺そうとしてくるやつだ。殺し合いをしようと言われることはあるかもしれないけど、婚約は無い。
「でしょうね。…なるほど、謎。」
「ああ、謎だ。だが、いずれ分かるだろう。」
「差出人不明の手紙に、焦りはしないのですか?」
気になって私がそう聞く。普通、焦るか、怖がるものだろう。なのに、ルーラ公爵はひどく落ち着いていた。手紙も不思議だが、ルーラ公爵も不思議な人だと思う。何を考えているのかいまいち掴めない。公爵夫人なら、分かるのだろうか。
「…焦る必要を感じないな。」
「え?」
しばらく沈黙してから、ルーラ公爵が淡々と答える。私が理由を聞こうとしたとき、執務室の扉を叩く音が聞こえてきた。
「父上、少しよろしいでしょうか」
カリクスが帰ってきてしまった。話し込んでいたといえど、案外早いな。しかし、今日は会いたくない。疑問が全て解消されたから、カリクスへの日頃の恨みしか残っていない。さらに、勝手に決められた婚約への怒りから、会ったらグーパンを決めてしまいそう。それは、醜聞になってしまうからやめたい。
私のこの思いを察知していたはずなのに、ルーラ公爵が最低の返答をする。
「ああ、良いぞ。ちょうど、リーシャ嬢もおる。」
ァー!?公爵!?
ルーラ公爵の返答に、私が冷え汗をだらだらと流していると、カリクスが入ってきた。グーパンは決めなかった。えらいぞ私
「…本当に、ここにいたか。」
大袈裟にため息をついて、カリクスがそう言う。
私がここにいちゃいけないのか。それと、なんだその口ぶり。私じゃなくて、公爵に用があったんだろ。入ってからの第一声は公爵に向けろよ。
私が、心の中でそう悪態をついていると、ルーラ公爵が笑顔でこう言う。
「カリクスはリーシャ嬢に用があったんだろう?応接間を貸すから、そこで話しなさい。」
「承知致しました。父上」
私への用だったのかよ。