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「え?いない!?」
カリクスに事情を聞きに行こうとルーラ邸へと向かった私を待っていたのは、カリクスがいないという現状だった。
学園に報告しに行かなきゃいけないから、私を迎えにフェリシト邸に行ったなんて、知らないわよ!!
「綺麗に入れ違いになったようですね。どう致しますか?お嬢様。」
「ここで帰っても、どうせまた入れ違いになるだけよ。だけど…ここに滞在するというのもね…ご迷惑になるし」
私とカリクスはとことん息が合わない。
どっちかがどっちかを探していたら、必ず入れ違いになるというほど息が合わない。協力する必要がある状態でも、息が合わないのでみんなを困らせてばっかりだ。
ここまで来ると自慢になる気がする。ドヤッ
「はぁ、さすがに向こうは私を探していないと思ったのに…」
「ある意味尊敬いたします。何回目ですか、こういうこと」
「言わないで!!反省はしてるのよ!」
私の従者からの正論すぎる言葉に、HPがどんどん削られていく。
彼女はレノア=ヴィノー 私の従者でもあり、護衛メイドでもある。
「本当に反省しておりますか?」
「してる!反省はしてる!!私のせいじゃないけど!!!」
「………お嬢様、そういう所ですよ。」
レノアから呆れた目を向けられるが、これだけは言える。絶対に私のせいじゃない!!
カリクスと私のどっちが悪いかと言うと、完全にカリクスだ。私はいつも相手のことを考えて、行動している。カリクスは考えていない。あやつは考えずに行動するタイプ…だと思う。
なんか無性にイラついてきた。今ならどんな高難易度魔法も成功しそう。
「それで、どうなさいますか?」
「うーん、うーーん………」
もう学園で会うときでいいのではないだろうか。休みの日に必死になってカリクスを探さなくていい気がする。まず、貴重な休日をカリクスの野郎に消費するほうがもったいないのでは…?
「よし、諦めよう!」
「え」
「え?」
その言葉に、レノアが口をぽかんと開けて固まる。何かおかしなことを口走ったかと私が心配していると、レノアが小刻みに肩を震わせる。
「それで、本当によろしいのですか」
「なんか問題ある?」
「お嬢様のことですから、学園で会うときでいいと思っているのでしょうが、あと一月先じゃありませんか!!」
「だって、会うの面倒くさいし、学園への報告だって一応、カリクス一人でもいいし…本当は二人いなきゃだけど…」
段々と自分でも声が小さくなるのがわかった。そりゃあ、さすがにカリクス一人に任せるのは私だって気が引けるが、面倒くさいのもまた事実。
小さくなる私を見て、レノアが呆れたようにこう言ってくる。
「お互い、用があるときは事前に手紙でやり取りをしてからにしてください。お二人は驚くほど、息が合わないのですから。」
「はぁーい、まぁ、ルーラ公爵に挨拶してから帰ろっかな。」
「そうですね。急な訪問でしたし、その無礼を謝罪しに行きましょう。」
そう、普段なら速達を届けるが、何せ気が動転してしまいそこまで気が回らなかった。
だからルーラ公爵に挨拶をしないと、急に訪問して、急に帰るただの迷惑客になりさがってしまうのだ。カリクスにならどう思われてもいいが、ルーラ公爵はまずい。とにかくまずい。
「今の時間帯なら、執務室にいらっしゃるはずよ。」
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「ルーラ公爵、失礼致します。リーシャ=フェリシトでございます。」
「入れ」
ルーラ公爵はお父様の古くからの友人だ。父の友人だからか、多少なりとも雰囲気が似ている気がする。
「久しぶりだな、リーシャ嬢。」
「ルーラ公爵、お久しぶりでございます。この度の急な訪問の無礼をお許しください。」
「訪問の件は気にしとらんよ。今日は、カリクスに聞きたいことがあったのだろう?」
さすがルーラ公爵、いや元凶とも言うべきか…。ルーラ公爵の悪ふざけは社交界でも有名だ。あのカリクスが、一番被害にあっていると知ったときは、少し哀れんでしまった。だから、今回の件にも99、いや100%、ルーラ公爵の悪ふざけの影響だと思っている。
そんな私の気持ちを読み取ったのか、ルーラ公爵がニコニコしながら、こう言ってくる。
「リーシャ嬢にとっても災難なことになったかな?」
「えぇ、おかげさまで。」
額に青筋が浮かび上がってくるのを感じながら笑顔でそう返す。私の怒りを感じとったのか、ルーラ公爵が目を見開き笑いだした。
「そう怒らずに、俺のせいではないのだからな」
「え?………今、なんておっしゃいましたか?」
「だから、俺のせいではないからな。」
「はぁ?」
おっとやばい。驚きすぎて、思わず素が出てしまった。にしても…じゃあ一体誰のせいでこんな目に!?