勇気(ざまあ)炸裂! 異世界ナローマン2
今日も今日とて、澄み渡る様な蒼天の下。
銀色の炎で形作られた剣を構えた筋骨隆々とした――独特の形状の仮面をかぶった男(の、筈だ)から放たれる圧倒的な存在感は、未だ慣れない。
下劣な肉欲に溺れた愚か者共()に、裁き()を与えるべく、野太い声により必殺の声が響き渡る。
『ナーロッパ滅殺剣、最速戦技!』
「すいません許してください命だけは――」
『ナローマン!フレイムゥゥゥ……!』
「ってねえちょっとくらい話聞いてくれてもやだ待って待って!
おがあぢゃん、助げ」
『スピードォ!スラァッシュ!』
銀の巨体の姿がぶれて消えたかと思うと、勇者パーテイ(本物)を引っ掻き回した、斥候役と、その虜になった哀れな女どもが瞬時に細切れの肉に代わり、一片たりとて残すことなく、銀の炎に焼かれて消滅。
後には、銀の焔で形成された刃を構えた、銀の巨漢の姿だけが残る。
きらり、と頭部の仮面の角が輝いて見えたのは……何なんだろうか。
毎回毎回、狙ってやってるのかあれ。
対象の異性の好感度に干渉し、更には性行為で、魅了状態を固定し虜に変えるという邪神から与えられた呪いを備えた道具も圧倒的な戦闘力差の前では、然したる意味をなさなかったようだ。
呆然としている、残された被害者の勇者(この世界に生まれた本物……らしい)を介抱しつつ――俺は酷く醒めた心境で、ぼそり、と呟いた。
「今回も、早かったな……」
顔合わせから……大体、十分くらい?
魅了によって、取り巻きと化していた女達が無力化されるには三分もかからなかっただろうか。
それなりの実力者が揃っていた筈だが、まったくナローマンの相手になっていなかったのは……まあ、これもいつもの事だ。
最初は傲岸不遜な態度をとっていたあの斥候役も、女達が一蹴され、相手が誰であるかに気付くと、態度が一転。
地面を頭に擦り付けんばかりの勢いでの命乞いを見せたが、結果は御覧の通り。
……ああ、久しぶりだしここで自己紹介をしておこう。
俺の名はカイン。元々、辺境の村に住んでいた農民だったのだが、何の因果かあの銀の巨漢……ナローマン・勇気のお供をやらされることになった、いろいろとツキのない男だ。
まあ、ナローマンに言わせると、『熱い魂の絆で繋がった真の仲間』、らしいんだが。
さっきもそうだったけどさ、俺要らないじゃんどう見ても。
いや……マジで勘弁してくれ。
いい加減おうち帰りたいんだけど。
◇
助けた勇者(本物)の男は、生まれ故郷に帰る事にしたそうだ。
何というか、色々疲れた、と。
魔王討伐の使命については、何というか色々と諦めたように、苦笑いしつつ、
『もう全部、ナローマン一人でいいんじゃないかなって(意訳)』
――だ、そうである。
まあそこについては異論はない。
実際、アホみたいに強いのは間違いないからだ。
と言うか、こうなってからしょっちゅう考える事がある。
なあ女神様。俺、何か悪い事したっけ?
――と。
辿り着いた次の街の裏道を並んで歩いている……その、問題の旅の道連れというかなんというか……が、親し気に声をかけて来る。
『カイン、今日も最高のコンビネーションだったな!』
「……そっすね、ナローマンさん」
『はっはっは――いい加減、他人行儀なのは止めてくれ。
それと私の名前はナローマン・勇気だ!』
「……はあ」
小さくため息をつくが、それで現実が何か変わる、と言う訳でもない。
連れ合い――銀の巨漢と一緒に旅をする羽目になり、一か月。
魔王の軍勢の幹部やら何やらを片付ける、そのついで――いや、ひょっとしなくてもナローマンからすれば、こっちの方が本命なのかもしれないが。
他人の女を寝取るような……間男を、物理的に抹殺する行脚は続いている。
その中には、先のようなこの世界由来ではない異能を持った者もいた訳で。
催眠、魅了、洗脳、調教、憑依、寄生――いや、まだあったっけ?
どれもこれも、道中出会った、例の勇者擬きの同郷――異世界出身の転生者サマ方が持っていた能力。
時には、今回の勇者(本物)のパーテイに紛れ込んでいた男がそうだったように、道具の形をとることもあるようだ。
彼らの話から推測すると、当人の願望やら何やらを反映したしたものを邪神から与えられたとかなんとか。
なんというか他人を操るものばかりだったし……碌な使い方がされていなかった。
ナローマンの討伐()の対象になる時点で、まあ大体想像はつくだろう、
どうなってんだ異世界。
大丈夫なのか異世界。
いや、俺達の世界だって、問題がないとは言わないが。
……まあ、その全員がナローマンに殺られたんだけどな。
ご自慢の能力は全くと言っていい程通じず、それを使って操った女は、つい先刻のように瞬殺され、盾にさえならない。
時間的には、俺の時の勇者擬きが、一番保ったほうなのではないだろうか。
どうも異世界でもナローマン(の、同族?)が活躍()しているらしく……
誰もかれも、ナローマンの姿を一目見ただけで顔面蒼白になり、逃げ腰になっていたのもまあ、納得がいく話だ。
と、俺が色々と考え込んでいた間に、流れの商人から聞き込み()をしていたらしいナローマンが戻って来た。
『カイン!次の目的地付近でもやつらが暴れている疑いがある。
力を貸してくれ!』
「あーはいはい、どうせ拒否権ないんでしょ?
付き合いますよ、付き合えばいいんでしょ」
投げやり気味に返しつつも、思い出す。
……次の目的地、ってたしかお貴族様が通う学園とかなかったけ?
転生者絡みだと、命乞いの合間に、アクヤクレイジョウがどうとか口走っていたやつがいたのが気になるが……
流石に関係ないよな……きっと。
何となく嫌な予感はしつつも、それに目を背け、俺達は次の目的地――王都に向かう事になったのだった。
其処で何が待っているのかは……きっとろくでもない事なんだろうが。
いい加減、慣れた。
これ以上驚くようなこともないだろう。
……多分。
(――とある日の、カインの日記より抜粋)