ナローマンの活躍()……と、その裏で奔走する者達
どうもお久ぶりです。
見ていらっしゃるかたもそんなにはいなさそうですが、他の話が思うように進まなかったので、何か出来てしまいました。
丁度幼馴染が他の男とラブホに一緒に入るところを見かけた……直後だったかな。
空から銀の英雄が降りてきて、思いっきり相手の男をぶん殴ったんだ。
凄えよな。人間の首が、一気に360°以上回るとこなんて初めて見たぜ。
それで……ぐら、ってぶっ倒れたそいつの頭を、ぐしゃって踏みつぶしてから、その場にへたり込んだ幼馴染の頭を掴んで、こう叫んだんだ。
『塵に還れ――ナローマンシェイカー!』
――って、な。
結構いい声してたよ。
え?そりゃもちろん死んだよ、あの幼馴染も。
っていうか、何て説明したらいいのかね。
ぶる、って一瞬だけ体が震えたかと思ったら、パッと光って――砂になって、崩れた感じ……これで伝わるかね?
なんつーか、こういうときは語彙?が少ないのを実感しちまうね。
あー、それと幼馴染が最後の辺りでこっちに気付いたみたいで何か言いかけてたけどよく聞こえなかったな……まあ、どうでもいいんだけど。
どうせしょうもない命乞いとかだろうし。
いやー、でも本当にいたんだな、銀の英雄って!
正直ネットの作り話だと思ってたよ。スカっとした!
ん、ああ。勿論感謝してるよ。あの……人、っていいかわからんけど、銀の英雄には。
そりゃそうだろうさ。程度の低い虚構でもあるまいし……泣き寝入りなんてしたくねえんだよ、誰だって。
ノウハカイーとか、オストシテマケターとか……馬鹿じゃねえの?
そりゃ世間体とかもあるし、表向きは綺麗事も言うさ。
けどな、復讐を諦めるってのは単に、実行しちまうと割に合わない法律があるってだけの話だよ。
罪に問われないなら、誰だってやらかしたクソ共のド頭を金属バットでカチ割るくらいはしたいだろうさ。
ともかく――銀の英雄にはこれからもガンガン活躍して欲しいね。
十年以上の積み重ねを裏切って他の男に股を開くようなクソ女も、恋人がいる女に手を出すような野郎も、それをみてへらへら笑ってるような連中も、全部くだばればいいんだよ。
◇
えーと、例の合宿で起きた事故の件ですか?
あれ、漏れたガスの引火による爆発が原因って聞いてますけど、それが何か――
へ、本当の原因は全部知ってるからって……ああ、はい。
……何処から聞いて来たんですそれ?
っていうかそこまで分かってるなら、別に俺に態々聞かなくても……
ああ、被害者の視点からの話が聞きたい、ですか。
いやあ……俺、被害者だったんですねえ……いや、話が一から十までぶっとびすぎてて、いろいろ感覚が麻痺してましたわ。
っていうか、アレについてはやっぱり国の方でも動いてたりするんですかね?
あーすいません。それで例の件でしたっけ。
って言っても、別に俺自身は何もしてないんですけどね。
まあ、あの合宿、ご存知の通り……陰じゃオ〇ホ合宿とか言われてたらしくて……女子マネとか、同行してた女子部とかが、色々やられてたらしいんですけど。
何されてたか、ってまあネーミングからしてお察しですわ。
で、俺に関して言えば……その中に、一個下の後輩幼馴染とか、同い年の義姉とかがいたってだけの話ですよ。
しっかし、もし生きてたら、経験談をわざわざ本人の口から俺に聞かせる予定だったとか?
いや本当に何考えてたんですかねあいつら……
何て言うか、いろんな意味で正直ドン引きものでしたけど。
でも、それで死んでりゃ世話ないですよね、ははは。
あー、さっきの二人との関係ですか?
まあ……そこそこ仲の良かった方だったんじゃないですかね。
今更どうでもいいですけど。
送り付けられてきた、本当の原因に、全員纏めて撲殺される動画を見ても、なーんも感じませんでしたから。
画面越しに俺の名前を呼んで助けを求められてもね。
……ははははははは。
え?本当の原因についてどう思うか……ですか。
いいんじゃないですか?ああいうのが居ても。
まともに生きてる分には問題なさそうだし。
頭も下半身も緩い連中がどうなろうと自業自得――知った事じゃねえっすわ。
◇
そうですね……自分は確かに転生者です。
って言っても、何か特殊な能力を持っているとかそういう訳じゃないんですけどね。
その……先ほども言いましたけど、俺は、別にこの世界が虚構だとか、自分がゲームの中の世界に入り込んだ、とか考えてるわけじゃないです。
ただまあ、前世手に取った事のある、成人向けゲームの登場人物のそれと……俺の周りの人間関係が、偶然では片づけるには行きすぎている程似通っていた、っていうのも事実なんです。
そこにどういった因果関係があるのかは、ちょっと俺の頭じゃわかんないっすね、自分の事なのに、いいかげんですいません。
「ゲームの内容は所謂……NTR系のヤツか」って?よく分かりましたね。
え?他にもいる……いや、いた?
過去形って、あーそっかあ……やっぱり……
それで……何で『彼女』から逃げたのか、ですか。
まあ……どうやら自分が間男ポジらしいって事に、良心が咎めた、って言うの勿論ありますけど。
一番の理由は……命が惜しかったからです。
原因については、貴方方の方が、いくらか詳しいのでは?
ええ。銀の怪人、ですよ。
俺と同じ、間男ポジっぽいのが、それに熱光線で爆殺させられてたところを見ちゃって……心が折れました。
そんな出来事、例のゲームの中には一切出て来なかったって言うのもありますけどね。
あれには、絶対に関わっちゃ駄目だって、頭でなく本能で理解させられました。
だから、彼等と関わりを持ちようのない場所まで、多少の無理を押してでも、あの町から引っ越して逃げたんですよ。
正直言うと……こっちから危害を加えるような真似さえしなければ、そこまでしなくてもいいじゃないかって、銀の怪人に会うまでは考えてましたけど……アレは無理です、そういう理屈が通じるような相手じゃない。
まあ兎にも角にも、第二の人生を歩む機会を得たんだから、あんな死に方だけはしたくない、それだけです。
だから、だからですね。
ご質問くらいならいくらでも答えますけど……えっと、あの街に連れ戻すような事だけは勘弁してくれませんかね?
あ、別にそういった意図はない……よかったあ。
◇
――と、まあ。
今日も、いろいろと情報を集めてはみたものの、目新しい情報も無し。
やはり大したことはわからなかった。
「結局……ナローマンって、何が目的でこんなことしてるんですかね?」
「さあねえ。宇宙人の考える事はわからんよ」
幾度も繰り返された付き添いの部下の問いに、ため息を吐きながら、男は答える。
まあその疑問ももっともだ、とは思う。
彼の存在の行動は、滅茶苦茶だ。
能力者やら転生者やら怪異やら他の宇宙人やら、地球の人間にとって、危険な敵を駆逐するために動いていたりする一方で、ある条件を満たせば、大した力持たない一般人を虐殺する事にも躊躇いがない。
まさか……本当に地球上からNTRやBSSを撲滅する為だけに行動しているのだろうか。
「何にせよ、やらなきゃならん事は結局変わらんよ」
精々が、今後も同じ対応を――表向きは、ナローマンなる存在を、隠蔽する為の情報操作を続けねばならないだろう、というだけだ。
「今の時代、SNSとかを通じて情報がネットに流れるのは、避けようがないからな……
こちらからも、フェイク情報を織り交ぜたもの流しつつ、誤魔化していくしかない」
もしナローマンなる存在が、大々的に公認されてしまった場合、それによる復讐へのお墨付きが世の中にどのような影響を与えるだろうか、と想像してみる。
――まあ、間違いなく碌な事にはならないだろう。
ただでさえ、色恋沙汰のトラブルというのは、理性のタガを外しやすいのだ。
股の緩い女や、ヤリモクとやらに、あちこちで私刑が横行する……程度で済めばいいが。
「……いつまで続くんですかね、これ」
「さあな、奴さん等が飽きるまでじゃないか」
疲労が滲みでた部下の声に、そんなの俺が知りてえよ、と叫び出したくなるのを堪えつつ、男は返す。
――いやほんと、どうなってんのよこの地球。
雲一つない、吸い込まれそうな青。
見上げた蒼天に、今日も何処かでナローマンが飛び回り、暴れている光景を想像してしまい……
(あー、溜まった有給消化してどっか行きてえな……)
男は現実逃避しつつ、またため息をついた。