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ナローマン VS 催眠洗脳()野郎

 それは皮肉にも、雲一つない青空の下――ある、公立高校の校舎、屋上での出来事だった。


「ぶぎぃっ!」


「へぶぁ!」


「ごぶぁっ!」


 豚のような悲鳴をあげ、銀の拳で顔面を砕かれ、倒れたのは、何れも学年でも指折りの美少女――だった娘たちだ。

 僅かに体が痙攣しているあたり、一応まだ生きてはいるようだが……少なくとも、今立ち上がるのは不可能だろう。


 各々が異なる方向性の魅力を備え、同級生の男子を惹きつけて止まなかった美貌は、齎された痛烈な一撃により完全に崩壊しており、仮に外科手術を用いたところで、元に戻るのは絶望的といっていい。


 その光景を見て、がちがちと歯の根を鳴らして、恐怖で身を震わせるのは、ある意味においては全ての元凶となった、でっぷりと良く肥えた、悪臭を放つ豚の様な中年の男だ。

 ある日、ひょんな事から手に入れた『催眠アプリ』で、乗り込んだ学校で欲望の限りを尽くし、ほんの数時間前まで、自分はこの世の王になれる、とまで息巻いていた……のだが、今は死の恐怖にただ怯えている。

 

「ちょ、何で、ありえねえだろお前!

 な、何で……何で操られただけの奴を、こ、こんな……

 おかしいおかしい!こんな馬鹿なことがあってたまるか、こんな、こんなはずじゃなかったのに!?」


 顔をひきつらせた豚の様な男は現実逃避するかの如く喚きちらすが、それで今起きている事態が何か変わる訳でもない。


「くそっ、催眠だよ催眠!何で効かねえんだよおおおおっ!」


 ゆっくりと男へ向けて歩みを進めて来る銀の怪人(ナローマン)に向け、藁にも縋る心境でスマホをかざしては催眠音波を浴びせては見るものの――

 頼りにしていた『催眠アプリ』はやはり(・・・)全くといっていい程、効果を発揮してくれない。

 それどころか、銀の怪人(ナローマン)が発している肌を刺すようなぴりぴりとした、凄まじい怒気が膨れ上がっていくばかりで完全に逆効果である。

 

 肉の壁はもはや尽きた。

 学校中のあちこちに散乱する死体は、男がけしかけた生徒や教師の末路だ。

 まあ戦闘能力に差がありすぎて、いくら数を集めたところで僅かな時間稼ぎが関の山だったのだが。


 何せ、銀の怪人(ナローマン)は、相手が操られたただの人間だろうが、全く躊躇しないのだ。


 催眠アプリを使い、乗り込んだ学校でこの世の春を謳歌している所に現れた、世間でも噂になっている謎の怪人。

 調子に乗りに乗っていた男は、催眠アプリで従わせようとスマホを掲げたが効果がない。

 ただその時はまだ、焦っていなかった。

 この学校にも、催眠が効かなかった――と、いうか、効果が薄かった男がいたからだ。

 なんだかんだで、ヒーローを自認する存在。

 正義ぶった、幼馴染だかなんだか――を催眠で寝度ってやった時と同じように、対処すればいいと高をくくっていた。


 だから……人質兼、手駒としてけしかけた十数人程の生徒たちが、一瞬で物言わぬ肉塊と化した時には、何が起きたのか飲み込めなかった。

 はぁ、ええ、と呆然としていたところに、産まれて初めて向けられる、圧倒的強者(ナローマン)からの本気の殺意。


 ――あれ、これ、ひょっとしなくても、次は……俺の、番?


 このままでは確実に殺される、と状況に理解が追いついた時、生存本能に突き動かされ……気が付けば、聞き苦しい悲鳴を上げながら、校内を逃げ惑っていた。


 その途中で、催眠をかけて足止めに使った人間が、血や臓物をぶちまけて葬りさられていく様を見る度、恐怖で失禁し、脱糞しながら、頭の中はぐちゃぐちゃ。

 あまり運動は得意ではなかったのだが、火事場の馬鹿力というもので、なけなしの体力を振り絞り男は動き続けていた。


 ――やばいやばい、これ追いつかれたら絶対死ぬ!


 NTRやBSSに対して異常なまでの敵意を見せる宇宙人おとこだ、とは知ってはいたが……

 まさか、ここまで見境が無いとは、と涙や涎をだらだらと零しつつ、心底悔いた。

 今更ながらこんな馬鹿な事をするんじゃなかったとも思うが、もう遅い(・・・・)

 

 更に言うなら、あまりにも多数の死者を出してしまった。

 万が一、この場を切り抜ける事ができたところでもう未来さきはない。

 それでも、死にたくない一心で、逃げ続けてきたのだが、最早男の体力も限界だった。

 そうして――いよいよ現在、追い詰められて辿り着いたのがこの屋上。


 男が手放すには惜しいと最後まで引き連れていた、特にお気に入りの――この学校にいた恋人やら幼馴染やらから奪った少女達も先の通り轟沈した。

 もう、本当に後がない。

 その間に這いつくばって、ただ助かる為だけに、固く口止めされていた事の経緯をぶちまけながら、必死で命乞いする。


「ひ、ぃ……待って、待ってくれ、俺は嵌められたんだ!

 このアプリだって、お、おかしな化け物からもらったんだよ!

 お前の恵まれない人生を逆転させてやるって、だ、だから――ぐ、げぇ」


『弾けろ――ナローマンバブルボム!』


 身を起こしかけた豚の様な男が全てを言い切る前に、そのでっぷりと脂肪をもてあました腹へ、凄まじいスピードで踏み込み、繰り出された銀の拳がめり込んでいた。

 ぼこり、と歪な風船のように拳が叩きこまれた体のあちこちが膨れ上がり、筆舌に尽くしがたい激痛が男の身体の全身を走った直後――ナローマンの宣言通り、内側から弾けた。

 僅かに遅れて、紅蓮の炎が爆音と共に、超高熱で男の体を内側から焼き尽くす。


 体の内側から焼ける苦痛と共に、最後に男が目にしたのは、前衛芸術の様なナローマンの頭部。


 後悔と絶望に塗れたまま、意識がそこで途絶えた男の末路が、得られた僅かな快楽に見合ったものだったのかどうかは――まあ本人のみぞ知る、というやつだろう。




 

 とりあえずの下手人を葬り去ったナローマンは、瞬間移動テレポーテーションで移動し、真の元凶の拠点アジトに赴きその駆除に勤しんでいた。

 相手は、ヒトデにも似た形状でありつつも、数多の触腕を備えた地球外知的生命体の群れ。


『焼き尽くせ――ナローマンフラッシュ!』


『3ze、q@r:w、ag84tow=vhto、7/――!』

 

 その場に存在する、幼生も含めた、全ての個体がナローマンの銀に輝く体表から放たれた光に飲み込まれ、かれていく。

 空間に木霊するのは、地球に存在するいかなる種類のものにも該当しない言語で紡がれた、断末魔の叫びだ。


『p/w、p/w、bs@mq@:f!

 bkbqaf、uimdoueyq@、0.ekf、6su、q@――3』


 ナローマンの明晰な頭脳は、成体の一匹が何を懇願していたのか、完璧に理解していたが――NTRとBSSに繋がるようなものを生かしておく道理が無かった。

 動くものがいくなくなるまで、その悉くが絶命していく様を見届けながら――必殺の閃光の出力を上げていく。

 数分ほどそれを続けた後には、辺りの生体反応はほぼ消失。


 母星が滅び、地球を移住するための一歩として、原住民を都合のいい存在に改変する為のおかしな道具アイテムをばらまいていたようだが……

 そんな多数のNTRとBSSが発生するような、邪悪な企みを見過ごすわけにはいかなかった。


 とはいえ、害虫程しぶといものだ。

 ナローマンはテレパシーで生き残った個体がいないかをしばしの間、調査チェックして――

 炭化した残骸の山の中に、辛うじて息のあった幼生体を発見した。

 どうも複数の成体が体を張って庇ったおかげで生き延びたらしい。


 それでも、体の殆どが炭化しているのは変わらず、放っておいても絶命は免れない程弱った状態だったが……ナローマンは、決して最後まで手を緩めない。

 必殺の気合を込め、最後の害虫を駆除すべく、野太い声で力強く叫ぶ。


『潰れろ、ナローマンスタンプ!』


 強靭な脚力による、ただの踏み付け。

 それだけで、大地を揺るがさんばかりの轟音とともに、辛うじて生き延びた幼生体 は今度こそ、原形をとどめないほど潰れる。

 二度、三度と執拗に繰り返し足が振り下ろされて、文字通り粉みじんだ。

 生体反応も、テレパシーによる思念波も検知出来ない。


 ――げんきょうは、滅びた。

 

 だが、まだ終わっていない。

 この連中がばらまいた道具を使って、NTRとBSSを生み出す外道共の後始末が残っている。


 気配を探り、一番近くにいる『設定改変ノート』とやらを使って好き放題している男を発見。

 直接趣き、始末することにした。

 空間を超え、跳ぶために意識を集中するナローマン。


 とりあえずは……貰い物の玩具で、全能感に浸っている阿呆が人生の絶頂から物理的に叩き落とされるまで、あと十秒。


 さあ――打ち砕け、ナローマン。

 例え一時その手を汚す事になろうとも、お前の歩みは止まらない。


「何だお前、いったいどこから……

 え、おい、ちょっとまさかこいつ――あっ」


 決して開けない夜は無く、止まない雨もない。

 他人の尊厳と人生を弄ぶ、卑劣な輩に今こそ鉄槌だ。


「ひ、雛子ひなこの頭、頭がトマトみたいにぐしゃ、ぐしゃって……

 ひ、いや、待ってくれ、このノートならすぐ捨てるから!」

 

 NTRとBSS(じゃあく)を、地球せかい全てから物理で排除するその日まで。果てし無い戦いは続く。


「いやホントに捨てるし反省するから許し――

 うぎゃあああああああああああああああ!」


 受け継いだ無念を力に変え――いざ勇気ぶつりと共に!踏み出せ、ナローマン!

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