打ち破れ、結婚披露宴の悲劇! ナローマン・歌手(シンガー)登場
――CRASH♪SLASH♪拳で砕き潰せば♪――
現在進行形で結婚式場に大ボリュームで流されているのは、アップテンポの野太い声で歌い上げられるヒーロー?ソングっぽい何か。
同時に式場に据え付けられた、大画面のモニターに映し出されているのは、高校時代の恩師だった男が、馬乗りになった銀の怪人に延々とタコ殴りにされている光景だ。
血みどろの顔面は既に原形をとどめておらず、俺が在学していた当時はまた二十歳代前半だったこともあり、女子生徒から人気を集めていたイケメンフェイスは完全に崩壊しており、意識も混濁して命乞いの言葉も上手く紡げないのか、うう、ああ、と呻いている。
辛うじてとは言え……良く生きてるなアレ。
話に聞くところによると、銀の怪人は人のそれを軽く凌駕する腕力を持つはずだが……加減されているのだろう。
――輝き嘶け♪勇気掲げ♪千切れ♪潰せ♪――
(目が完全に死んでるな。心が折れてる。
この動画が録画なら……まず生きちゃあいないだろうが)
……それに、銀の怪人がこんなことをやっている理由に、心当たりは、まあ無いでもない。
俺の隣で顔面を蒼白にして、がたがた体を震わせながらモニターを凝視しているのは、俺の幼馴染にして婚約者……だった、裏切者の女。
調べなら、もうとっくについている。
どうやら、高校時代から……ずっとあの教師と体の関係を持っていた挙句、托卵まで企んでいらたしい。
……いや洒落じゃねえぞ。ないってば。
まあ、俺は俺で報復の計画とか練ってたわけだが――丁度、銀の怪人のそれと被ってしまったらしい。
その結果がこのザマである。
――NTRを絶ち穿つ剣♪――
ごめんなさい。
こんなつもりじゃ。
許して。
ぶつぶつと……幼馴染が掠れた声で呟く言葉は、誰に向けられたものなのか。
まあ、ショックではあるだろうな、とどこか醒めた気持ちでそれを見つめる。
あの教師が、銀の怪人の標的になっているという事は……だ。
そいつと関係を持っていた幼馴染も、次の標的になるだろう事は想像に難くない――文字通りの死刑宣告なのだから。
――BSS消し飛ばす、光♪――
……と言うか、このグロ動画もそうだが。
さっきから何なんだこの歌は。
式場に存在する、様々な機器からエンドレスかつ、最大音量で流し続けられているんだが……頭ブ〇イバーンかよ。
どちらも、何らかのテクノロジーでハッキングされているらしく、先ほどから式場のスタッフがいろいろやっているが、映像共々止めようにも止められない。
てか……電源引っこ抜いても止まらないって、どうなってんだ?
――CRASH♪SLASH♪CRASH♪SLASH♪――
はあ、とため息をついてから、意識を無理やり切り替える事にした。
このまま放っておけば、幼馴染は死ぬだろう。
それは別に構わないのだが、慰謝料とか払うもんは払ってもらわないと(式場の費用とか、事前に興信所を使って調べた費用とかで)困る。
「えーと、とりあえず……なんだけど」
映像の中の教師がとどめの『ナローマン超振動ボイス』(動画中まま)で爆散、塵と化するを指さして、幼馴染に告げる。
「ああなりたくなかったら――ますは慰謝料の額から話をしようか。
あたりまえだけど一切手心とか加える気はないから。
大人しく報復されたら、ワンチャンで命だけは助かるかもよ」
幼馴染は、俺の言葉にぎょっとしたように目を見開いて、いや、あの、と言い訳を重ねようとするが……最終的には死の恐怖が勝ったのだろう。
はい、と蚊の鳴くような声で……真っ青になった表情のまま、俺の降伏勧告を受け入れた。
――ぶ・ち・や・ぶ・れ♪ナローマーン♪――
丁度、エンドレスで流れ続けていた歌の締めとタイミングが被った。
動画と歌が止まると、式場内が参列していた客のそれでざわつき始める。
銀の怪人が現れる気配もないので、後はこちらの好きにやらせてくれるという事だろうか。
これからの事を考えると、色々と頭が痛いところもあるのだが……まあ、とりあえず。
(やっぱ人生真面目に生きた方がいいな……)
惨めに死にさらしたあの教師を思い起こし。
五体満足で今生きていられることに、柄にもなくお天道様に感謝してしまった。
……いや怖かったんだよ実際。
絵面とか、完全にホラーだったじゃんさっきの。




