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14、謝罪

昨日投稿ができなかった為、本日は二話投稿します。


一話目

 そこは誰かの部屋のようだった。

 多分この部屋は私の部屋の数倍以上はあると思われる。右側の窓際には天蓋付きのベッドや、手紙を認める時に使用するであろう机が置かれていた。

 左側はお二人が立っていて完全に見えないのだが、奥からコポコポと何かを入れる音が聞こえるので、侍女さんが紅茶の用意でもしているのだろうか。

 

 そんな事を考えていた私の耳に、サンタマリア侯爵令嬢様の声が聞こえた。

 

 

「サラの部屋に入るのは久しぶりね」

「最近は学園でお会いする事が多いですからね。少々散らかっておりますが……」

「ふふふ、そんな事ないと思うわよ」

 


 微笑みながらお話しされるサンタマリア侯爵令嬢は、サラ様の後に続いてどんどん入っていく。

 私が入って良いのだろうか、と思い、少しだけ後ずさる。

 そんな心境をサラ様には読まれていたようだ。

 

 

「ルイサさんもどうぞ」

「し……失礼します」



 事前に紅茶を入れていた侍女に案内され、私も席につく。彼女は私を席に座らせると、一礼して扉から出て行った。

 そして改めて顔を上げれば、目の前にはサンタマリア侯爵令嬢が紅茶を飲みながらではあるが、満面の笑みで此方を見ているではないか。その笑みと視線に圧倒されてしまい、私の笑みはぎこちない。

 横目で見えるサラ様の表情は変わっていないが、少しだけ心配してくれているのか、気遣うようにこちらを見て下さっている気がする。私の気のせいかもしれないが。


 あとこちらも気のせいかもしれないが、サンタマリア侯爵令嬢様の様子もなんとなく違う気がする。私は認めたくないが、彼女から見たら私は小説で言う恋敵のようなものだ。そんな相手と対峙するにもかかわらず、身に纏う雰囲気がそれを感じさせない。

 それ(殺気)を隠しているだけなのだろうか……と考え込んでいた私に、変わらぬ鈴のような美しい声が届いた。



「……ふふ、そんなに強張らなくていいのよ? 今日は少々貴女にお聞きしたい事があって、サラに調整をお願いしたの。だからここからは、話すのに私の許可は取らなくていいわ。そして出来たら本音で話して頂けるかしら? 私もそのようにさせてもらうから」

「お気遣いありがとうございます……そのように致します」


 

 今回の件は十中八九公爵令息様の件だ。私はこの時を待っていた!

 サンタマリア侯爵令嬢様はまだお話しされる様子がないため、私が話を切り出した。



「早速お言葉に甘えてしまい、申し訳ございませんが、先に私から一言宜しいでしょうか?」

 

 

 サンタマリア侯爵令嬢は私の申し出に最初目を丸くしたが、「どうぞ」と言って下さった。その瞬間私は素早く椅子から降りると、床に手をつけ頭を下げた。

 


「サンタマリア侯爵令嬢様におきましては、トールボット公爵令息様の件で多大なるご迷惑をおかけ致しまして、誠に申し訳ございません! 如何なる処罰もお受けいたします!」



 そう言い切って頭を床につける。双方の顔は見えないが、誰かが息を呑む音も聞こえた。


 どれくらいの時間が経ったのだろうか。頭を床に付けているにもかかわらず、身体の震えが止まらない私にサンタマリア侯爵令嬢様より声が掛かる。


 

「ルイサさん、謝罪は受け取りますわ。椅子に座って下さいませ。それと、私の事はアシュリー、と呼んでくださいまし」


 

 その言葉が呑み込めず、私は顔を上げて呆然とサンタマリア侯爵令嬢様を見つめてしまう。

 

 

「ですが……私は……」

「貴女の気持ちはあの謝罪で理解できますわ。それに……今回の件は貴女だけに責を負わせるものではないと私は思っておりますの。貴女が私の婚約者についてどうお思いなのか、椅子に座って落ち着いて話して下さいませ」

「サンタマリア侯爵令嬢様……」

「ふふふ、アシュリーですわ」

「承知しました、アシュリー様……ありがとうございます」

 


 私は震える足に力を入れて立ち上がるが、立った瞬間に足がもつれて身体が崩れ落ちてしまう。衝撃が来ると思い目を瞑ったが、私が倒れる事はなかった。


 むしろ誰かに後ろから両腕で支えられている。思わず後ろを見ると、そこには真っ黒なローブを着た人がいた。顔が見えないので、男性か女性かすらも分からない。


 

「ふふ、ありがとう。助かったわ」



 その人はアシュリー様の言葉に頭を下げ、私が一人で立てる事を確認するとすぐにどこかへと姿を消す。これ以上迷惑を掛けないようにと、私はアシュリー様の言う通りに椅子へと座る。


 私が座ったところで目に入ってきたのは美しい金色の髪だった。

 後ろ髪の上部半分をひとつにまとめており、そこには銀色のバレッタが着けられている。バレッタの色は深い青色だった。

 婚約者の色をつけているのは、公爵令息様の瞳が青色だからだろうか……でも、彼の瞳の色は晴れた日の空のような色だったような気が……。


 そこまで考えて今更ながらハッと気づく。バレッタが見えると言うことは……アシュリー様が私に頭を下げていた。その事実にカップを持ったまま私は固まる。



「でしたら、こちらもまずは謝罪をさせて下さい。ルイサさん、騙し討ちのような形をとってしまい、申し訳ございません。そもそも私がこの場に来る事は、貴女のお兄様にも伝えていなかったの。」



 再度頭を下げるアシュリー様に私は混乱する。

 なんで私? 頭を下げている? え? と私すらよく分かっていない言葉の羅列が頭の中をぐるぐると駆け巡る。が、それでもなんとか頭を上げさせなければ、という事に思い至り、私は必死になって彼女に告げた。

 


「私は気にしていません!! それよりもアシュリー様、お顔を上げてくださいませ!」

 

 

 まあ、本当に気にしていなかったし、むしろ私こそが彼女に謝罪しなくてはならないのだ。私の言葉にすぐ顔を上げたアシュリー様に私も再度謝罪をと頭を下げようとしたところで、彼女が遮った。

 

 

「謝罪はもう充分よ。それよりも、貴女のお話を聞かせてもらっても良いかしら?」


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