【第24話 魔王城のおみやげ】
「それでは、魔王ボンキュボン城における『名物企画会議』を始めます」
魔王城大会議室。ボンキュボンの他、キンさん、ドラガン(人間擬態)、エリザベス・マイマイ、グースカ・ピーをはじめとする主要メンバーと野菜人、果実人たちがずらりと席につく中、テーブルの中央には企画書の束が山積みになっている。
「この会議は、我が城を訪れた人たちが記念品として購入したくなるような、いわゆる『お土産』を企画、検討して実際に作るものを決定することが目的である。それゆえ、数ある企画の中から
・他の場所にない、魔王城に記憶がつながるようなもの
・長く手元に残しておきたくなるようなもの
・食べ物系では、人間が食べてみたくなるようなもの
・帰った後、家族や友達に見せたりあげたり、話のネタにしたくなるようなもの
を選んでもらいたい。他にも
・持ち帰りが簡単な大きさ
・手頃な値段
なども考慮してほしい。企画書になくても、これらに目を通しているうちに思いついたものがあれば遠慮なく言ってほしい。ただしできるだけ具体的に、なんとなくや抽象的な提案はなるべく避けてくれ。でないと前に進まん」
ボンキュボンの言葉を受け、皆が企画書に手を伸ばす。これらは魔王城のあちこちに設置された「名物企画箱」に入れられたものだ。
「やはり定番は抑えておくべきでしょう」キンさんが企画書をめくりながら「定番には面白みがないですが安心感があります。定番8にネタ物2の割合といった感じですか」
「定番というと、ペナントとか」
ボンキュボンの言葉に何人かが首をかしげる。
「何です? ペナントって?」
「知らんか? 細長い三角を横にした形で、壁などに飾る。そこを訪れた記念になるお土産の定番だろう」
野菜人や果実人達が「お前、知っているか?」「知らない」と首をかしげ合う。
「ペナントを知らないだと。私があの人と所帯を持っていた頃は、定食屋の常連達がお土産によく買ってきてくれて、店の壁にはいくつも飾っていたんだが」
「それって、200年ぐらい前の話じゃないですか!」
そのツッコミにボンキュボンも衝撃を受けたのか、思わず片膝をついた。
「そうか……ペナントはもう時代遅れなのか……まさか、地元の地図の形をしたキーホルダーとか、通行手形とかも」
「見たことないな」
「僕、人間の町で見たことある。お土産屋の片隅で埃かぶっていた」
ささやくような反応に、ボンキュボンはたまらず両膝をついた。
「そうか……私のセンスはもう時代遅れなのか……。たった200~300年しか経っていないのに……。そういえば、この前トキョトに言ったときも打っているお土産はお菓子ばかりだった。で、でも木刀はあるよな。リクエストされて買ってきたぞ」
「木刀があるなら、ナディバイスの模造剣なんてどうかな。危なくないように、形だけ似せた物」
野菜人の意見にボンキュボンは顔を輝かせ
「それがあったか」胸の谷間から愛用の堕聖剣ナディバイスを取り出し構える「さすがに1兆度の熱線放射は無理だが、1万度ぐらいなら」
「危険ですから止めてください。お土産の模造剣にそんな機能はいりません」
1度弾みがついたおかげか、一同からアイデア(だけは)次々出てくる。
「魔王城マップのランチョンマット」
「魔王城で栽培した無農薬野菜」
「魔牛乳生搾りのソフトクリーム」
「それはお土産ではなく来城者のおやつだ」
「やっぱりお菓子は欲しいな。やはり日持ちも考えて焼き菓子か?」
「ドラゴンの鱗(の形をした)煎餅」
「胸当て湖の美味しい水」
「やはり『魔力』と書かれた置物は外せん」
「鳥系魔族の羽で作った羽ペン」
「だったら魔王様の尾羽根でも……大きすぎるか」
「記念品なら良いんじゃないか。年に数本単位でしか提供できないが」
「魔王様変身なりきりセット」
「それただの貝殻ビキニ」
「眠り猫ならぬ眠りピー様」
「エリザベス様型の文鎮」
「野菜人、果実人のキーホルダー」
いつの間にかキャラアイテムになっている。本気の提案からただ言ってみただけのものまで、実現可能かどうかは二の次だ。
それでもいくつかの案がリストアップされ、試しに作ってみようと言うことになった。
「それで作ったのがこの土産物店か」
半ばあきれ顔で店内を見回すのは勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者の勇者パーティ。霊によって魔王と対決するため来城したところを連れてこられたのだ。
「はい。やはり最終的には外から来る人達の意見が大事だと言うことになりまして。それがないとただ内輪の遊びになってしまいます」
キンさんの案内で店内を歩いて回る。
勇者はやはりというか、ナディバイスの模造剣に手にして振ってみる。結局、特殊機能はなしと言うことで、ただ形が変わっているだけの木刀だ。その横には警備隊使用のさすまたもある。
「言いたいことはわかるけれど、そもそもお土産屋が成り立つほど、ここ、人が来るの? あたし達の他には怪しげな薬の材料を仕入れる裏稼業の人とか、動植物の研究をする学者とかばかりで一般人なんてほとんど見ないんだけど」
賢者の言葉に他の4人がうんうんと頷く。
「痛いところを突いてきますねぇ。なので最初のうちは『せっかくだから』感覚で買えるものを中心にしています。まぁ数年かけて口コミに期待しようと」
各種キーホルダーやコースターなどが並ぶ棚を通る。壁には胸に大きく「出オチ」「やられ役」などと書かれたTシャツが飾られている。
「女性用としてこういうのもあります」
キンさんが指さしたのは「魔王ボンキュボン変身なりきりセット」
「ただの貝殻ビキニじゃない!」
「企画会議でも同じツッコミがありました」
笑うキンさんに
「こんなネタものじゃ無くて、もう少し実用的なのは無いの」
「お土産に実用性は二の次という意見が多くて。でも、ちゃんと特殊効果のあるアイテムもいくつか」
キンさんが紹介したのは「各種お守り」のコーナー。
「消臭のお守りは、おならの匂いを70%減らしてくれます。こちらの安産のお守りは陣痛の痛みを40%抑えます」
「ふざけてるわね……ちょっと、これ本当に効果あるの?」
魔法使いで指さしたのは「生理守り(生理痛30%ダウン)」だ。
「ええ。魔王様の補償付きです。ただし生理痛は個人差が大きい上、個人の体質を考慮したオーダーメイドでないため、効果はそれが限度で、3年ほどしか続きません。裏に効果期限が書いてありますので参考にしてください」
お守りをひっくり返すと、確かに効果期限として3年後の日付が書かれてある。
「……1つもらうわ」
「アタイも買っておく」
『買うんかい!?』
ツッコむ勇者と戦士を魔法使いと戦士2が睨み付け
「男どもにあの苦しみがわかるもんですか!」「あげられるものならタダであげるわ」
2人の眼力に勇者と戦士はたじろいた。
「食べ物関係は日持ちが大事ということで」
魔牛の朝絞り生乳ソフトクリームを舐めながら勇者達はずらりと並ぶお菓子を見渡す。なるほど、クッキーなどの焼き菓子、魔王山から採れた果実で作ったドライフルーツなどがほとんどだが、中には人間達の領域では見かけない種類もある。
「人間が食べて大丈夫なのか?」
自分が舐めているソフトクリームを見る戦士。魔牛ソフトは人間達の飼っている牛に比べて濃厚だが、濃厚すぎて重いとも感じる。
「はい、私が味見しました」
売り子をしているメイ・ドーデスが答えた。彼女は魔王城で働く唯一の人間だ。だが、彼女はドラガンの血を受けて人間を超える肉体強化がされているので少し強力程度の毒ではびくともしない。味はともかく安全性ではどこまで信用して良いか。
「日持ちという点では問題がありますが、試作の生菓子もあります」
メイが指さした先には真っ白い餅菓子がある。商品名は
「『魔王さまのおっぱい』?」
「私もこの商品名はどうかと思ったが、インパクト重視というか、ネタ土産としてつかみが大事だと説得された」
いつの間にかボンキュボンがそばに立っていた。
「ものは中身が白あんの大福餅だ。餅に工夫して5日ほど柔らかさが維持するようにしてある。できれば10日ほど持たせたかったが」
「洋菓子系じゃないの?」
「そちらに弱いのがうちの欠点でな。クッキーやお前達が食べているソフトクリームが限界だ。ここで働いてもらえる洋菓子職人を探しているがなかなか見つからない。いい人がいれば紹介してくれ」
「商品名だけで手にしてもらおうなんて図々しいわよ」
「名前だけではない。この餅の売りのひとつは、名前が示すように」
ボンキュボンは組んだ腕で自分の乳房を持ち上げ軽く揺らし
「私のおっぱいと同じ柔らかさを再現している」
『はぁ?!』
「叔母上から作り方を学んだとき『目安はおっぱいの柔らかさ』と聞いていてな。私は団子などを作るとき、自分のおっぱいの柔らかさになるよう心がけている。それを話すと、商品の売りになると皆から言われ……そんな商品名に」
さすがのボンキュボンも少々恥ずかしいのか、顔を赤らめる。
「どういう基準よ。私たち人間では、それらの目安は耳たぶの柔らかさよ」
自分で耳たぶを揉んでみせる魔法使いに、賢者も同意する。
「おっぱいじゃ個人差がありすぎるものね」
言われてボンキュボンもなるほどと手を打ち
「確かにその通りだ。よし、これからは『魔王さまの耳たぶ』で」
「ダメだ!」
声を張り上げて現れたのは
「陛下?! なぜここに?」
いきなりのカクーノ国王、サン・タクロース17世の登場に勇者達がたじろいだ。
「ふふふ、予を舐めるな。予は話の都合でいつでもどこでも現れる!」
「それでいいのか作者!」
いいのだ(作者談)
「おっぱいであり続けるならば、城で定期購入しよう。国王としての約束だ」
「どれぐらいですか? 内容によってはお届けサービスも。ただし直接城に入り込んでは無用な混乱を起こします。受け取り方法を工夫しませんと」
キンさんがメモを片手にタクロース17世と打ち合わせを始める。
(こいつ本当に国王か?)
キンさん、ボンキュボンと共にどれぐらいの量を購入するか話し合っている王の姿に、勇者達はすっかり戦意をそがれてしまった。
以後、「魔王さまのおっぱい」には「カクーノ王室御用達」のポップがつけられ、勇者達は城に来る度にこれを購入してくるよう新たな任務が設けられた。
(終わり)
おみやげ。私は旅行などでおみやげ屋を回るのが大好きです。地元の人達が頭をこねくり回して考える様々なものはどれも楽しいです。最近ではストラップがやたら増えた。逆に作中でも触れましたがペナントを全く見なくなりました。通行手形はストラップ化して生き残っているところもありますが。
地元の名産品などがあれば良いですが、そうでないもの、他の土地との差別化が難しいものなどはなかなか難しい。東京ばな奈のように絶対東京以外じゃ売らないとか、各お菓子メーカーが出す地域限定品なんかもそうですね。北海道などはメロン以外ないのかと言いたくなるぐらいメロン味で溢れてます。もっとも、ジンギスカンバームクーヘンとか、カニ味サイダーとか出されてもなんか嫌ですが。
やはりネーミングで凝るものが多く、なんか「白い恋人」のような雰囲気を盛り上げるもの、「天狗のはなくそ」のようなネタに走ったものまで。おっぱいものなんか、お土産と言うよりネタ菓子ですが、「おっぱいチョコレート」「おっぱいプリン」なんか実際にありますしね。魔王さまのおっぱいにクレーム入れる人がいたら、上の2つのメーカーが変えたら考える(変えるとは言わない)と答えるつもりです。




