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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
23/25

【第23話 魔王城最悪の日】

 その日、魔王城正門をいつものように勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの勇者パーティが通り過ぎようとすると「いらっしゃいませ。魔王城にようこそ」と脇に控えていたメイドのメイちゃんがお辞儀する。

 その横では野菜人たちが「9995……9996……9997……9998……9999」と数えていた。

「よかった」数え終わった野菜人がほっとする「勇者さん達の誰かだったら嫌だなと思ってたんだ」

「何だよそりゃ」

「実はですね」

 説明するより早く、勇者達の後に続いて人間が1人正門をくぐる。

 途端、正門上に隠されていたくす玉が割れ、無数の紙吹雪と共に「おめでとう! 来城一万人目!!」と書かれた垂れ幕が降りてくる。

 魔王ボンキュボンが着飾り、満面の笑みを浮かべながら現れ

「おめでとう。あなたは我が城1万人目のお客様だ。お祝いとしてあなたを一日城主として……」

 言いかけたボンキュボンの顔が固まった。目の前で紙吹雪に包まれ立っている人間は

「予がここの城主となるのか」

 カクーノ国国王タクロース17世だ。

 ボンキュボンの絶望的な悲鳴が場内に木霊した。


 魔王城内。急遽謁見の間に改装した大広間にタクロース17世の笑い声が響く。

「やったぞ。ついにボンキュボンを我が足下にひれ伏させたぞ」

 一日城主と書かれたタスキを身につけた彼は目の前に並ぶ勇者パーティと、国から呼び寄せた執事のノレド・ノレフたちに高らかに宣言する。

 その脇ではボンキュボンやメイ達、人間に似た体型の女性魔族達が全員貝殻ビキニ姿で跪いている。エリザベスやティンキーのように上半身だけ人間という魔族も一緒だ。

「すまん。私が一万人目の来場者を祝福し盛り上げようなどと言い出さなければ……」

「節目の来場者を祝福して盛り上げようなんてよくあることです。魔王様は悪くありませんわ」

 エリザベスの言葉に皆がうなずく。

「今日の就業時間が終わるまでの我慢ですわ」

 頷く一同たちは頭を下げながら(あのバカ王……帰り道に襲撃してやる)と思いを一つにしていた。

 彼女たちの思いを背負うようにボンキュボンはタクロース17世の前に進み

「一言断っておくが」声を震わせながら彼に「城主であっても守らなければならぬルールがある。お前も国王である以上わかってはずだ」

「は、城主がルールだ。どこの誰とも知れぬ奴が紙に書いたものより、王の言葉の方が重いに決まっている。そもそも王の言うことを聞かぬ国などただただ混乱し滅びるだけ。国が国として機能するには全ての民は王に絶対服従でなければならん」

 堂々と言い切るタクロース17世にエリザベスたちはあきれ顔で、勇者達に

「ちょっと。あのバカ王は日頃からああなの?」

 無言で申し訳なさそうに肩をすくめる勇者達。

「それでは城主として命令を下す。今日は閉城、一切の来城を断れ。そしてボンキュボン。お前は今日一日、予のエッチの相手をしろ。ベッドの用意をしろ!」

 再びボンキュボンの悲鳴が上がった。

「嫌だ。それは嫌だ! 私の体はあの人のものだ! お前ではない」

 半泣きで激しく首を横に振る。

「城主の命令だ。忘れたか、予を城主と決めたのはお前だぞ」

 正確には10000人目の来城者だが、それを言われるとボンキュボンは弱い。

「止めてください!」メイがボンキュボンほかばうように立ち「そんなに愛人が欲しいのならば私を愛人にしてください!」

{メイ、馬鹿なことを言うな}

「もともと魔王さま達に助けてもらえなかったら死んだ身です!」

「お前が予の愛人か」

 タクロース17世はメイの体を舐めるように見、視線をメイの胸に止めると

「へっ」鼻で笑った「そういうのは胸が最低Cカップになってから言え」

「なによその言い草」怒りの表情を見せたのはメイではなく戦士2だった「胸の小さいやつは女じゃないっていうの!?」

 思わず勇者達が戦士2のAカップの胸を見た。

「そして、そこの金ピカ骸骨!」

 戦士2の言葉など聞こえないかのようにタクロース17世はキンさんを指さし

「昼までに、この城の全て、領土か財産、従業員の命に至るまで全てを私に無償譲渡する契約書を作れ。予の城主が一日ではなく永続するものとする書類、ボンキュボンの永遠愛人契約書も合わせてな。契約書が有効となるもの必要な桃のは全て揃えろ。城主の命令だ」

 これにはキンさんも驚いた。

「そんな、それだけのものを今日中に用意するというのは無理です」

「簡単だろう『この城のものはみんなタクロース17世に上げます』と一文を書けば良いのだ。そうそう、ここには極炎竜がいたな。そいつを死刑にして金になる亡骸はすべて予に寄贈するという書類も作れ。城主の命令だ」

「出来ません。せめて城内の者達に説明と説得の時間を」

「出来ないのならばお前はクビだ。ノレフ、お前がかわりに必要な書類を作れ。文句を言う魔物は追い出すか殺してしまえ。城主の命令だ」

「かしこまりました」

 ノレフが頭を下げ、キンさんが人間の兵達に連れて行かれた。


「やっぱり人間は怖い。殺される。殺される。殺される」

 ただでさえ青白い顔を更に青白くした人間体のドラガンが頭を抱えた。

「今回のイベントは中止にしてあのバカ王を追い出すべきだわ」

 エリザベスの言葉に集まった魔王城のメンバーはそろって頷くが

「しかし、こちらから開催したのに該当者が生意気だからナシとしては、信用問題に。魔王さまもそれを恐れて我慢しているんです」

「信用よりも魔王城の人達や魔王さまの方が大事です」

 メイがきっぱりと言った。普段からメイドとして意見を聞く側の彼女がここまできっぱり意見を言うのは珍しい。

「一日城主……食堂のメニューを全部カレーにするとか、みんなで宴会を開くぐらいだと思っていたんですが。魔王さまもお馬さんごっこの馬ぐらいならなるとおっしゃっていましたし」

 キンさんが大きく息をつく。どうも一日城主になるのは子供を想定していたらしい。

「譲渡の書類が出来たら、本当に魔王城を明け渡すんですか?」

「それだけじゃありません。ドラガン様は殺されてしまいますし、魔王さまはあの男の愛人にされてしまいます」

「いざとなったら戦争してでも契約の無効を訴えます。ピー、覚悟は良いですね」

 エリザベスが目を向けると、ピーは布団を敷いて寝ていた。

「起きなさい! このあいだ1人で5,000の兵を打ち倒したのを忘れたの」

 布団を引っぺがし、エリザベスは寝ぼけ眼のピーを揺さぶり起こす。

「物騒なことを話し合っているな」

 そこへやってきたのは勇者パーティ。

「元凶はあなたたちの王でしょう。イベントと割り切って軽く楽しむぐらいなら、私たちもちょっとしたわがままにも付き合ってあげたのに」

「俺達だって、こんなことで全面戦争になるのはごめんだ。ノレフさん達だって、腹の中では王の要求に呆れている。そこでだ」

 勇者が顔を突き出し

「ひとつ案があるんだが、乗らないか?」


「諦めて予の愛人になれ。生涯その体を弄び続けてやるぞ」

 魔王城。魔王の部屋。ベッドに座るボンキュボンに、タクロース17世がパンツ1枚でじりじりと迫る。

「ま、待て。魔王を抱いたりしたら精気を吸い取られてミイラになるぞ」

「へたな嘘を。お前がかつて人間と夫婦だったことはわかっている。お前の亭主はミイラになったか?」

 せめるタクロース17世に、ボンキュボンはベッドにへたり込んだままずり下がる。壁に飾られた連れ合いの写真が目に留まる。

(あなた……助けて……)

 涙目のボンキュボンを前にタクロース17世が舌なめずり。

 その時、魔王城が怒声に震えた。

「大変です。陛下」

 ノレフが慌てて駆け込んできた。

「何事だ、これから18禁読者サービスに入るというのに。なろう運営の妨害か?!」

「魔物達の反乱です! 城主タクロース17世を倒せと」

「何だと?!」

 驚いたタクロース17世が窓を開けると、魔王城前に野菜人、果実人、獣人やゴーレム、巨人にアンデッドなど何千という魔物達が集結

「城主を倒してキンさんを新たな王に!」

「新たな時代の幕開けだ!」

 叫びが共鳴し、魔王城を震わせる。

 そこへ勇者パーティが野菜人、果実人たちと戦いながら流れ込んでくる。

「ついにこの時が来た。長年待った甲斐があったというもの」

 魔物達に守られて、襟の高いマントを羽織ったキンさんがステッキ片手に入ってくる。

「ボンキュボンは手強いが、タクロース17世、貴様なら倒すのはたやすい。貴様を倒し、城主の座はこの私がもらう。ふはははははははは」

 黄金✕トのごとくマントを広げ高笑い。なんか楽しそうだ。

「陛下、ここはまかせてお逃げください」

 勇者パーティがキンさん達の前に立ちはだかるが、野菜人達の攻撃を受けて

「や」「ら」「れ」「た」「あ」

 わざとらしい棒読みのセリフと共に1人ずつ受け身を取りながら倒れていく。

 一斉に武器を突きつけられ、たまらず逃げ出すタクロース17世。すぐに他の魔物達に見つかり「城主をやっつけろ」と魔物達に追いかけ回される。必死に逃げる彼に魔物達は追いつけない。まるで逃げるスピードに合わせて追いかける速度を調整しているかのようだ。

 タクロース17世が城内を駆け回り外に出た途端、巨大な影に覆われた。彼が見上げると、そこにはドラガンの巨体が聳えていた。

「人間に殺された仲間達の恨み……思い知れ!」

大きく開いた口が赤白いブレスに輝き、その光が周囲を包み込んだとき、タクロース17世は気絶してぶっ倒れた。そこへブランク・ジャンクがタクロース17世の鼻と口に睡眠剤をたっぷり塗ったハンカチを押し当て深い眠りにつかせる。

「これで就業時間までは目を覚まさない」

 途端にドラガン自身がガタガタ震えだし「怖かったぁ」と頭を抱えた。彼にとっては精一杯の強がりだった。


 夕日が照らす正門前、キンさんとノレフが握手し、眠ったままのタクロース17世を乗せた戸板をノレフ付の兵士達が持ち上げる。

「それでは後は我々が。何とか陛下を連れて逃げ出したということでよろしいですか」

「もちろんです。ごちゃごちゃ言うようでしたら、みんな私たちの企みということにしてください」

 今まで見たことがない安堵の表情でボンキュボンは勇者の手を取り

「お前達。今回は本当に助かった。この恩はお前達が死んでも忘れない。何か礼をせねば。お前達の銅像を造って広場に飾ろうか。いやいや」

 と胸の谷間から堕聖剣ナディバイスを取り出し

「前から返せと言っていたこの剣。今こそお前に返却しよう」

 勇者の手に握らせると、彼は一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに険しくなり

「いらん」

 と剣をボンキュボンに突っ返した。

「こんな形ではなく、お前を倒し、戦利品として取り返す。しっかり剣の手入れをして待っていろ!」

 指を突きつけ宣言する。

 きょとんとしたボンキュボンだが、やがて静かな笑顔となり

「わかった。いつの日か、お前達が私を倒すまでこの剣は私が使う。誰にも渡さん」

 戸板に乗せたタクロース17世をノレフ達と共に運んでいく勇者達。

 その背中にじっと静かな微笑みを向け続けるボンキュボンだった。


(終わり)

 一日署長、一日市長などを真似た「一日城主」の回。こういうのはやはり記念の来城者だろうと一万人目にしました。開城を初めて何年め? という質問はしないように。

 誰を一日城主にするか、やはりここは「絶対城主にしたくない奴」がなってしまうというのが定番だろうというのでタクロース17世になりました。彼もちょっとしたお遊びに付き合うぐらいの気持ちでいれば問題なかったのでしょうが、そんなキャラではありません。

 余談ですが、私も「おめでとうございます ●●人目です」となったことがあります。2023年松本そば祭り。北海道からのブースで天ざるを頼んだとき「おめでとうございます。天ざる100人目です」と拍手され、無料になりました。

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