【第20話 戦士ムダジニの悲劇】
本気で前後編にしようとか悩みまくった回。ムダジニこと元魔王ドーショウについて、学生時代ボンキュボンに惚れており今でも忘れられないとか。剣技は魔王トップクラスでボンキュボンより強いとか、実はボンキュボンに返り討ちにされるためにやってきたとか、人間にされて城を去って以来、城の魔物達が彼を探し回り、ボンキュボン城にもやってきたとか書きたいことがありすぎました。
呪いによって人間にされてしまった元魔王なんて主人公感ありすぎる。彼を主人公にしたスピンオフも2、3話書けそうだ。
そして名前だけの登場ですが「人間トップの会」どんな考え、価値観も度を過ぎれば害の方が大きくなるもので、彼らはその度をハイジャンプで跳び越えた連中です。当初は「人間原理主義者」「人間ファーストの会」「人間以外はみんなクズ党」などが候補に挙がっていました。
そのうち敵として出てくるのでしょうか……なぜだろう。ものすごく間抜けな負け方をしそうな気がする。
魔王城。正門をくぐると広がる中庭で、戦いが繰り広げられていた。
「こんのぉーっ。あたしの全魔力をつぎ込んだ雷球アターック!」
ボロボロになりつつも目を血ばらせた魔法使い(女)が掲げた両手から雷を丸めたような雷球が生まれ、魔王ボンキュボンめがけて放つ!
「初来城の時に比べればレベルは上がったようだが」ボンキュボンわずかに目に力を込め「まだまだだな」
飛んできた雷球は、ボンキュボンの手前で彼女の力ある視線を受け霧散した。残った全魔力を注いだ攻撃をあっさり無力化され
「……そんな、眼力だけで」
悔し涙にむせぶ彼女の周囲には、武具を破壊され、白目を剥いて倒れている勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、賢者の4人。
「そんな顔をするな。以前に比べたらレベルが上がっているのは事実なんだ。まぁ、食堂で何か食べて帰れ。今日のオススメはカツ丼だ」
相変わらず貝殻ビキニにスケスケ衣姿のボンキュボンの言葉も、何の慰めにならない。
今まで周りをうろちょろしてばかりが続いていた勇者パーティだが「俺達も強くなったはずだ」とばかりに久々にボンキュボンに戦いを挑んだのだが、結局、かすり傷のかの字もつけられずに敗北した。
「あの……これどうぞ。挑戦賞です」
魔王城メイドのメイちゃんがちょっと申し訳なさそう顔で魔法使いに食堂の割引クーポンを渡す。
「いらないわよ。そこまで落ちぶれたくないわ!」
叫んだ途端、魔王城の正門が震えた。蝶番が壊れ、内側に向けてゆっくりと倒れてくる。慌ててメイが魔法使いを抱えて逃げ出す。
とっさにボンキュボンが羽衣の先を飛ばし、倒れる正門が押しつぶす寸前、勇者達4人を引っ張って救い出す。正門が倒れると同時に舞い上がった土埃がボンキュボン達を包み込む。
舞い上がった土埃が収まったとき、正門のあった場所に剣を携えた鎧兜姿の人物が1人立っていた。兜は顔をすっぽり覆うタイプなので顔はわからない。
「誰だ? 用があるなら住所氏名、用件を書いた用紙を提出してもらえないか。内容によっては正門の修繕費を請求することになる」
「その必要はない。俺は戦士ムダジニ……世界の魔王全てを滅ぼしに来た。ボンキュボン、手始めに、まずお前を殺す」
ムダジニが跳んだ。閃光の如く。その剣が触れる直前ボンキュボンが消えた。いや、超スピードで避けたのだ。間を開けて姿を現したボンキュボンの目に余裕はなかった。
「こいつ、かなり出来る!」
ムダジニの追撃がボンキュボンに迫る。そのすさまじい力と速さの剣に、彼女の纏うスケスケ羽衣が少しずつ切り裂かれて、彼女の肌にうっすらと傷がつき血が滲む。
「ボンキュボンがダメージを受けている?!」
驚く勇者達。ボンキュボンは戦いながら
「キンさん、皆を城内に避難させろ」
「ピーはどこ?! こういう時こそ出番でしょう!」
エリザベス・マイマイが叫ぶこの時、猫型魔族の魔王城警備隊長グースカ・ピーは自室で鼻提灯出しながらぐーすかぴーと寝ていた。
キンさんの指揮の下、メイたちが数少ない一般来城者を城内に避難させ、警報の鐘が鳴り響く。
「さすが、かつての大魔王最有力候補は伊達では無いな」
ムダジニが剣を構え直す。これまでの彼の攻撃で与えたものはいずれもかすり傷程度でたいしたダメージではない。
「対魔剣技・ヴィム!」
剣を振り下ろすと無数の刃が刀身から放たれ、それぞれが異なる動きをしてボンキュボンを全方向から斬りかかる。それを躱し、手刀で叩き落としつつ大きく跳んで後退するボンキュボンだが、、全身に傷を負い、切られた髪の一部が舞い散っていく。
「……ボンキュボンが押されている……」
呆然と勇者達つぶやいた。
身構えながら肩で息をするボンキュボン。かすり傷とは言えダメージを受けている彼女に対し、ムダジニは全くの無傷だ。
「さすがに本気を出さねば不味いな。お披露目と行くか」
ボンキュボンは自分の胸の谷間に手を入れ引き抜いたとき、一振りの剣が握られていた。見覚えのある剣に勇者が
「俺の聖剣エクスカリバーカ!」
その叫びにボンキュボンは微かな笑みを浮かべ
「今は私のだ。使わせてもらうぞ。元聖剣……今は私の愛剣・堕聖剣ナディバイス!」
一振りするとナディバイスの刀身がボンキュボンの魔力に共鳴し虹色に光る。
「堕聖剣って……」戦士の呟きに
「うむ。お前が応募した名前を採用した。後で賞品である食事券100枚を渡すから受付に来てくれ」
よっしゃあと笑顔で手を打ち鳴らす戦士達に勇者が「喜ぶな」とたしなめる。ちなみにナディバイスはナイスバディのアナグラムである。
激しく剣を交えるムダジニとボンキュボン。両者の剣術はほぼ互角に見えたが、彼女の堕聖剣ナディバイスは神金属ウルトラオリハルコンを極炎竜ドラガンが1兆度ブレスで鍛え上げた業物。打ち合う度にムダジニの剣に少しずつ刃こぼれが生じ始め、ついに真っ二つに折れた。
「秘剣・キャベツの千斬り!」
ボンキュボン必殺剣技がムダジニの兜をバラバラに千切りする。現れた彼の素顔にボンキュボンの動きが止まった。
「お前、ド-ショウ?!」
その名前にムダジニの足が止まり、激しく首を横に振る。
「ななな、何のことだ。俺は人間の戦士ムダジニだ。決して5年前に行方不明になった魔王ドーショウではないぞ! 例え似てても他人のそら似だ。その証拠に角も生えていないし髪も緑じゃない」
懸命に否定する姿に周囲も唖然とする。
「魔王さま、お知り合いなんですか?」
メイの言葉にボンキュボンも頷き
「魔王学校のクラスメイトだ。278年ぶりか。随分強くなったな。立ち話も何だ、中で茶でもどうだ。あ、正門の弁償代は別にもらうが」
「すまん。ボンキュボン。俺はお前を殺さねばならん!」
折れた剣を振りかざす彼の周囲が暗くなり、ドラガンの足が踏み下ろされた。
「ドラガン。随分荒っぽい止め方だな」
「この方、魔王なんでしょう。人間でなければ怖くないです」
ドラガンが足を上げると、ムダジニは大の字になって地面にめり込んでいた。
「ドーショウ……いや、今はムダジニか。意地はこの際脇に置いて、全てを喋って楽になれ。これは私のおごりだ」
魔王城の食堂。その隅のテーブルで、既に傷の癒えたボンキュボンはムダジニの前にカツ丼を置くと向かいに座った。やはり興味があるのだろう、勇者達や人間体のドラガン、キンさんやメイたちも周囲の席で食事をしながら聞き耳を立てている。勇者パーティの前にある料理がちょっと豪華なのは、商品のお食事券をさっそく使っているせいだ。
諦めたようにムダジニはカツ丼を手にするがその動きはゆっくりとしている。魔王ならばともかく、人間となった彼にとってドラガンに踏み潰されたダメージは小さくない。食べる合間にゆっくりと話し始める。
「5年前、俺の城に人間達が攻め込んできた。結構手を焼いたものの返り討ちにしたんだが奴らめ、死ぬ間際、俺に呪いをかけた」
「呪い?」
「俺の魔王としての力を封じ、人間にしやがった」
これにはボンキュボンも勇者達も驚いた。
「そんなことが出来るのか?! あ、いや。疑っているわけではないが、あまりにも予想外だったので、つい」
「俺も最初は自分に何が起きたのか理解できなかった。すさまじい激痛に襲われ気を失い、目を覚ましたときは人間になっていた」
「解呪できないのか? いや、やれたらとっくにやっているか」
「今、やっている。いや、やろうとしていたか」
カツ丼を食べ終え、お茶をすすりつつ
「奴らが死に間際言ったよ。呪いを解く方法はただ1つ。自分たちの代わりに魔王を滅ぼせと。全ての魔王が死んだとき、呪いは解けると」
「それで魔王を倒そうとしていたのか」
「ああ。それが最初の1人で躓くとは」
彼は立ち上がると、口元に飯粒をつけたまま剣の柄に手をかけた。
「ボンキュボン、かつてのクラスメイトを手に掛けるのは心苦しいが、俺を哀れと思うなら殺されてくれ」
「最後の1人ならまだしも、最初の1人はいやだ」
空の丼を挟んで対峙する魔王と元魔王。メイちゃんがどうしようかと震えながら見回すが、魔物達はボンキュボンが負けるなど微塵も思っていないのかのんびりとその様子を見ている。
「その呪いについてひとつ確認したいのですが」
軽く手を上げ魔王城の医療班長ブランク・ジャンクが口を開く。
「全ての魔王が死んだときと言いますが、その魔王の中にあなた自身は入っているんですか?」
「え?」
きょとんとするムダジニに
「あなたが入っているならば、全ての魔王を滅ぼしあなたが魔王に戻った途端、再び呪いが発動してあなたの体は人間になる。なった途端、条件を達成したことになりあなたは魔王に戻る。そして戻った途端……堂々めぐりです」
「それだけではない」ボンキュボンが続けて「人間にされるときすさまじい激痛に襲われたと言ったな。気絶するほどの。人間になったり魔王になったりする度にその激痛に襲われるとなると。堂々めぐりの間ずっとその激痛が続く……お前が死ぬまで続く」
その意味に気がついた一同が一斉に「うわぁ」と顔をしかめた。
さすがに勇者も「たちが悪すぎる」と不快感を隠さない。
「……そんな、ならば俺はいったい何のために他の魔王を」
呆然とするムダジニに、さすがにかける言葉に迷っているのか皆が口をもごもごさせたまま言葉を出さない。
「しかし魔王を人間にするほどの呪いとは」話題を変えようとジャンクが勇者達を見「それほどの力の持ち主ならば、人間達にも名は知られているのではないですか。強大な魔法使いで、5年ほど前に死亡、あるいは行方不明になった」
しかし勇者達はそろって首を傾げる。思い当たらないようだ。
「そいつら、お前と戦うときに名乗らなかったのか?」
「いちいち名乗ったりはしなかったな」
言われてボンキュボンははたと気がつき、勇者達を見る。
「そういえば、私もお前達の名前を知らないな。今更だが教えてくれ」
これに勇者達はむっとして
「それは嫌みか! 俺達の本名など、俺も作者も知らない!」
うん、知らない。というより考えてない(作者談)
そんな思いなどしらんとばかりに言葉を続けるムダジニ。
「個人個人の名前は知らんが、奴らは自分たちのことを『人間トップの会』と呼んでいた」
『人間トップの会?!』
勇者達の叫びがハモる。
「そいつらなら前に会ったことがあるわ。下っ端だけど」賢者が口元を歪め「その名の通りというか、人間頂点主義者の集まりよ。人間が人間第一に考えるのは当たり前だけど、限度があるわ。そいつら、人間は全ての生き物の頂点。生き物は全て人間の為に存在するって言うのよ」
「人間はショボい生き物なんて言う気はないけど、そこまで言うとただの自惚れよ」
戦士2の言葉に戦士も頷く。。
「私たち魔王を敵と言うからには、お前達の仲間では無いのか」
『あいつらと一緒にするな!』
またもや勇者達がハモった。
《面倒な名前が出てきたね》
魔王城執務室。ボンキュボンの連絡に、彼女の叔母である魔王オー・セッカイが面倒くさそうに顔を歪めるのが通信魔法陣越しに見える。
《それで、ドーショウは結局どうなった?》
「自分を見つめ直す旅に出ると言って出て行った。私たちで解呪できない以上、どうしようもない」
《全魔王を倒すべく剣の修行をしたほどだ。なんかしらの道を見つけるだろうよ。それよりも気をつけな。その人間トップの会とやら、そのうちお前さんの所にも攻め込んでくるよ。というより、今まで攻めてこなかったのが不思議なぐらいさ》
「どうしてだ?」
《知らないのかい。その城の先代城主ハラスメント。そいつを倒した勇者こそ、人間トップの会の創立者エライ・ツヨイ・スゴイだよ。その城は連中にとって記念の城、聖地みたいなものなのさ》
(おわり)




