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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第15話 殺人鬼スプラッタッタ】

 世の中には他の命を奪ことを喜びとする生物がいる。人間だけではなく、猫を殺すもの、犬を殺すもの、ゴキブリを殺すもの。そして、魔物を殺すもの。

「ついに見つけたぞ。新月の殺人鬼スプラッタッタ!」

 叫びつつ正義の剣を構えるのは勇者(男)。その後ろには戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマのご存じ勇者パーティ。まるで集団ヒーローのようにポーズが決まっている。間違いではない。今回の勇者パーティはこういう役だ。

 彼らに対峙するのは一言で言えば「チンドン屋のコスプレをしたおっさん」である。前には太鼓、背中には「流血無用」の文字の幟、手には手動式の回転ノコギリ。顔は真っ白に塗りたくった上に歌舞伎俳優のようなメイクをしている。

「ふは、ふは、ふははははは。月のない夜を血で染めて、静まりかえる人の世を、乙女の叫びを轟かせようぞ。あ、我は凶悪殺鬼その名も高きスプラッタッタッタッタッタッタッタ……」

 名乗りに合わせてスキップしながら勇者達から逃げていく。その目指す先は魔王城だ。


 魔王城は見かけだけなら寂れた、おどろおどろしい西洋風の城である。ネオンがあるわけでもなし、所々の窓から明かりが漏れるだけ。新月ともなれば見るものをなんとなく不安にさせる。

「魔物か……並の悪人ならば震えて逃げるであろうが、このスプラッタッタには通じぬ。面白い、この面の白さにかけて、あ、今宵の獲物は女の魔物。しかもここの主は女と聞く。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 時間をかけて笑うと、魔王城通用口へと向かう。見た目の派手さとは裏腹に彼は新月の闇に紛れて苦もなく魔王城に侵入する。

 彼の目当ては宝でも城の秘密でもない。ただただ殺したい。それも女を殺したい。できるだけむごたらしく。

「女を殺すと言うても、ただ見つけて殺すのではない。やはり深夜、1人で水浴びをしているところが良い。風呂かシャワーか湖か」

 ちょうどその頃、魔王城従業員宿舎の女性用大露天風呂では仕事を終えたエリザベスがゆったり乳白色のお湯につかっている。今の彼女は普段のロールヘアーではなく、濡れた髪を頭の上に団子のようにまとめている。

「どうした。別に恥ずかしがることはない。女同士だ」

 洗い場では魔王ボンキュボンがメイの傷だらけの背中を洗っている。真珠のようなボンキュボンの肌とは対照的だ。メイは魔王城に来るまで雇い主達から虐待を受けており、その傷がまだ残っている。

「そうではなくて、魔王さまと一緒に入浴するだけでも恐れ多いのに、、メイドの、それも下っ端のあたしの背中を流してくださるなんて」

「人間の世界には裸の付き合いというのがあるそうだな」

 気にせずボンキュボンは笑い

「肩書きも着飾った服もない。互いの立場を気にせず対等な付き合いをするという意味らしい。いい言葉ではないか。できれば男女の差もなくして、ここの湯はすべて混浴にしたいぐらいだ」

「それは反対です!」

 湯船のエリザベスが力を込めた。

「親しき仲にも礼儀ありですわ。どんなに平等を謳っても、相手を尊重するからこそ立てるべき壁がありますわ」

「そうか。私は結婚時代にはいつも連れ合いと一緒に入っていたぞ」

「それは夫婦だからです!」

「それはつまり、お前も結婚すれば旦那と一緒に入るということか」

 言われた途端エリザベスが真っ赤になったのは、決して風呂が熱かったからではない。

 そんな3人を壁越しに見つめる視線。スプラッタッタだ。

(入浴中の女が3人。しかもみんな若い。これはこれは、我が獲物になるためにいるようなものなーり)

 思わず手動ノコギリを回して浮かれる彼だが、

(されど3人はちと多い。1人、また1人と襲い、手足を切っての首チョンパ。これぞこのスプラッタッタの仕業なり……誰であろう。1人だけ先に上がるか残るのは)

 そんな思いを汲んだわけでは無かろうが、メイがたまらず

「あたし、お先に失礼します」

 真っ赤になって浴室を出て行った。それを見たスプラッタッタも「獲物は決まりし、赤毛の娘ぇ」と見栄を切ったところで

「見つけたぞ。スプラッタッタ!」

 勇者パーティが現れた。勇者と2人の戦士と切り結び。

「魔王城内部にまで現れるとは、しつこい奴らめ」

 太鼓を叩くと衝撃音波が発生して勇者パーティを襲う。それに耐えながら勇者達は

「合体剣技ブレード・トライアングル!」

 勇者、戦士、戦士2が合体攻撃を放つが、スプラッタッタに跳んで避けられ、ただ露天風呂の塀を壊すだけだった。

「何事だ?」

 壊れた塀の向こうにボンキュボンが歩いてきた。もちろん全裸で。それに気がついた勇者と戦士が思わずそちらに目を向ける。

「わっ!」一瞬2人が赤くなり、急に唖然とした「……何だそれは?」

 彼らから見たボンキュボンの裸は、胸と股間を隠すように短冊が貼られていた。それもただの短冊では無い。「今なら無料ガチャ100回引」「好きな漫画が定額読み放題」「小説投稿サイト『小説家に俺はなる!』」などの文字が浮かんでいた。後ろにいるエリザベスの胸も同じように隠されている。

「これか。のぞき防止の結界だ。外から見ると肝心の場所にこんな短冊形の目隠しが出る。少しは収入になるかと思って、スポンサーをつけた。それよりなぜお前達がいる。まさか私の裸を見るために来たのではあるまい」

 その間にスプラッタッタはどこかに消えていた。


 メイが以前働いていたところは、メイドである彼女を人間扱いしなかった。それだけにボンキュボンの上下の隔てが小さい、いや、小さすぎる接し方は却って戸惑った。

(マイマイさまの言うとおり、いくらかは上下の関係があってもいいと思うんですけれど)

 まだ魔王城に来て日の浅い彼女にとっては、その方がありがたかった。

 勢いでメイド服に着替えたものの、彼女は既に今日の仕事は終わっている。しかし趣味を持たない彼女にとって、仕事のない時間というのは却って落ち着かなかった。何か仕事はないかと居住区を出たところ、奇妙な金属音が聞こえてきた。まるでノコギリのような金属の唸り。

 音の方を向くと、顔面を真っ白にしたチンドン屋風の男が手動式回転ノコギリを激しく回している。

「何かお困りですか?」

 メイが和やかに歩み寄ってくる。まだ魔王城の魔物について熟知していない彼女は、スプラッタッタを自分の知らない魔王城の魔族か何かだと思っている。

 スプラッタッタは静かに舌なめずりをすると、

「お前の生首、魔王城のてっぺんに飾ってやろう!」

 回転ノコギリの速度を上げてメイに襲いかかった。


「その変態殺人鬼が城に侵入したというのは本当か?」

「本当も何も、さっきまで俺達はそいつと戦っていたんだ」

「奴が獲物を探っていたならば、先に上がったメイが狙われる」

 魔王城を走るボンキュボンと勇者達。メイのところに駆けつけた彼らが見たのは

「なぜだ、なぜ斬れぬぅ」

 回転ノコギリでメイの首を切り落とそうとするものの、真っ二つどころか傷1つつけられずいらだつスプラッタッタの姿だった。むしろ何のダメージを受けないメイが申し訳なさそうだった。

「今度こそ逃がさんぞ!」

「またうぬらかぁ」

 スプラッタッタがノコギリを勇者達に向けるが、それはボロボロに刃こぼれしていた。

「な、何だこれはぁ」メイを睨み付け「おのれぇ、女、人間では無いなぁ」

「そんな。あたしは人間です」

 半泣きのメイをかばうようにボンキュボンがスプラッタッタの前に立ち

「あいにくだな。この子は極炎竜の血の力で肉体が強化されている。そんなノコギリなどでは薄皮一枚切れんぞ」

 言われてスプラッタッタが青ざめた。

「極炎竜の力を宿したメイドだとぉ」

 その意味を理解したのか、スプラッタッタはたまらず逃げに入る。追いかけるボンキュボンたち。

「逃げたところで、あんな目立つ格好ならすぐに見つかる」

「油断したらダメ。奴は化身が出来るのよ」賢者が「普段はありふれた人間に化身して、殺すときに正体を現すのよ!」

 スプラッタッタが角を曲がって視界から消える。それを追いかけてボンキュボンたちが曲がったとき、目の前の休憩所には10人以上の警備班である野菜人、果実人達がのんびりゲームをしたり漫画を読んだりして休んでいた。

「ピー! さっきここに来た奴は誰だ?!」

 が、肝心の警備班長グースカ・ピーは隅のソファで鼻提灯を出して寝ていた。

「役に立たない男ね」エリザベスが目をつり上げ「お前達の中でさっきここに来たのは誰?!」

 睨まれた警備班の野菜人、果実人達は順に手を上げながら

「知りません」「見てません」「気がつきませんでした」「右に同じ」「以下同文」と返事をしていく。「以下略」「同じく」「記憶にございません」「あ、知ぃらぁぬぅなぁ~」

 最後の茗茄の野菜人が見得を切る。よく見ると、いやよく見なくても茗茄の着ぐるみを着たスプラッタッタである。

 ……

 なんとも言えない沈黙の中、野菜人、果実人達は無言でさすまたを手にするとボンキュボンたちの下に集まり、一斉にスプラッタッタに獲物を向け、

『動くな変質者!』

 一斉に叫んだ。

「うぉのれ、なぜわかったぁ?!」

「……なぜわからないと思った?」

 ボンキュボンは呆れて勇者達に

「おい。本当に人間達はこの化身を見破れなかったのか?」

「大方、関わりたいになるのが嫌でわからないふりをしていたんじゃないの」

 エリザベスの言葉に、さすがにばつが悪そうに勇者達が目を背ける。

 一斉に警備班のさすまたがスプラッタッタに突き出される。が、それを受ける寸前、彼は茗茄の着ぐるみを脱ぎ捨て天井近くまで跳び上がる。

 不敵に笑うスプラッタッタの背後に目覚めたピーが現れた。既に両腕には愛用の武器キャット・クローが装着されている。

「うるさくて眠れないんですけど」

 スプラッタッタに反応する時間も与えずクローが無数の軌跡を描き、彼の服を、太鼓を、幟をズタズタにしていく。

 続けて猫キック! ふんどし一丁の姿にされたスプラッタッタが大の字になって壁に激突、めり込んだ。さらにとどめを刺そうとするのを

「そこまでだ」ボンキュボンが止め「とどめは彼らに任せる」と勇者達を指さした。

 壁から剥がれ出てきたスプラッタッタと勇者が激突する。

 刃こぼれだらけのノコギリを受け流した勇者の剣が、スプラッタッタを見事に打ち倒した。


 魔王城正門。ふんどし一丁で簀巻きにされたスプラッタッタを戦士達が台車に乗せ、くくりつけている。

「台車は後で返す」

「それは無用だ。お前達に進呈しよう」

 不本意そうに唇を噛む勇者にボンキュボンは笑顔で

「それと、ありがとう」

「礼を言われる筋合いは無いが」

「この変態殺人鬼がここに入り込んだとき、お前達はこいつが私たちの仲間では無いかと疑わなかった。その判断は素直に感謝する」

 軽く一礼する彼女に勇者達もばつが悪そうに

「変に勘ぐるな。お前とこいつのやり方がどうしても1つにならなかっただけだ。こいつを護送したら準備を整え、必ずお前を倒してやる! 首を洗って待っていろ!」

「おお、楽しみにしているぞ。何なら魔王城の年間パスでも発行しようか」

「遊びに来ているんじゃない!」

 肩を怒らせスプラッタッタを護送していく勇者パーティの背中に向け、ボンキュボンたちは嬉しそうに軽く手を振った。


(おわり)


 こんなキャラ出してナンですが、私は血みどろ内蔵ぐちゃぐちゃ首切断といったスプラッタものが大の苦手です。見ていてそんなシーンになると、思わず目をつぶります。

 今回、お色気シーンで肝心なところを隠すのに使われた短冊。昭和中期までのエロ本はこんな形で肝心なところを塗りつぶしていました。当時の男性読者は何とかこの黒塗りを綺麗に消せないかといろいろ試していたそうで。今ならアニメや漫画で見られる不自然な光や効果線などでしょうか。この隠し方、結構作り手の個性が出るもので、女性の長い髪を前に垂らして乳首を隠す松本零士式が結構好きです。この隠すところは読者なら必ず目を向ける。ならば広告を載せるのに最適だ。ということで広告枠にしました。

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