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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第14話 カジノ注意報!】


「魔王様、この城に足りないのは緊迫感です。来る必要のない場所に人間が来るのはどういうときか。スリルを求めてです。栄光と破滅が同居しながらも、誰もが自分がつかむのは栄光だと信じて疑わない。その心を刺激するのは何か。

 カジノです! 魔王様、この城を巨大カジノに改築し、人間達が集まる場所にしましょう!」

「断る」

 あっさりと魔王ボンキュボンは目の前の人間の提案を却下した。

 魔王城執務室。魔王城発展のためと称してカジノ建設計画を持ち込んだ人間とボンキュボンは向かい合っていた。

「なぜです? カジノはお嫌いですか? カジノは娯楽の王様ですよ」

「カジノはどうしても好きになれない。定食屋時代に、博打好きの常連がいてな。金が入ると博打につぎ込み、身ぐるみ剥がされパンツ1枚で一番安い漬物定食をツケで食べているのを何度も見た。一攫千金ならぬ一攫千貧だ。うちの人も付き合いで賭け事をするときがあったが、『ギャンブルの金はその場で消えるものとして出すもんだ。間違っても増えるなどと思うな』と言っていたな」

「カジノと言えば一攫千金、夢とロマンとお金に溢れた施設。これ以上の娯楽施設などありません」

 力説するのは人間界の大金持ちイカーサマ。あちこちにカジノを建てては巨万の富を気付きあげた有名人だ。

「娯楽施設というものは、そこを出るとき財布が空になっていても満足感溢れた笑顔になっているものだ。スッカラカンになって笑顔でカジノを出る客など私は知らない。それだけでも私はカジノを娯楽とは認めない。

 それに、そのカジノとやらはどうやって利益を出す? やってきた者達がそろってルーレットで当てたり、ポーカーで勝ったり、スロットで777を出したらあっというまに破綻してしまう」

「そこはそれ。人間の技術をバカにしないでください。私のカジノにいるのはルーレットの玉やカードを自在に操るディーラーばかりですし、スロットの確立も操れる。もちろん客寄せのためには、そこそこ相手に勝たせる必要はありますが。他にも表沙汰にできない金の受け渡しに利用してもらうなど、いくらでも手はあります」

 イカーサマが熱弁を振るうほどボンキュボンの目は冷めていく。

「断る。帰れ」

「邪悪なる魔王と言葉とは思えませんですな」

「魔王と邪悪をイコールで結ぶな。お前こそ、人間でありながら魔王城にカジノを作り、訪れる人間達を破滅させようとはどういう了見だ?」

「破滅? 人聞きの悪い。ギャンブルで破滅してもそれは当人の問題。責任をギャンブルに押しつけられてはたまりませんな」

「強すぎる欲望は人の心を狂わせる。お前はそれを知った上で、利用としようとしている」

「大きな利益を得るチャンスですよ」

「もちろん金銭的利益は大事だ。だが、私が欲するのは交流だ。カジノを作りたければよそへ行け」

 取り憑く暇もなく、ボンキュボンはカジノ建設計画書を突き返す。

 それでも彼は食い下がり、何とか1度カジノを見物に行くことをボンキュボンに承知させた。


「ようこそ我がイカーサマのカジノへ」

 ニコニコ顔で出迎えるのはイカーサマとずらりと並んだバニーガールたち。迎えられるのはキンさんとお供の野菜人、果実人達。

 魔王城から乗合馬車で1時間。真っ昼間からネオン魔法を点滅させる派手な建物。ここはイカーサマの運営するカジノの1つだ。

「魔王様は?」

「急な仕事で来られなくなりました。代わりに私たちが」

「それはそれは。魔王様に直接楽しんで頂けないのは残念ですが、その分、皆様がお楽しみください」

 彼に導かれるようにして進むキンさん達を、笑顔で迎えるバニーガールたち。あらかじめ魔物が客だと聞かされていたのだろうが、素直な笑顔を向けるのはさすがプロである。

 中に入ると、外以上に派手な光りと音楽、半裸の女性が踊るステージを囲むようにカウンターが並び、酒や軽食を提供している。さらにその外側にポーカーをはじめとするカードの台、ルーレットの台、壁側にはスロットマシーンがずらりと並んでいる。

「ではコインと交換を。交換所は?」

 キンさんに言われて果実人がお金の入った袋を取り出すがイカーサマはそれを制し

「いえいえ、今日はこちらが無料でコインを提供します。思う存分楽しんでください」

「それはいけません。実際に遊ぶお客はお金を払うのです。ただで遊んでは視察になりません」

 キンさんたちが入り口の横にある交換所に向かって歩いて行く。

(格好付けおって。まぁいい。今日のところはそれなり勝たせてやる)

 イカーサマがほくそ笑む。今日はそれが目的だった。勝つことによりギャンブルの味を覚えさせること。そうして魔王城をカジノにするばかりか、いずれはボンキュボン自身ギャンブルにのめり込ませ、城を抵当に入れさせ取り上げる。これが彼の計画だった。

「あれ、キンさん。あそこにいるのは」

 持ってきたお金をコインと交換しているキンさんの尾骶骨をひっぱって野菜人が指さす先には

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!」

 スロットの前でがっくりと膝を崩す勇者(男)の姿だった。見るとスロットの他にもカードやルーレットの台などで戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマのご存じ勇者パーティが泣き崩れている。

「もしもし、勇者がカジノで遊んでいるのはどうかと思いますよ。せめてクリア後にしたら」

「何を言っているんだよ……って、お前はボンキュボンの手下の金色骸骨!」

「金色骸骨じゃなくてゴールデンスケルトンです。キンさんと呼んでください」

 その様子にイカーサマはバニーガールの1人に

「おい……あのへっぽこ勇者達をそこそこ勝たせてやれ。どうやら知り合いらしい」

 そんなつぶやきが耳に入ったが、キンさんは特に反応を見せず

「どれ、とりあえずこれから」

 ルーレット台に行くと、交換したコインを全部「33」にかけた。

「いきなり全額1点賭けですか。豪快ですなぁ」

「ちまちま賭けるのは性に合いませんので」

 イカーサマがディーラーに目配せする。ルーレットを回すと玉は見事に「33」に入る。

「お見事!」

「ビギナーズラックという奴ですか。次は」

 と今度は「21」にまた全額1点賭け。また的中。

「すごいすごい。どれ、次は」

 と今度は「11」にまたまた全額1点賭けすると、イカーサマをちらと見る。

(この骸骨、わかってやっているな)

 カジノでの勝利という名目で賄賂を要求しているのだ。だが、ここで外せばきっとこいつは魔王ンにボロクソな報告をするだろう。仕方なくイカーサマは三度ディーラーに目配せし、3度目の1点賭けを的中させた。

「お見事としか言えませんな」イカーサマはキンさんの前に山と積まれたコインを前に「しかし、そろそろ別のゲームをしませんか」

「そうですね。それではこのコインを全て換金してください。ギャンブルは『まだいける』と思ったところで止めるのが私のやり方でして」

 言葉に詰まるイカーサマだが文句も言えない。やむなくコインを全て現金に変えた。1点賭けは36倍、それを3連続だから36×36×36でキンさんたちが持ってきた金額は46,656倍になって返ってきた。

「カジノ以外の施設も見て回らないと。せっかくだからまずは甘い物でも食べましょう」

 キンさんの言葉に野菜人果実人達が喜んで女性バーテンのいるカウンターに行き

「クリームソーダ!」

「チョコレートパフェ!」

「芋きんつば!」

「……君のハートをホットで 」

 最後にキザに決めようとしたドリアンの果実人の頭を、他の面子が同時にトレイで叩いた。

「よっしゃあ、ツキが戻ってきた!」

 勇者パーティの歓喜が聞こえてきた。彼らもイカーサマの配慮によってプラスになったらしい。

「おめでとうございます。でもそろそろお止めになった方が」

「何を言う。これから一気に盛り返すんだ」

 勇者に威勢良く警告を無視されたキンさんがやれやれとばかりに息をつく。そこへ周囲から歓声が上がった。

 見目麗しい男が1人、数人の美女を伴い入ってくる。外見だけで全ての異性を魅了するようなその男にキンさんは見覚えがある。

「これはこれは、魔王イッケメン様。お見合い以来ですな」

 気軽に挨拶し歩み寄る。さすがに今は角や尻尾を収納、外見を人間と変わりなくしているがにじみ出る魔力は隠しようがない。

「君は確かボンキュボンの城にいた。意外だな。彼女はカジノには興味が無いと思っていたのだが、それとも君のプライベートかい?」

 セリフを言いながら次々とポーズを決めていくのは相変わらずだ。

「いえ、ボンキュボン様の言いつけでこちらの視察に。イッケメン様は?」

「そろそろ城の財産を補充しようと思ってね」

 交換所でコインを手に入れるとまっすぐルーレット台へ。

「ギャンブルで資産増やしですか?」

「これが一番効率が良いんだ。君も私の力は知っているだろう」

 コインをすべて「1」に賭けると、ディーラーに向かって髪をかき上げ微笑む。途端、女ディーラーの目がハート型になった。イッケメンは魔王の中でも最強クラスの魅了魔力の持ち主だ。

 無造作に回したルーレットの結果は「1」戻ったコインを再び「1」に1点賭け。結果はまた「1」

 彼はそれを5回繰り返しすべて的中させた。さすがにイカーサマが真っ青になってディーラーを交代させるが結果は同じだった。代わった途端ディーラーはイッケメンの魅了にかかり、彼の望む結果を出し続ける。カードでも同じだった。

 配下の美女達が儲けたコインを台車に積んでいく様子にイカーサマの顔が引きつっていく。

「おやおや、ちょっと勝ちすぎたかな。オーナーが怖い顔で睨み付けている。スロットで終わりにしよう」

 コインを手の中で踊らせながら彼がスロットの並ぶ前に立ち「よろしく」とウインクした途端、気のせいかスロット本体の赤が鮮やかになったように見えた。

 並ぶスロットに順番にコインを投入しては無造作にレバーを引いていく。すると、なんと全てのスロットで「777」がそろった。無機物だろうと関係なし。恐るべきイッケメンの魅了魔力。

 スロットからあふれ出たコインが床を埋めていくのを見てイカーサマの顔が震え出す。

「ふ、ふ、ふ……ふざけるなーっ!」

 彼が手を上げると、従業員やバニーガール達が一斉に武器を構えイッケメンとキンさんを取り囲む。だがイッケメンは少しも慌てず

「ギャンブルは勝つことも負けることもある。たまたま負けただけで何いきり立っているんだい?」

 この様子を見物しながら野菜人達がスイーツを食べつつ「たまたまじゃないよね」と頷き合うが彼は気にしない。

「それとも、ここは絶対店は負けない仕組みになっているのかい。だったらそれはイカサマだね。それと、私はボンキュボンとは違う」

 イッケメンの目つきが変わった。爽やかな好青年風から

「人間に優しくないんだ」

 ミミズさえ恐怖で凍り付く目に。


 カジノ正面玄関前。イッケメンが乗ってきた数台の馬車には全て金貨が満載されている。その重さで馬車の車輪が地面にめり込んでいた。

「こんなやり方は感心せんな」報告を受けてやってきたボンキュボンが呆れてイッケメンに「そのうち人間達に攻め込まれるぞ」

「3回ほど攻め込まれましたよ。不思議なことに突然半数が私の味方となって同士討ちを始めましたが。それじゃあお先に」

 ボンキュボンたちが見送る中、イッケメンたちの馬車が遠ざかっていく。さすがに魔物の馬たちも金貨満載の馬車を引くのはつらそうだ。

「……さて」

 振り返ると目の前にあるイカーサマの顔に

「大丈夫。この石化は24時間ぐらいで効果が切れるそうだ。時間が来ればみんな元に戻る」

 イカーサマは立ったまま首から下が石化していた。周りを見ればカジノの建物は崩壊し、武装バニーガールをはじめとする従業員達は1人残らず石になっていた。勇者パーティもコインを抱えてニコニコした状態で石になっている。

 恐怖で意識が飛んでいるのか、白目を剥いたままのイカーサマのおでこを軽く指で叩き

「カジノというのは常に勝つとは限らん。客がボロ負けするときもあれば、店がボロ負けするときもある。不安定すぎて手をだせん。やっぱりこの話はなかったことにする」

 突き合わせるほど間近に顔を寄せて断言した。


(おわり)

 日本にカジノが必要かと言われて久しいですが、必要かどうかはともかく、カジノのない国はないでしょうね。日本でも古くから賭博所がありましたし、今でも競馬、パチンコ、宝くじなど公的ギャンブルが存在します。

 作中でもボンキュボンに言わせましたが、娯楽かそうでないかの境目は、それをして手持ちの金をほとんど使い果たしたとき「楽しかった」と笑顔で言える人がどれだけいるかだと私は思っています。

 ギャンブルの楽しさをあえて言うならば「賭けてから結果が出るまでのわくわく感」でしょうか。宝くじを「夢を買う」と言いますが、そんなものです。

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