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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第10話 魔王様のお見合い】

《ボンキュボン、あんた一体いつまであんな人間にこだわっているんだい。あいつが死んでもう200年以上経つんだよ》

「叔母上、何度も言ったはずだ。私は再婚する気はない」

 魔王城執務室。半ばうんざりした顔を魔王ボンキュボンは目の前に浮かぶ女性の映像に向けた。叔母に当たる魔王オー・セッカイ。別名「鎹魔王」年頃で独身の男女を見つけては結婚させるのが生き甲斐という草食魔王の救世主。独身を謳歌している者にとっては墓場への案内人。

《そんなワガママ言うんじゃないよ。あのショボい定食屋の人間との結婚だってあたしらが散々反対したのに全部無視して。その結果がなんだい、あの人間、結婚してたった60年ちょっとで死んじまったじゃないか》

「叔母上、人間の寿命を知っているのか?」

《せめて子供を産んでりゃね》

 嫌み混じりの言葉にボンキュボンも口をつぐむ。子供が出来なかったというのは彼女の夫婦生活にとって唯一の不満だった。

《古い考えだの何の言われるけれど、男にとっての幸せは惚れた女に自分の子を孕ませる事。つまり子供が出来なかったっことは、あんたは亭主を幸せに出来なかったってことだよ。それを挽回するためにも再婚して100人ぐらい子供産みなさい。

 ほら、この魔王なんかどうだい。精力絶倫、24時間のうち23時間59分を子作りに費やすのを2,000年は続けられるといういい男だよ》

 ベッドの上で気絶している全裸の女性を山と積み、その上で胡座をかいている筋骨隆々の魔王の映像を見せる。

「そんなチン●ンが本体みたいな男は嫌だ」

《貝殻ビキニを普段着にしているお前がそれを言うのかい?》

 セッカイの言葉通り、ボンキュボンは普段から貝殻ビキニに半透明の着物1枚、それに羽衣を纏っている。風紀に厳しい町ならこれだけで警察に捕まりそうだ。

「失礼な。この服装が好みという人もいるのだぞ」

《死んだ亭主かい。まさかそれが理由で普段着にしているんじゃないだろうね》

 言われてボンキュボンがほんのり頬を染める。

《図星かい》半ばあきれ顔で《とにかく1度会ってエッチしてみな。結婚式の予約と招待状の送付はもう済んでいるんだから》

「勝手なことをするな! 叔母上といえどやってはいけないことがあるぞ!」

 2人の言い争いは通信魔法がつなげた空間を歪ませ、異界から大魔獣T・バッチリを呼び寄せるほどだった。ちなみにT・バッチリは機嫌の悪いボンキュボンの攻撃で倒され、元の世界に帰された。


 それから10日後。

「なんでこんな格好を」

 純白のドレスを来たボンキュボンは、鏡に映った自分の姿にため息をついた。

《こらこら、おしゃれしているんだからもう少し浮かれたらどうだ》

 落ち込む彼女に、鏡に映ったボンキュボンが怒ったようにたしなめる。

「鏡に映った自分に怒られるとは……」

 もう一度ため息をつく。結局、セッカイに押し切られる形で、会うだけは承知させられたのだ。

「魔王様、イッケメン様が間もなく到着します」

 呼びに来たゴールデンスケルトンのキンさんに

「キンさん。心労で痩せて骨だけになってしまったということにして、私の代わりに相手してくれないか」

「ダメですよそんなの。ほらほら、せっかくの客人を待たせては失礼です」

 キンさんに手を引かれ、ボンキュボンは情けない顔をながら部屋を出て行った。


 ボンキュボンたち魔王城の主な面子が集まる中、魔王城正門が大きく開かれる。

 開かれた先、堀を渡る大きな吊り橋の向こう側に、見合い相手魔王イッケメンとその一行がいる。魔王イッケメンは今年で約1,200才。その甘辛いマスクと魔王達の中でもトップクラスと言われる魅了魔力で異性を次々虜にしていくという。

「苦手だ……あの人と真逆の存在だ」

 うんざり顔のボンキュボンに、キンさんが「相手に失礼ですよ」と注意され、慌てて作り笑いを浮かべる。その顔が引きつった。

 20人は楽に乗れそうな純金の馬車。悪趣味なまでにキラキラしているそれを引っ張っているのは馬ではない。人間達だ。

 うつろな目をした人間達10数人が馬車を引っ張っている。まるで意識を奪われ生きたままゾンビのように操られているかのように。

「き、気持ち悪いよぉ」

 野菜人や果実人達が怖がり後ずさった。人間と敵対することもある魔物たちだが、ボンキュボンの城は人間達に門を開いているだけに特別嫌っているわけでもない。それだけにこんな人間達の姿には爽快感より恐怖・嫌悪の方が先に立つ。

 人間怖いのドラガンでさえ、心底嫌そうに後ずさる。

「ちょっと、あれ……」

 果実人達が指さす先、馬車を引っ張る人間達の姿には見覚えがあった。彼らにとってはおなじみ、勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの勇者パーティだ。彼らは何度も魔王城を攻撃しており、野菜人達の中にはひどい目に会わされたのもいる。それでも「いい気味だ」という気持ちは起きなかった。

 馬車の扉が開き、四つん這いとなった人間達を踏み台に純金のスーツを着た見目麗しい魔王が下りてくる。純金のように輝く頭髪、真珠のように光沢のある肌。螺旋のような角を生やし、鳳凰のような尾羽が生えている。

 見た目の美しさでは魔王トップクラスを誇る魅了魔王イッケメン。

「お出迎えありがとう。魔王ボンキュボン。私がお前の主となる魔王イッケメンだ」

 髪をかき上げる仕草から彼ご自慢の魅了魔法が周囲に広がっていく。それはボンキュボンや魔王城の面々を覆い

「……イッケメンさまぁ」

 野菜人、果実人達が一斉にひれ伏した。

「どうか食材とお呼びください」

「あなた様のためなら何でもいたします」

 不抜けた声で忠誠を誓う彼らの中

「素敵ぃ……イッケメン様ぁ」

 目をハート型にして進むエリザベスの頭を、ピーが強めにど突いて元に戻す。

 キンさん達が周囲を見回し

「これが……なるほど、噂に違わぬ魅了の力ですな」

 とはいえ、キンさんをはじめとする城の幹部達にほとんど変化はない。エリザベスもピーの一発で魅了が解けている。

「イッケメン。私の城の者達に妙な真似は止めてもらおう」

 ボンキュボンが手を叩くと、そこから広がった魔力が野菜人、果実人達の魅了を無効化する。

「小さな挨拶さ。気にするほどではない」

「あの人間たちだが、どうしてこのようになっている?」

 勇者達を指さすボンキュボンに

「ここに来る途中、この城を攻撃しようと相談しているのを見つけた。せっかくだからと我が家畜とした。いや、礼はいらん。妻を守るのは夫の役目だ」

 言いながらポーズを決めていく。まるで決めポーズをしながらでないとセリフが言えない呪いでもかかっているんじゃないかと思うほどだ。

「初対面の印象は大切だぞ。立ち話も何だ。中に入ろう。と、その前に部下達を中に入れたらどうだ。茶と菓子ぐらいなら出すぞ」

 堀の向こう。誰もいない道を指さす。

「さすがだ。これはちょっと本気で隠していたのだが」

 イッケメンが手を振ると、空間からにじみ出るように10数人の女性兵士の姿が現れる。人間達とは違い、みんな使命感溢れる目をしている。

「いくら見合いの席とは言え、頼りになる部下を連れていないなど、よほどの自信家か変魔王しかいない」

 女性兵士達をイッケメンが連れてくる間、彼女はブランク・ジャンクに耳打ちする。

「良いのですか?」

「かまわん。責任は私が取る」

 城内に入っていくボンキュボンとイッケメンを見送ると、ジャンクはピーを伴い女性兵士達が取り巻くイッケメンの馬車へと歩いて行く。


 ボンキュボンはイッケメンを自室に招き

「飲み物は塩水と雑巾の絞り汁とどちらが良い?」

「雑巾の絞り汁を」

 ポーズを決める彼に、ボンキュボンは濡れ雑巾を絞った水をカップに入れて出す。

「本当に出してくるとは思わなかった」

「私はこの手の冗談が嫌いでな。気に入らぬ縁談とはいえ、相手の好みを侮辱して怒らせ、断るようにするというやり方が気に入らん」

 改めて緑茶を入れて出すと彼はそれを手にし

「あれは私があなたを怒らせるためにしたことだと」

「そうでなければ、あんな偽物の人間達を使った演出はしない」

 ボンキュボンの言葉を背に、イッケメンは茶を飲みながら窓から外を見る。

 ここから正門付近がよく見える。彼の乗ってきた馬車を中心に魔方陣のようなものが描かれている。それを前にジャンクが何やら呪文を唱えると、馬車周囲にいる勇者パーティを始めとする人間達が白い光に包まれ、ただの木の人形に代わる。

「魔物の病は強力な魔力によるものも多くてな。医局長である彼は解魔の腕も1流なのだ」

「バレてましたか」

「縁談の相手は叔母上の紹介だけでなく、自分たちでもある程度調べるものだ。私のことを少しでも調査したなら、あんな人間を小馬鹿にするようなやり方はしない。あの勇者達をモデルにしたのも偶然ではあるまい。

 しかし、こんな小細工をするぐらいならなんでこの縁談を受けた?」

「それは私も同じことを言いたい」

 静かに2人は微笑み、ため息をついた。

『しつこいからなぁ。叔母上(あの人)は』

 見事に2人のセリフがハモった。

「私が縁談を受けないのは、亡き連れ合いに操を立てているからだが。お前はどうしてだ」

「私が美しすぎるせいです」イッケメンは部屋の隅にある鏡に自分を映し「私ほどの美しさを持つ魔王は、存在自体が世界の宝! 誰か1人の物になってはいけないのです。そうなったら、私に選ばれた者は間違いなく全ての生き物から妬みの呪いを受けるでしょう。私があなたを選ばないのは、あなたを守るためです」

 ポーズ手を取るイッケメンに、鏡に映った彼自身が

《よっ、世界一の美魔王さま!》

 調子よく声を上げた。

 その様子にボンキュボンはうんざりした顔で

「ところで、本物の勇者達はどこだ? まさか殺してはいないだろうな」


 乗合馬車停留所「魔王場前」そこから魔王城へ向かって徒歩3分の所にそれはあった。石化した勇者パーティ5人。

「一時的なものなので」イッケメンは腕時計を見て「明日の午前10時には戻りますよ。もちろん生きた状態でね」

 石化勇者達を前にイッケメンと配下の女性兵士達。ボンキュボンと配下の魔物達が立っている。

「解魔しましょうか?」

 ジャンクが聞くと

「明日には戻るのならば、無理に解くことはないだろう。無理に解いて副作用が出ても怖いしな。野生動物に壊されないよう交替で見張りに立て。明日の朝10時前には食べ物と新鮮な水、石化代を備えるのを忘れるな」

 野菜人、果実人達が石化勇者の周囲に立入禁止のロープを張っていく。いたずら防止の工夫のつもりか、ロープには「ペンキ塗り立て」「猛犬注意」「お前の秘密を知っている」「正解はCMの後で」などと書かれた紙がぶら下がっている。

 それを眺めながらイッケメンは

「お優しいことですが、この連中は何度もあなたの城に攻撃をかけたと聞きます。レベルの低い今のうちに殺すべきですね。人間達は寿命が短い分、成長も早い。素質あるものならば1年とかからずに魔王とタイマン勝負ができるほどに成長しますよ」

「そうなったらそうなったで考えよう」

「どうしてそこまで人間を殺すことをためらうのです? 人間は私たち魔王の敵ですよ」

「昔から言うだろう。『敵というのはいると憎いが、いなくなると寂しいもの』と」

 言いながらボンキュボンは、石化された勇者達に向かって静かに微笑み

「私は寂しがり屋なんだ」


(おわり)

未亡人なら1度はやらないとというお見合いネタ。ボンキュボンが貝殻ビキニを普段着にしている理由がわかります。彼女以外の魔王が実際に登場するのは初めて。名前だけなら先代城主・魔王ハラスメントがいましたが。

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