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未亡人魔王ボンキュボンの城  作者: 仲山凜太郎
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【第1話 魔王城は開城中】


「ついにここまで来たな。魔王城」

 勇者は目の前に聳えるおどろおどろしい城を見上げた。見た感じだが7階建てだろうか。城とその後方に広がる敷地面積は合わせてちょっとした街ぐらいある。敷地の周囲は外壁と広い堀に囲まれ巨大な吊り橋が架けられており、周囲とを分ける境界線のようだ。

 ちなみにここまでは乗合馬車「魔王城前」停留所から徒歩5分である。

「堀には近づくな。どうせ危険な水生動物を飼ってあるんだろう」

 興味深そうに堀に近づいた魔法使いに声をかける。

「忘れるな。我々の目的は1つ」

 勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者オカマの5人は顔をつきあわせ、頷く。

『魔王を倒し、城の宝はみんな俺達のもの!』

 彼らの笑顔は曇り1つ無く輝いていた。

「我がカクーノ国の法律では魔物に人権はない。つまり所有権もない。殺そうが奪おうが一切罪には問われない。 おーたからっ!」

『おーたからっ!』

 意気揚々と吊り橋を渡り、正門の前に立つ。門は固く閉ざされていた。

「こんな門、あたしの攻撃魔法で吹っ飛ばしてやるわ」

 詠唱を始める魔法使いの横で

「あぁら。何か書いてあるわよぉ」

 賢者が門の横の看板に目を向けた。


『~開城時間 9:30~16:30 ※12:00~13:00はお昼休みのため、一部業務を停止します。 

 開城前に来られた方は名前と人数、要件を書いてお待ちください。 魔王城管理組合』


 見ると横にはファミレスなどで順番待ちのお客が名前を記入する用紙が置かれていた。さらに指先を消毒するためのアルコールと、感染防止のためマスクの着用をお願いしますという注意書きがある。

「今何時だ?」

「9時」魔法使いがやたらでかい懐中時計を取り出した。

「あと30分か、茶でも飲みながら待つか。書く名前は勇者で良いな」

 戦士がペンを取り名前を書こうとすると

「待て待て待て。どう見ても罠だろう。こうやって時間を稼ぎ、俺達を迎え撃つ準備をするんだ」

「あたしもそう思う。こんな門!」

 魔法使いが正門を吹っ飛ばすべくとびっきりの攻撃魔法をぶちかます!

 キィッン!!

 正門に施されていた魔法反射結界によって跳ね返った攻撃魔法をまともに受けた結果、髪の毛チリチリ、服は焦げ焦げの魔法使いを見て一同は

「30分待とう」

 反対意見はでなかった。


 30分後。 先手必勝とばかりに開城と共に剣を抜き、攻撃魔法をぶちかましまくる勇者一行を前に魔王城は混乱した。

「勇者が来たぞーっ!」

「警備班を呼べ! グースカ班長は?!」

「非戦闘モンスターは託児所の子供達を連れて避難しろ!」

 戦士2が逃げ惑う魔物達を見回す。

「なんか、思っていたのとは違うけれど」

 城内の魔物たちは身長1メートル前後。そろって野菜や果物に細い手足が生えたような外見をしている。いわゆる「野菜人」「果実人」というやつだ。勘違いする人も多いが、彼らはれっきとした生き物だ。でかい野菜や果物だと思って食べようとするとえらいことになる。

「ゴブリンとかオークとか、ゾンビとかいない」

 そこへさすまたと簡単な防具で武装した野菜人や果実人たちが駆けつけてきた。だが、戦闘力は大したことはない。注意すればやられることはない。

「数もずいぶん少ないな」

「そうか、あの30分は罠を仕掛けるためじゃなくて逃げるための時間稼ぎか」

 気楽に笑う勇者の鼻の穴に果実人がつきだしたさすまたの先端が突っ込まれた。

「やったな!」

 お返しとばかり暴れる勇者と戦士、魔法使いを横目に、戦士2と賢者は備えつけられた無料のお茶を飲みながら城を見回した。

 申し訳程度の装飾しかない非常にシンプルな作りだ。

「ちょっと、あまり調子に乗って攻撃魔法使っていると、終盤で魔力が尽きるわよ」

「もしかして、お宝はもう運び出されているかもね。もしかして、隠された『裏魔王城』とかあるんじゃない」

 体力魔力温存のため、2人はのんびりしている。

 そこへ

「おまたせ。トイレ掃除は終わったぞ」

 正面ロビー隅にあるトイレから薄汚れた清掃服、ほっかむりにマスクの人物が、モップとラバーカップを背負い雑巾を乗せたバケツを手に出てくると、正面の「清掃中」の看板を片付け始める。声と見た目から人型で女のようだ。

 最初、勇者達はこの人物を人間世界からさらわれて無理やり働かされていた人間だと思ったが

「あ、魔王さま!」

 野菜人の1人・手足の生えたキャベツが、こぶだらけの姿で清掃員に駆け寄った。

「助けてください。あの人達がいきなりラスボスを出せ、宝物庫はどこだと」

「そうか。ここのところ来なかったので油断したな」

 その清掃員はバケツを置くと勇者達の前に歩み寄り

「乱暴狼藉を止めろ。ここはお前達が金と経験値を稼ぐための狩猟場ではないぞ」

 勇者に向けてラバーカップを向ける。

「何だお前は?」

「魔王様とか呼んでいたが」

「いかにも」

 清掃員はほおかむりを取りマスクを外す。現れたのはどう見ても20代半ばの女性。凜とした顔立ち、漆黒の黒髪からのぞく金色の角。

「私がここの主、魔王ボンキュボンだ」

 清掃服を脱ぎ捨てると、現れたのはその名の通りボンと張りのある大きなバスト、キュッと閉まったウエスト、ボンと迫力のあるヒップ。凸凹の美しいボディラインに透明感のある透明感のある衣装に羽衣を纏ったミス・コンテストなら間違いなく優勝候補に目されるほどの美女だった。衣装から透けて見える体はただ貝殻ビキニをつけているだけ。魔王らしさと言えば、頭の角と背中に生えた大鷲のような翼、お尻のすぐ上から生えた尾羽ぐらいだ。

 その彼女のボディラインをまざまざと見つめた戦士2と魔法使いは

「……負けた」

 戦意喪失して部屋の隅に座り込んだ。

「ちょっと、なんで魔王がトイレ掃除なんてしているのよ」

 当然の疑問を賢者が口にすると

「たちの悪い風邪が流行っていてな。魔物の大半が寝込んだため私が掃除しただけだ。感染防止のためにもトイレは清潔にしておかんとな」

「だからって魔王がやるなよ! 魔王ならラスボスらしく一番奥の部屋で玉座に座ってろ。入って最初の部屋で便所掃除しているなんて」

 言いかけた勇者が

「そうか、お前偽物か影武者か囮だな。よくある話だ。お前の後ろに真の魔王がいるんだ」

「女の格好をしているのも俺達を油断させるためか。本当の姿は醜い化け物なんだろう!」

 自分に言い聞かせるように、勇者と戦士が剣を構える。

「お前達、もう少し目の前の事実と向かい合った方が良いぞ」

 呆れたように言うと、周囲の魔物達に正面の扉を開けさせる。

「今日のところはお帰り願おう。これ以上の狼藉を行うと実力でお前達を排除するぞ」

 開かれた扉を指さす。

「正体を現せこの化け物」

 戦士が大ぶりの剣を魔王の脳天に叩きつけると、ポキッと折れた。

「馬鹿な、武器屋の在庫一掃セールで買った『神の剣』が?!」

 相手にするのも馬鹿らしいとばかりに、魔王が手にしたラバーカップを戦士の顔に押し当てた。顔面をカップ部分ですっぽりと覆われ、戦士がもがくがカップはびくともしない。そのままラバーカップを上げるとそれに合わせて戦士の体も宙に浮く。

「こいつはギガンテスのウンコが詰まった便器も一発で開通させる。人間がどうこうできるものではない」

 ラバーカップ一振り。カップが外れると勢いよく放り出された戦士の体は開いた扉を通って城の外、空の彼方へ飛んで行く。

 そこへ賢者の攻撃魔法が魔王を直撃する。巨大な爆発と炎が魔王を包み込む。と思ったがそれらは軽く開けた魔王の唇の中に吸い込まれてしまった。魔王の喉がうごき、魔法の威力は彼女の腹に収まり、瞬時に消化される。

 唖然とする勇者たちに向け、魔王は静かに開け放たれた扉を指さす。

 勇者はふっと息を漏らし、髪をかき上げると

「……今日はこのくらいで勘弁してやる!」

 勇者たちは逃げるようにして魔王城から走り去って行く。彼らが猛烈な寒気に襲われていたのは、恐怖だけではなかった。


《人間の勇者、久しぶりですな》

 魔王城の執務室で魔王ボンキュボンは、総務責任者ゴールデンスケルトンのキンさんと通信魔法で話していた。部屋の中央にここにはいないキンさんの姿が浮かび、当たり前のように話している。

 キンさんはその名の通り黄金に輝く骨格アンデット。ただし今はどてらを着てマスクをし、額には冷却シートを貼り付けている。

《ピーはどうしていましたか?》

「寝ていた。それ以外にあるか」

《確かに。お手を煩わせて申しわけありませんでした。私も風邪で倒れていなければ》

「風邪は万病の元、今は療養がお前の仕事だ。ましてや今回流行の風邪、コロニャンと言うらしいが、かなりたちが悪いらしい。それに今回のことは城の一時閉鎖を決断するきっかけになった。明日から1週間、閉城する。その間の給料は出すから心配するな」

《ありがとうございます》

「城で働く者の3割が寝込むという異常事態だ、やむを得ん。療養中の者への薬や食料配布は私も手伝う。食料などで足りないものがあったら言ってくれ。お粥や桃缶のストックはあるか?」

《準備は万全です。私自身、病気になったのは生前、私がスライムだった頃以来なので戸惑っておりますが》

「え?!」

 魔王が目を丸くした。

「お前、生きていた頃はスライムだったのか?」

《言っていませんでしたか?》

「初耳だ。知り合ったとき、既にお前はアンデットだったからな。てっきり元は人間か、人型生物だとばかり思っていた。しかし……」キンさんの姿をまじまじと見て「……スライムにも骨があったのか」

《よく言われます。それはそうと、先の勇者達は大丈夫でしょうか?》

「あの様子では、しばらくはレベル上げだな。魔物達に危険な勇者がうろついていると注意しなくては」

《いえ、私が心配しているのは彼らの健康状態です。調査資料によりますとこのコロニャン、人間にも感染します。もし彼らが感染し、そのまま国に帰ったら……》


 勇者たちの国に悪性の風邪が流行り、人口の1割が死に至ったと報告が入ったのはそれから30日後だった。支社の中には国王タクロース16世もいた。

 新たな国王タクロース17世はこの風邪を魔王の細菌兵器と発表、正式に魔王ボンキュボンを滅ぼす勇者の募集を始めたという。


(第1話 おわり)


 記念すべき第1話。ですが1話だけでは魔王様が未亡人であることがわかりませんね。タイトル詐欺と言われそうだ。未亡人であることは第2話で説明されますので、引き続きお読みください。

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