チョロイン無双 〜何の力も持たないで異世界に来たけど、何故か皆さん優しいです〜
思い付き短編です。
……思い付きの割に長くない?と言ってはいけない。いいね?
異世界転生ですが、特にチートはありません。
ぶっちゃけ観光に近いです。
ほんわかお楽しみください。
……ここ、どこ?
草原……?
わ、良い天気……。
周りは半分くらいが森。
森のない方には、昔のヨーロッパみたいな街……。
あー、私、旅行してたんだっけ?
……違うよね!?
課長に仕事めっちゃ振られて、徹夜で残業してたよね!?
で、一通り終わったところで眠くなって……。
……あ、夢かぁ。
ここのところ休みらしい休みがなかったから、夢に見ちゃってるんだぁ。
なら楽しんじゃお!
「ぐるる……」
へ?
何かの唸り声?
……ら、ライオン!?
森からライオンが出てきた!?
さ、さすが夢……!
な、何でもありだぁ……!
羽生えてるし!
尻尾が蛇だし!
「ぐわぁおう!」
きゃあ!
夢でも怖い!
「『烈火の槍』!」
「ぐぎゃあ!」
「ひい!?」
真っ赤な棘みたいなのが、ライオンを刺した!
ら、ライオンが消えた……!?
「おい、大丈夫か?」
わ!
森から赤い髪のイケメンが!
さすが私の夢!
ご都合主義万歳!
「ありがとうございます! 助かりました!」
「まぁそりゃいいが、何で武器も持たねーでキマイラのいる森に近付いたんだ? 危ねーだろ」
「キマイラ……?」
ゲームとかで出てくる、すごく強いモンスターだよね……?
「今俺が倒した奴だよ。戦う力がないなら」
「そんな強いモンスターを一発でやっつけるなんて! 凄いですね!」
「え? そ、そうか? この辺りではそんなに強くはないんだが……」
「じゃああなたが強いんですね!」
「え、あ、そ、そうか……?」
すごいなぁ!
一人でモンスターをやっつけちゃうなんて!
「あ! さっきのって魔法ですよね!?」
「あぁ、そうだが、烈火の槍なんて珍しくもないだろ?」
「そんな事ないです! 凄いです!」
「……そ、そうか……」
あれ?
横向いちゃった……。
「と、とにかく、街まで送ってやる」
「ありがとうございます! 安心です!」
「……変な女……。お前、名前は?」
「炉院千代です! あなたのお名前は?」
「……レド。レド・ルベライト……」
「えっと、レドさんって呼んでいいですか?」
「……好きに呼びな。しかし女でロインって珍しいな」
「あ、炉院は苗字です。千代が名前です」
「へぇ、名前と苗字が逆なのか。外国の生まれか?」
「まぁそんな感じです」
「……じゃあチヨって呼ぶな」
「はい!」
こうして私は、レドさんと一緒に街に向かった。
街の入り口に着くと、緑の髪の眼鏡のイケメンが!
私達に気付くと本を閉じて、にっこり笑った。
「おや? レド。どうしたんだい? 狩りじゃなくてナンパをしに行ったのかい?」
「なっ……! ちげーよグリン! 草原でキマイラに襲われかけてたから助けたんだよ!」
慌てるレドさんを、眼鏡の人は笑って流す。
「あはは。わかってるわかってる。レドは真面目だもんね。で、お嬢さんお名前は?」
「炉院千代です!」
「よろしくチヨさん。僕はグリン・ジャスパー。この街の門番をやってるんだ。グリンって呼んでね」
「あ、グリン。チヨが名前らしいぞ」
レドさんの言葉に、グリンさんが青ざめた。
「ご、ごめん! 女性を許可もなく名前で呼んでしまった……! あの、馴れ馴れしくするつもりはなくて……!」
「いえ! 全然平気です! 気にしないでください! 何なら呼び捨てでもいいですよ!」
「……え? あ、ありがとう……。じゃあ僕も呼び捨てで呼んでほしいな」
「はい! よろしくグリン!」
「じゃあお近づきの印にこれ」
? 何だろう?
石の板?
「その魔導板に話しかけると、僕の魔導板に文字として浮かび上がるんだ。何かあったらそれで知らせて」
え、じゃあこれ、魔法のスマホって感じ!?
「凄い! ありがとうございます! でもこういうのって高いんじゃ……」
「いや、僕が自作したからね。大した事はないよ」
スマホ作ったの!? 凄い!
「自分で作れるなんて凄いですね! 感動しました!」
「そ、そう……!? 大した事はないと思うけど……」
「いえいえ! 凄いですって!」
「……ははっ、ありがとう。じゃあ気軽に連絡してね。……きっとだよ」
笑顔のグリンに見送られ、私は街に入った。
「……なぁチヨ。俺も……」
「? 何? レドさん」
「……何でもねーよ。それよりチヨはどこか行くあてあるのか?」
「うーん、ないです!」
どうせ夢だし、適当なところで目を覚ますと思うから。
「じゃあこのまま真っ直ぐ行って、突き当たりの教会で俺の紹介で来たって言え。そうしたら司祭のブル・アウインって奴が上手い事やってくれるから」
「はい! ありがとうレドさん!」
「……ギルドに報告したら行くから、そこで待ってろよ」
レドさんに言われた通り真っ直ぐ行くと、大きな教会があった。
門で掃除をしている人に話しかける。
青く長い髪で背の高いイケメン!
「あの、すみません!」
「はいはい。何かお困りですかな?」
「レドさんに、行くところがないならここに来るように言われたんですけど」
「そうですか。簡単な食事と寝床だけで、教会の仕事も少し手伝ってもらいますが、それでもよろしければご滞在ください」
「ありがとうございます!」
「私はここの司祭のブル・アウインと申します」
「私は炉院……、えっと、千代、炉院です!」
「チヨさんですね。よろしくお願いいたします」
わぁ、落ち着いた大人の男の人って感じ……。
最高の夢だけど、寝たらきっと覚めちゃうよね。
せめてご飯食べるまでは夢のままがいいなぁ。
「ブル様!」
「おや、どうしました?」
「娘が熱を出して、苦しんでおります!」
わ! 大変だ!
男の人が抱っこしてる五歳くらいの女の子が、真っ赤な顔でふうふう言ってる!
「……神よ、あなたのお力で、この子を苦痛から救いたまえ。『治癒』」
ブルさんの手が光った!
あ! 女の子の顔色が良くなっていく!
「……おとうさん?」
「お、おぉ……! だ、大丈夫か!? どこも痛くないか!?」
「うん! もうあたまいたくないよ! くるしくないよ!」
「良かった……! 良かった……! ブル様! ありがとうございます!」
「良かったですね。でも今日一日は安静にしていてください」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「しさいさま、ありがとう!」
うわぁ! 凄い凄い凄い!
「ブルさん! 凄いです! 病気を一瞬で治しちゃうなんて!」
「いや、これは神の恩寵です。私が凄いわけでは……」
「でも神様がブルさんに、神様の力を使っていいよって言ってくれたんですよね? それって凄いじゃないですか!」
「……! そう、でしょうか……。もし、そうだったら、私はもっと胸を張って……」
あ、何か嬉しそう。
病気の子を治して、お父さんから凄くお礼言われてたもんね。
「……ありがとうございますチヨさん。あなたが滞在する間、当教会のもてる最高のおもてなしを約束いたします」
「いえいえ! そんなのいいですよ! 普通のでお願いします!」
「いえ、それでは……」
「じゃあご飯美味しいのお願いします!」
夢の中とはいえ、何でも良くしてもらっちゃうのは気が引ける。
だから美味しいご飯くらいが丁度いい。
うーん、私ってつくづく庶民だなぁ。
「では料理人に声をかけておきますね」
「ありがとうございます!」
夢の中のご飯!
期待しちゃう!
きっとめっちゃ美味しいんだろうなぁ……!
……かぶりついた途端に覚めて、自分の腕噛んでたとかじゃないといいけど……。
「お! 君がブル様が最高のおもてなしをしろって言ったチヨさん?」
「え!? 違います!」
金髪の男の子の言葉に、私は思わず否定する。
あー、でも合ってる、のかな?
「いえ、その方であっていますよイエロ。君の腕を存分に振るってください」
「合点!」
ブルさんの言葉に、イエロって呼ばれた男の子は建物に走って行った。
「な、何だかすみません……」
「いえ、彼は料理が大好きなので、思い切り腕を振るって良いと聞いて、喜んでいます」
「それなら良かったです……」
「それに私も……」
「え?」
「……いえ、何でもないです」
何だろう?
お手伝いがあるなら言ってほしいなぁ。
「チヨさーん! とりあえずお腹空いてると思うんで、間に合わせですけどどうぞー!」
あ、イエロ君が呼んでる。
うん、夢の中なのにお腹空いてきてる!
よーし、目が覚める前に食べちゃおう!
「レドの兄貴が狩って来たロック鳥の肝を、香草で臭みを取って焼いたんだ!」
……つまり、鳥のレバー?
苦手なんだけどな……。
いや、夢の中でまで好き嫌い言ってても仕方ない!
私は目の前に出された串にかぶりついた!
「ん〜〜〜!」
「ど、どう!?」
「めちゃくちゃ美味しい! 表面は歯ごたえがあるのに中は柔らかくて、濃厚な味なのに全然くどくない!」
「そ、そう……? そんなに言ってもらえるの嬉しいな……」
「天才だよ天才! 苦手だと思ってたのに、これまでの人生観がひっくり返ったよ!」
「え、えへへ、嬉しいな……!」
あぁ幸せ!
これは夢から覚めても絶対忘れない!
「ようチヨ。ちゃんと来たな。キマイラ討伐の報酬で、良い肉買って来たぞ!」
「あ、レドさん!」
「やぁチヨ。仕事上がったから、お菓子持って来ちゃったよ」
「グリン! ありがとう!」
「ではチヨさん。先にお風呂をどうぞ。さっぱりしたところで夕食にしましょう」
「ありがとうございます、ブルさん!」
「わ! レドの兄貴! 凄え奮発したな! よーし! 腕によりをかけるぜ!」
「楽しみにしてるね! イエロ君!」
優しいイケメンに囲まれて、とっても優しくしてもらって、私乙女ゲームの主人公!?
ならもっともっと楽しんじゃおう!
「……チヨ」
「チヨ!」
「チヨさん」
「チヨさーん!」
……これで本当は異世界転生で、全部夢じゃなくて現実だったらもう最高なんだけどなぁ……。
読了ありがとうございます。
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まぁブラックに戻るよりはきっと幸せ。
今後も異世界の素敵さに喜ぶ千代を、みんなで喜ばせようとわちゃわちゃする事でしょう。
そんな異世界転生があってもいい。それが自由だ(震え声)。
お楽しみいただけましたら幸いです。