はじめ
「レオナ。貴様に婚約破棄を言い渡す」
静かな舞踏会内に王子の声が響いた。
「貴様は俺の妻としてふさわしくない。俺の妻はアイラだ」
仮にも許嫁。ロイドに婚約破棄されるなど、レオナにとって、辛く、苦しいものだった。
―――と、思われていたのだが。
「えっと、それってあなたの感想ですよね?」
「は?」
「そもそも、婚約破棄って、法律上、両性の同意がないといけないんですよ」
「っ……!!だからなんだ!!俺は王子だぞ!!」
「あら、大変ね〜。最近、嫌われている第一王子がまたもや不祥事を起こすなんて〜」
「何を――」
王子の言葉を遮り、レオナは続ける。
「世論が示していますよ。次の王子はブルーク様のほうがいいんではないかと。このことを王様に報告したら、王様はなんていうでしょうね〜」
舞踏会の貴族たちがざわざわし始める。
レオナは見下す目で、そっと王子に目をやった。
王子は思いついたようにハッとして、
「ああ〜貴様はそんなに俺と離れたくないんだな。これだから、レオナのストーカー行為には困っていたんだ。さすがの俺も、お前のようなメンヘラ女を妻にする事はできないのだよ」
貴族たちが、ロイドに向かって、一気に同情の眼差しを向けた。
だが、レオナは口を開いて言った。
「私は、そんなことした覚えはないのだけれど。なら、この魔音データを聞いてくださらない?」
レオナはポケットから、魔力で動かすビデオテープを取り出し、最大音量にして大きく掲げた。
『………あ?なんだ?こっちを見んなブスめ!!俺はなー可愛い女が好きなんだよ。お前ではもう十分遊んだから、そろそろ捨てさせてもらうぜぇ』
ロイドの声だった。ロイドは一瞬で状況を理解し、絶望する。
(あの時、取られていたのか!?よりにもよって、それかよ!?これはやばい)
「このテープではっきりしたわね?さて、これを王様に出されたくなかったら、婚約破棄を破棄しなさい」
(なんでそこまでして…婚約破棄が嫌なんだよ!?)
ロイドもロイドで、驚きも残り、そこには微かな喜びがないでもないのであった。
もちろん、レオナはロイドのことなど微塵も好きではなかった。
しかし、まだ17歳の身、有用な事業を完成させるまで、都落ちするわけにはいかなかったのだ。
(事業立ち上げまで、あと一ヶ月を切った。これで、婚約破棄の期間を伸ばして、次は、こっちからも婚約破棄を突きつけるわ)
「き、今日の舞踏会は終わりだ!!今すぐ、皆帰れ!!また、今日あった話を外でした者は打首にするからな!!」
ロイドの一声で、パーティーは終わった。
アイラは侯爵を連れてどすどすと帰っていった。
帰り道、予定されていた通りでは、馬車は一つしかなく、滅茶苦茶気まずいまま、ロイドとレオナは同じ馬車に乗って帰ることになった。
「なぜ、婚約破棄が嫌なのだ?」
ロイドが聞く。
レオナは
「あなたの気持ち悪い口を開かないでいただけます?こっちはとっっっても不快なので」
と答えた。
ロイドは「うっ」というような顔をしたあと、窓に向かって頬杖を付き「はあー」とおおきなため息をつくのであった。
さて、その間、レオナはこれからどうするか考えている。初めての作戦は成功した。次はいかに時間を引き伸ばせるか、だった。
〜数日後〜
レオナは部下のヒオンから、事業の準備が整ったとの連絡が来た。