8.ドラゴンロード
ドラゴンロードは、七色に輝く光の奔流の空間である。
その名前の由来は、この空間を始めて訪れた地球人<クインスリー・ディサート>が、「<光の龍>の導きによって、自分たちは無事に生還することができた」と語ったことであった。
光速を超えるスピードで動きまわる粒子、発見者である<メイリン・リオサート>博士の名を冠した<メイリン粒子>が、大河のように一定の方向で流れている空間は、外部からの観測の一切を拒絶するため、発見から200年以上も経った現在においても未だ多くの謎に包まれたまま解明されていない事柄の方が多い。
しかしクインスリー・ディサートによりもたらされた、ドラゴンロード以上の大発見と云われている、人間が直ぐにでも居住が可能である地球型惑星の発見の報は、当時太陽系圏での生活に行き詰まりを感じていた若い世代を中心に未開の新天地への移住の気運が一気に高まり、<亜光速実験船フューチャーホープ>が残した航行記録を元に、危険を顧みずドラゴンロードの彼方へ多くの者達が我先にへと旅立って行ったのだった。
太陽系が所属する銀河系の<オリオン渦状腕>には、ドラゴンロードの大動脈と呼ばれる大きな流れが幾つかあることが発見されている。
オリオン渦状腕の中央を突き抜け、<ペルセウス渦状腕>へと接続している地点から、<サジタリウス渦状腕>方面へと1万光年以上続いているルートを<オリオン渦状腕縦断ロード>と云い、<縦断ロード>とも略され呼ばれ、双方向に流れる大動脈は、サジタリウス渦状腕方面からペルセウス渦状腕方面へ至る流れを<上りルート>、その逆は<下りルート>と呼んでいる。
オリオン渦状腕からペルセウス渦状腕へと至る宙域は、ドラゴンロードの流れが複雑に入り組み合い、流れが突発的に発生、消滅を繰り返す航行の難所とされ、今の技術ではペルセウス渦状腕に至ることは非常に困難で遭難する可能性が高い事から、ペルセウス渦状腕へ至る<オリセウス宙域>への立ち入りは禁止され閉鎖されている。
また、サジタリウス渦状腕に接続されているドラゴンロードは未だに確認されておらず、下りルートの最終ゲートである<セラセナム恒星系>を通り過ぎてしまうと、上りルートの一番近いゲートに戻るためには1000年以上の年月が必要であるため、こちら側も今のところは先へ進む方法が無く、事実上オリオン渦状腕は銀河系の中で孤立した状態となっていた。
縦断ロードに交差して伸びている流れを<オリオン渦状腕横断ロード>と云い、3000光年以上続く大きな流れが3本の発見されていて、発見順に縦断ロードの中央付近の流れを<第1横断ロード>、ペルセウス渦状腕側の流れを<第2横断ロード>、サジタリウス渦状腕側の流れを<第3横断ロード>とも呼んでいる。
他にも、本流から発生している多くの支流や、支流から更に支流が幾つも発生し伸びていたりと、それらが複雑に合流し分離し合いながら、ドラゴンロードは常に変化を繰り返していた。
<惑星クインスリー>と発見者の名を冠したその惑星は、縦断ロードと第1横断ロードの交差する付近に存在する<ヒューチャーホープ恒星系>の第2惑星で、地球とほぼ変わらない大気成分と、温暖な気候を有するエメラルドグリーンに輝く美しい惑星である。
ドラゴンロードが発見された当初の<大探索時代>と呼ばれていた時代は、多くの若者達が個人が惑星クインスリーを拠点として、宇宙船一隻を駆り、大冒険の旅へと危険を顧みずに旅立って行った時代であった。
それから約2世紀の時が流れ、既にオリオン渦状腕内の探索は半分以上終了し、50を超える有人惑星を有するまでに至るようになると、個人が宇宙船を飛ばして探索を行うす時代から、巨大な資本力を持つ企業体や、国家が主催するプロジェクトへと切り替わり大探索時代は終了した。
それよりも前に、太陽系外への移民の数が太陽系内の総人口を超えたころから、政治的、経済的に独立の気運が各恒星系に住まうの人々から起こり始める。
それを見越していたかの如く、地球、火星、金星を中心に、太陽系の政治、経済、軍事を統合した<ソレイユ恒星系連邦国家>を設立され、独立を望むも望まざるにも関わらず、全ての恒星系政府へ連邦政府への加盟を強要し、拒めば強大な武力を背景に実力を行使して従わせ、有人惑星を持つ全ての恒星系が連邦国家に加盟するまでに至っている。
宇宙戦闘艦スターライトは、トライムアート恒星系に接続しているドラゴンロードの支流から、上りの縦断ロードに入ると、第2横断ロードの手前で別の支流に入り、更に支流を何度か乗り換えてゲイザーク恒星系のドラゴンロードのゲートを抜けた。
七色に輝く光の奔流の空間から、星々の瞬く通常の空間に戻ると、メインモニターに小惑星に改造を施した移動要塞を捉えると、ゲイザーク恒星系の入国管理から直接の映像通信を求められる。
<入国管理長官>を名乗る男の映像が映し出されると、威圧するような態度でゲイザーク恒星系への来訪の目的を求められたが、ブリッジに無言で佇む黒マントの姿に気後れしたように、言葉尻がどんどん小さくなっていった。
イレイザーは行く先々で問題を起こし、甚大な被害をもたらすことが多いが、〈星間指名手配犯捕縛特別条約〉がある限りイレイザーの入国を<恒星系自治政府>は拒否をすることはできず、被害者はについては泣き寝入りをせざるを得ないため、できれば入国せずに立ち去って欲しいと云うのが入国管理官達の本音である。
連邦宇宙軍の制服姿のスターライトが、セミルに代わって入国管理長官とのやり取りを行い、テキパキと手続きをこなすと、宇宙戦闘艦スターライトは入国管理の移動要塞を離れ、第2惑星トライセルマ目指して進んで行く、惑星トライセルマの一つだけしかない軌道衛星に接続した。