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君と2人で夢見た未来  作者: 大森パスタ
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5.ガーディアン

「貴様の指揮権は、今現在をもってこのラジェル・レサート様に移管された!」


 空中に表示させた命令書を、見せつけるようにセミルに送り付けてきた黒マントの男はフードを外して素顔を見せると、神経質そうだがプライドが高そうな吊り上がった目でセミルを見下しながらニヤリと嫌らしく笑った。


 イレイザーは基本的に単独で任務を遂行し星々に散らばっているが、全てのイレイザーを管理しているのが、通称<イレイザー統括機関>である。

 ラジェルが突き付けてきた命令書が、イレイザー統括機関が発行している正式な命令書であることを電子署名を照合した結果でも確認していたセミルだったが、彼は何の反応も示さなかった。


「まずは私の命令に絶対服従であることを誓ってもらおうか」


 居丈高に権威を振りかざすラジェルであったが、セミルは暫しの沈黙の後に踵を返してラジェルに背を向け、広場の出口に向かって歩き出した。


「待て貴様!命令には絶対服従であると言っているであろうが!!」


 呼び戻そうと怒鳴り散らすラジェルであったが、セミルはそれをも無視し歩みを止めない。


「反抗的な態度は関心せんな、これを見ろ!」


 ラジェルはどうだとばかりに自らのマントを大きく開けると、銀色に輝く鎧のようなものを着装している姿を自慢するかのように見せびらかし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「貴様のような貧乏人には、このように貴重な装備は見たこともあるまい!」


 それは〈ロイヤル・ナイト〉という、生身の人間を超人にすることができると言われているバトルスーツであった。


 着装するだけで装着者の能力を何倍にも引き上げることができると言われているバトルスーツで、一着で連邦宇宙軍の最新鋭戦闘艦が購入できる程高価なものである。


 更に使い方によっては装着者の身体に命の危険がある程大きな負荷がかかり、このバトルスーツの能力を最大限に引き出せるのはごく一部の限られた者だけであること広く知れ渡っていることから、そんなものを購入する余裕があるのであれば、腕利きの用心棒を何人か雇い入れた方がよっぽど安上がりで、より安全確実であったため、とても普通のバカには買えない代物と言われていた。


 立ち止まるどころか、振り向く気配すらまるでないセミルに、ラジェルはやせぎすの頬をピクピクと引き吊らせた。


「命令違反には厳罰を持って処す、後悔しても知らんぞ!」


 負け惜しみ感たっぷりにそう言う、ラジェルはパチンと指を一つ鳴らしてみせるた。

 先程まで見事な噴水ショーにて活躍していた後、普通の噴水として機能していた広場に等間隔で設置されていた噴水の水が止まり、台の上に不気味な黒いマント達の姿が次々と姿を現した。


「我々<ラジェル戦隊>は、イレイザーによる集団戦特化部隊だ!」


 その数ざっと二十人はいるであろう不気味な黒マントの集団によって既に広場内の包囲が完了しているためか、ラジェルはどうだと言わんばかりの高慢な笑みを浮かべながら、腰に帯びていた銃を抜いた。


「ミリオン・キラーなどと大層な二つ名で呼ばれてのぼせ上っているようだが、これだけの数を相手にしてはどうしようもあるまい!」


 と、言いたかったであろうラジェルののセリフは、途中から「ギャーーー」と言う魂消る悲鳴へと変わって広場に響き渡った。


 瞬時にラジェル元に移動していたセミルの手には、紫がかった白く輝く光の剣が握られていて、ラジェルの手首から先が銃ごと噴水台の下に落ちていき、セミルの足元に転がっていた。


 犯罪者を追うことは、自分の命も常に狙われることで、自分に銃をむけるという明らかな敵対行為にたいして、未来に禍根を残すことは黙って見過ごさないイレイザーの本能的行動であった。


 噴水台の上でのたうち回っっていたラジェルが転げ落ち悲鳴を上げると、それが切っ掛けになったのか、黒マントの集団が一糸乱れぬ統率された動きでセミルへと距離と詰め、躊躇いないレーザー弾が一斉セミルに襲い掛かる。


 セミルは左手に持ったレイバーを水平に構え、右手には黒い巨大なレイガンを肩から背中越しに向けると、その場で一回転、ニ回転と目にも止まらにスピードで回転しながら襲ってきたレーザー弾をレイバーで弾き返す。


 <双頭の龍>(ツインドラゴン)と呼ばれるセミルが使う剣技は、片手のレイガンが龍の吐くブレス、もう一方の手に構えるレイバーが龍の牙を模したと言われる変則二刀流で、イレイザーとなるためには習得することが必須とされていた。


 その中の12奥義と呼ばれる技のひとつ、<龍の鱗>(ドラゴンスケイル)と呼ばれているこの技は、放たれた光弾をレイバーではじき返し、同時に相手の武器をも破壊する攻防一体の技であった。


 更に自分の銃が破壊され同様している黒マント達を、セミルが背中に向けていたレイガンから放たれた光弾が次々と貫いて行き、一瞬のうちに黒マント達は1人を残し石畳に倒れ伏していた。


「ミリオンキラー………噂には聞き及んでいたが、これほどとは………」


 達観したような男の声が響いてきた。


 セミルの放った光弾を、レイバーを全身を覆うような光の盾に変化させて防いでいた黒マントはフードを外すと、歴戦の戦士を思わせる厳つい壮年の男の顔が現れ、状況を確認するように辺りを見回す。


「しかし実に見事なものだ。今のが噂に聞く<見返りドラゴン>であるかな?」


 背中に向けたレイガンが、振り返った龍の首を模したように見えることから<見返りドラゴン>と呼ばれるこの技は、1対多で闘う事を余儀なくされるイレイザーの戦闘において最も有効である筈であるが、ある理由から邪道とされ、ツインドラゴンの流派内では正式には認められておらず、イレイザーの中でもセミルしか使う者がいないとされていた。


「俺の初撃を躱せたことは褒めてやるよ」


 スターライト以外には、ぶっきらぼうで通り一辺倒な言葉しか発しないセミルであったが、何か思うところがあったのか、セミルもフードを外して顔を見せると、アーシェスの気まぐれな風が彼の髪を煽り靡かせ、黒色の髪が光の照り返しで反射し血のような紅色に見えた。


「ほう、やはりブラックルージュであるか。ならば味方に手を上げるのは如何なものかな?」 


「味方だって?笑わせてくれる。それにお前らは<ガーディアン>だろう?」

 

 セミルにすべてを見透かされていることを感じたのか、フッと男は目を伏せ、セミルの言葉を否定も肯定もしない。


 <ガーディアン>とは、<サート>本家または分家の直系または有力な子息達に仕え、自らの身を盾にしてでも主人を守ることを使命とした者達の総称である。


 地球人類が太陽系外に進出して200年の時が過ぎようとしているが、太陽系圏はある事件をきっかけに国や民族の垣根を越え、<ソレイユ恒星系政府>として政治、経済、軍事等の統合を果たしていた。

 そして紆余曲折の後、太陽系外に独立した数々の恒星系政府をまとめ上げて<ソレイユ連邦政府>として地球人類を主体とした統治形態を作り上げたが、統合に多大な功績を示した火星、現在では<惑星マルス>に本家を置く<サート>本家とその五大分家は、ソレイユ連邦政府内において多くの要職をせしめ、連邦内では絶大な発言権を持っていた。


 第五代目サート家当主、<リーナ・サート>が<ソレイユ連邦大統領>だった時代に彼女に仕え、何度もその身を襲った窮地を救ってきた功績から、彼女のボディガードであった<ケナック・ラフサック>が、サート家の五番目の分家を興すことを許されたのが<ラウサート>で、それがガーディアンの起こりであり、白マントで全身を包み、フードを目深に被り素顔を見せないその出で立ちから<白マントのガーディアン>とも呼ばれていた。

 

 その後多発する星間犯罪を撲滅すべく<星間指名手配犯捕獲に関する特別条約>が連邦政府内で制定されると、第六代目サート家当主<エーミ・サート>は<ケナック・ラウサート>にその対策を要請し、<惑星ラフサック>を拠点として犯罪者を狩る闇の集団、白マントに対して<黒マントのイレイザー>を組織し、ラウサートの当主は白黒両方を統べることとなる。


 サート本家または五大分家の直系子息たちは、気分が高揚したり、光の加減で黒髪が違う色に変化する特殊な髪質を遺伝で受け継いでいたが、ケナックがラウサートを興す際にリーナ・サートから<黒血のブラックルージュ>を授かり、ラウサートの直系子息達に受け継がれて行った。

 

 サートの五大分家の残り4つは、<アサート>、<ディサート>、<レサート>、<リオサート>で、ラジェル・レサートも名からしてはレサートの直系のようだが、レサート家直系の髪は<宵闇のブラックオレンジ>で、全体的にオレンジがかった色の髪は、孫分家以降の現れる特徴で、どうせ成り上がりのバカ息子が粋がって<イレイザーごっこ>でもしているのであろうとセミルは予想していたが、中らずと雖も遠からずであった。


「主を守るのは我が使命。<ディゼラ・ルルレ・レサート>が家臣、<バン・ジェンギスト>だ!」


 男は名乗りを上げ、左手にレイガンを腰だめに、右手にのレイバーを顔の横に振り上げ半身で構える。ツインドラゴンの基本形と言われる構えであった


「イレイザーは唯の人殺しだ、名乗る名は無いよ」


 それに対しセミルは、右手の巨大なレイガンを肩に担いで後ろに向け、左手のレイバーを平正眼に構え、見返りドラゴンの構えを変えない。


「そうか、ならば参る!」


 2人はにらみ合いながら徐々に間合いを詰めその距離約3メートルまでに近づくと、バン・ジェンギストがレイガンを3連射しながら前方に飛び一気に間合いを詰める。セミルは光弾を弾き返すとジェンギストのレイガンは破壊されるがレイバーを振り下ろすと、セミルはレイバーを摺り上げるようにしてそれを受ける。


「貰った!」


 ジェンギストは左手に隠し持っていたレイバーを、セミルの胴を真っ二つにするように横殴り振るうが、セミルのレイバーの持ち手の反対側から光の剣が伸び、ジェンギストのレイバーを防いだ。


「<龍の爪>(ドラゴンクロー)まで使うのか!ならば!!」


 12奥義のひとつ<龍の爪>(ドラゴンクロー)は、レイバーが作り出す光の剣の本数や長さを自在に操る技であるが、セミルの場合は左右の手で4本まで光の剣を作ることができた。


 ジェンギストは一瞬溜めると、渾身の前蹴りをセミルに向け放つ。


「やっぱりガーディアンだよね」


 ツインドラゴンの12奥義のひとつ<龍の足踏>(ドラゴンスタンプ)と呼ばれる、光子の塊を足の裏に発生させ蹴る技である。

 先程セミルの光弾を防いでいせた12奥義のひとつ<龍の盾>(ドラゴンシールド)と組み合わせ、対象者を守護するときにガーディアンが良く使う技であるが、セミルはそれを読んでいたようだ。


 セミルはドラゴンクローの手を起点に片手で倒立するように飛び上がると、ジェンギスト体を飛び越えて背後に降りる前に、背中に向けていたレイガンから放たれた光弾がジェンギストの脳天を貫き、ジェンギストは前のめりに倒れたのだった。


 セミルは背後を一瞥して一瞬目を伏せると、中央の噴水に向けて歩き出す。


 丸くなって横たわっている男の脇に立つと、ボールでも蹴るかのようにラジェルの脇腹を思いっきり蹴り上げた。


「ぐるるわあぁぁぁぁぁ!」


 奇妙な絶叫と共に勢い良く五メートルぐらい浮かび上がり、着地しても勢いは止まらずに、広場をゴロゴロと転がって行きそのまま広場を飛び出しそうな勢いであったが、先回りをしたセミルがラジェルの進行方向上の石畳にレイバーを突き立てると、接触する寸前でラジェルは急停止した。


「危ないじゃないかこんな物置いて!当たったらどうするんだ!」


 起き上がり様に文句を言うラジェルの後頭部を間髪を入れずにセミルは踏みつけ、顔面を石畳に押し付けた。


「おまえ………部下達が闘っているときに死んだ振りしてたろ………」


 セミルの髪は赤黒く染まり、目尻から血の涙が流れていたがその言葉には抑揚はなく、感情というものが感じられらなかった。


 目の前に突き付けられたレイバーにラジェルは青くなりながら、声か出せなかったため身振り手振りで必死に何かを伝えようとしていたみたいだったが、セミルはそれを無視した。


「くそ爺にそそのかされてのこのこやってきたんだろうが………さっさと必要なものを出しな」


 ラジェルは片手を空中で何か規則的に振ると、空中に十五センチ四方の扉が現れ開いた。


 〈空間ボックス〉と呼ばれるそれは、無機物の物をしまっておくことができるもので、何処でも自在取り出し格納することができるが、セミルはそこから金属のケースを取り出すと蓋を開けた。

 中にはチョコレートのようなものが三つ並んで納まっていたが、その中から一番右の、一番色の濃い苦そうな物をつまみ上げると口に入れた。


 凝縮された情報が、食べるだけで全て脳内に記憶される〈伝令チョコレート〉は、唾液の持つ遺伝子情報で反応するため秘匿性が高く、機密事項の伝達に良く使われる物だが、通常色が濃くて苦い方が秘匿度が高いとされていた。


「ふーん。ガッジェラ・サーベイジェスがトライセルマに………」


 セミルはチョコレートを口の中で転がしながらそう呟いた。


「お前は生かしておいてやるから、帰ってセルヴィスのくそ爺に伝えろ。俺を殺したいなら三下を束で寄越すんじゃ無くて、三強を寄越せとな」


セミルはラジェルの後頭部を踏みつけている脚に力を加えると、足下の石畳のブロックが砕けラジェルの顔面がめり込み、口から泡を吹き彼はは失神してしまった。


 鳴り響くサイレンが広場に近づいてくるのがやっと聞こえてきたが、セミルにはもうこの場所には留まる理由が無いのか、広場を出ると元来た道を引き返して行った。  

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