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君と2人で夢見た未来  作者: 大森パスタ
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2.ミリオンキラー

「何をしてるかぁ!奴を殺せ!!」


 悲鳴のようなサーベイジェスの檄が飛ぶが、それよりも早く重装甲起動歩兵部隊は黒マントを再び取り囲む陣形を取るべく動き出していた。


 重装甲起動歩兵とは、主に拠点の占領、防衛、対人制圧などを主任務とした戦車の代りとして連邦宇宙軍で採用されている機動兵器で、対人戦闘ではスピード、パワー、装甲、火力の全てにおいて、圧倒的に人間を凌駕するものであった。


 3個小隊もあれば、10万人規模の都市を占領するのに半日もかからない程のものであるのだが、黒マントはその重装甲機動歩兵をスピードで翻弄し、脇をすり抜け様にマントの中から伸びた光の剣で、重装甲機動歩兵の分厚い装甲を易々と両断する。


「そんなね馬鹿な!あり得ん、こんなことが信じられるかぁ………」


 一機また一機と、目の前で自慢の重装甲機動歩兵が両断され爆発炎上していく様を、口をあんぐりと開け、呆然と見ているだけのサーベイジェスであった。


 サーベイジェス親衛隊は接近戦闘用陣形へと展開し、同士討ちを避けるため銃からビームセイバーに武器を換装していたが、黒マントの振るう光の剣はそれらをものともせず、ビームセイバーごと重装甲機動歩兵を両断し、反撃する機会も与えてもらえない。


 20機以上もあった重装甲機動歩兵がスクラップと化し、立ち上る黒煙の中から悠然と現れた黒マントは、尻もちをついて怯えているサーベイジェスに向かってゆっくりと歩いて近づく。


 全身を覆った艶消しの黒マントのフードを跳ね上げると、先程の黒マントの少年と顔は同一人物のように思えたが、漆黒だった髪と瞳の色が血のような赤い色に変わり、頬を血の涙が伝い流れ落ちていた。


「ひぃぃぃぃっ、本物のミリオンキラーだぁぁぁぁぁ!!」


 サーベイジェスは血の色をした髪を指差しながらそう叫び、顔面蒼白となった。


 かつて惑星エバーストールにて大陸を一つ時空の彼方に沈め、百万人の命を一瞬にして奪ったイレイザーに付けられた二つ名が〈ミリオンキラー〉であったが、〈エバーストールの悲劇〉と呼ばれたその事件は広く世間一般にも知れ渡っていた。

 ミリオンキラーが起こしたと言われる大量虐殺事件は、公式に認められているものだけでもまだ幾つもあり、現存するイレイザーの中で最凶最悪として広く恐れられていた。


 余談であるが、その後惑星エバーストールは人が住むことができない惑星となり、4億人以上の住民が他の地への移住を余儀なくされたという。


「おっおっお前ら、なっなっ何とかしろ!」


 サーベイジェスの背後に控えていた残り3機の重装甲機動歩兵が、黒マントと向かい合うように出ると、迫ってくる黒マントに向かいレーザーガンを乱射するが、黒マントが光の剣を横に一閃薙ぎ払うと、自分たちが放ったレーザーが弾き返され撃った銃を破壊した。


「*&^%$#@!」


 言葉にならないサーベイジェスを尻目に、黒マントは瞬時に3機の機動歩兵を斬り伏せると爆発が起き、それに巻き込まれたサーベイジェスは凍てついた大地を再び転がり回った。


 潰れた蛙のように大地にへばりついたサーベイジェスが顔を上げると、黒い銃身が合わせるように再び突き付けられた。


「機動歩兵を時空間転送するなんて、中々楽しませてくれるよ………」


 覗き込んだ無表情な顔の、赤く潤んだ瞳から滴り落ちる血の涙がサーベイジェスを濡らす。


「次は何をして楽しませてくれるのかな………?」


 感情の籠もっていない棒読みのようなセリフに、絶望的な顔をしていたサーベイジェスであったが、何かを閃いたかのように急にニヤリと笑った。


「俺だ!今すぐそっちへ転送しろ!」

 

 独り言でなく、誰かに命令する口調でサーベイジェスは、勝ち誇ったようにそう言った。


「早くしろ!何してる、聞いているのか!!」


 何度も口汚く叫び続けたが反応が無く、最後は懇願するように泣き叫んでいた。


 機動歩兵を送って来た宇宙空間上の母艦に、自分を空間転送をさせこの場を逃げおおせるつもりでいたようだが宛が外れたようで、状況は何ひとつ変わることは無かった。


「無駄だよ、スターライトに手をだしたら、無事ではいられない………」


 突如上空に出現した幾つもの巨大な火の玉は、隕石などではない人工物であることは明らかであったが、燃え尽きる事無く地面に激突し大地を大きく揺らすと、サーベイジェスは堪えきれずに飛ばされて、三度凍てついた大地を転がった。


「エイストやギャッツだけでなく、ギーボやザラエまで………この人殺し、人でなしめ!てめえは一体何人殺せば気が済む………ぐっ!」


「………?」


 マフィアの首領としてだけではなく、自身も多くの他人を殺めていることを棚に上げた言い草であったが、急に胸元を掻きむしりだした。


 胸元で輝いていた〈完全空気防御膜〉のインジケーターが緑から赤へと変わっていて、異変を知らせていた。

 普通では故障などありえないものであるため、先程から何度も凍てついた大地を転がった為壊れたのであろうか。

 

 惑星ぜノーラの過酷な環境下では、脆弱な人間は身を守る術がなければ10分も持たず、命を永らえない。

 

 黒マントは無表情のままであったが、興味を無くしたように銃をマントの中にしまうと、踵を返して歩きだした。


「舐めるな、この餓鬼!」


 サーベイジェスが拳を突きつけると、指輪から発射されたビームが黒マントに向けて放たれたが、振り返った黒マントの手には光の剣が握られていて、サーベイジェスの頭が吹き飛んでいた。




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